皇子ではなく魔塔主の息子だった俺の逃走計画

春暮某乃

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本編

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 ノヴァは目を覚ました。そこは見慣れた天井で自室のベッドの上でうっすらと開けた視界はどこか霞んで見える。

「ッ痛って。っ、ゴホッゴホッ」

 ノヴァはのそりと起き上がったが強烈な頭痛がして、手でこめかみを抑えた。おまけにひどい咳もでた。

 今日で3日目だった。

 シゼルが現れた日、あのあとノヴァは熱を出した。目を覚ましたときには、シゼルは『近いうちにまた来る』それだけの短いメモだけを置いていなくなっていた。
 そしてノヴァは目を覚ますと、服を着てベッドの上に寝かされ、冷たい濡れタオルを額に乗せられていた。

 目を覚ました時、瞬時に熱が出ているんだと自分で理解できるほど、ノヴァの体は熱を持ち、熱が出たとき特有の関節の痛みがあった。それに加えて、ふわふわと頭が揺れる感覚も。

 ほとんど食べることもできず、必要最低限以外はベッドに張り付いていたノヴァは、3日目にしてなんとか熱が下がった。

 とは言っても、微熱はあるのでまだ安静が必要だ。

「ノヴァ様、お水の替えとお食事をお持ちしました」

 ノック音が聞こえたので返事をすれば、「失礼します。」とメイドの声と、ワゴンのキャスターの転がる音が聞こえた。

 ベッドの天蓋を下げているので、薄いの布越しにメイドが動いている影が見えている。ノヴァはそれを横目にもう一度布団に潜った。

 コト、コトと物を入れ替える音と、食事の良い匂いが漂ってくる。

 はぁ、だるい…。動かないしあんまお腹すかないな。
 喉は痛いし、頭はぼーっとする。

 そもそも、なんでこんな辛い目に。

 そう思うと、ノヴァの頭の中にお風呂場での出来事が一気に蘇った。

「ッ!!」

 あああ!忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ。

 無理無理!しんど。最悪すぎる。

 ノヴァは頭を抱えて声にならない叫びが出そうになったが、メイドがいたことを思い出して、すぐに口を閉じた。

 あんなの思い出したくもねぇ!

 そんなことを思いながらも、ここ数日、ふとした時に思い出してしまい悶えているノヴァだった。

 あー!もうガチで最悪!

 心の中で叫び続けるノヴァだったが、いつの間にかメイドは出て行っていて、すでに部屋にはいなかった。






 食べれるだけ食事を済ませて、汗をかいた体をタオルで拭いた。そして、汗をかいたので着替えて再びベッドの上に戻る。

「んー、」
 
 ノヴァはベットの上で首を回したりしながら、寝過ぎて固まった体をほぐす。

「昨日よりマシになったか」

 昨日、一昨日に比べて調子がいいからか思考もはっきりしている。熱のせいか、ノヴァはいつもに増して独り言が多くなっていたが。

「あいつがあんなことしたから」

 ノヴァは怒っていた。

 熱くなりすぎると頭が痛くなるので、控えめにはしようとはしているが、思い出すと沸々と怒りが湧く。

 体調が元々悪かったかもしれないのもあるけど、あんなことしたくせに、そのせいで熱を出したかもしれない人間に置き手紙だけして帰るとかあんまりじゃないか?

 …顔は合わせたいわけではないけど、なんなんだ。

 自分が名前を呼んでしまったから来たと言っても、ノリノリ(そんなことはない)で××ピー××して××ピー××して、嫌がってもやめないとか鬼畜すぎんだろ。

 クソ、

「来んな、バカアホ人手なし」

「彫刻の顔なんて見たくねぇよ」

 ノヴァは枕をサンドバッグにしながら、シゼルに対しての暴言を吐いて少しでもストレスを発散していた。

 コンコンッ。

 再び部屋をノックする音が聞こえて、ノヴァはぴたりと手を止めた。

「……入ってくれ」

 ふぅ、と一度呼吸をして整えてから返事をした。

「明日、リヒト様がお見舞いに来られるそうです。お手紙もお預かりしました。」

 誰かと思えば執事長だった。
 執事はそれだけ言うと、ベッドサイドにある小テーブルに手紙を置くと部屋を出て行った。





 …え、まじ?


 ベッドから腕だけ出してそれを取ると、ノヴァはゆっくりと開いた。


『ノヴァへ

かなり重い風邪を引いたと聞いたよ。次の朝食会は欠席と連絡が入っていたから、相当酷いみたいだけど大丈夫?

この間、本当に申し訳ないことした。無理させて体調にも出てしまったのではないかと思って、やってしまったことについて本当に深く反省している。

薬を盛られたことを言い訳にはしない。
ノヴァを傷つけてしまったことには変わらないから。
取り返しのつかないことをした。本当にごめんなさい。

ノヴァが好きなものを持って明日、顔を出しに行くね。』

 そう綴られていた。




 いや、そうなんだよ。

 俺、兄様ともいろいろあったんだよな…。

 ノヴァの頭の中は人間関係の忙しさで瀕死状態だった。ここ最近の出来事をさっと思い出してそんなことを思う。

 リヒトのことは嫌いではない。けれど、一緒に過ごすことが多くなる前は正直得意ではなかった。

 しかし、最近はそう思うことも少なくなりつつあったが、この間のことがあって顔を合わせる気が起きないのも事実。

 リヒト兄様は、手紙の文章からもかなり自分を責めている感じがするな、とノヴァは感じた。だから、変に断るわけにもいかない。

「はぁぁぁぁぁぁ。」




 腹を括るか、とノヴァ長いため息をついて自分に喝を入れた。









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