皇子ではなく魔塔主の息子だった俺の逃走計画

春暮某乃

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 朝になり出かけようと準備をしていたとき、ふと、立ちくらみがして視界が霞んだ。

 ノヴァは近くにあった机に手をかけて、頭を抑える。なんだか、頭も痛い気がする。

 …もしかして体調崩したか?

 いいや、気のせいだ。

 ノヴァは、風邪なんてほとんど引いたことのなかったので、最近の疲れが溜まりすぎているせいだろうと自分に言い聞かせた。

 市場に行ったら美味しいものでも食べようか。

 そんなことを思いながら、魔術師から貰った飴玉を奥歯で噛み砕いた。







 うわ、でけぇ。

 ノヴァは大きな建物の扉を見上げていた。皇宮に比べれば当たり前だが小さい。しかし、ここは街にある建物で、この周りにある建物に比べて横にも縦にも倍以上の大きさがある。

 思わずノヴァも見上げてしまった。
 そう、ここは商業ギルドの本部だ。外から見た感じだと3階建てで、凹凸がはっきりとした美しい建築だ。ギルドは他の街だと本部に比べれば小さいが拠点がある。機能的にはこの本部と大体同じだ。

「入るか」

 ノヴァは目の前の扉を開けた。

 人多っ!
 まあ、時間的にも混むのかもしれない。それにしても、いろんな人がいるな。

 他国の者だろう。服装がこの辺りでは見かけないものが多くいる。
 ノヴァは入り口付近でキョロキョロと辺りを見回していたが、目的は違う。

 これどこいったらいいんだ。

「いらっしゃいませ。ご用件はなんでしょうか」

「あ、新規のギルド登録なんですけど、、」

 誰かに話しかけようと思い歩こうとすれば、ちょうどよくギルドの人間らしい腕に書類を抱えた女性が通りかかり声をかけてくれた。

「初めましての方ですね!では、こちらの1番の方へお並びくださいっ」

「ありがとうございます」

 女性は元気よく受付の方へ案内してくれた。
 ノヴァはお礼を言ってその場を離れ言われた通りに受付へ並んだ。
 新規の登録はあまりいないのか、1番の受付は別の列に比べて人が少ない。

 いないわけではないので気長に待つか。

 受付は2、3番もあった。そちらは登録した者向けっぽいが、報酬とかの受け取りの窓口だったりするのだろうか。

 商業ギルドは依頼をギルドを通して契約をして仕事を受けることができる。その逆も然りで、短期間などで依頼を出す者もいる。ギルドはその仲介役である。金銭トラブルや依頼内容の詐欺が起こらないようにするためにも信頼されている。

 ノヴァのようにお店を建てるためにいろいろお話しすることもできるけれど。ノヴァはどちらかと言えば、依頼を出す方で考えている。

 年齢性別問わず、いろんな人がいるなと室内を見ながら考えていれば、ノヴァの番が回ってきた。

「次の方~」

「はい」

 返事をして前に進んだ。受付のカウンターには20代半ばくらいのお姉さん女性がいた。

「登録ありがとうございます。ではまず最初にこちらに手を置いて下さい」

 そうして指をさされたのは透明な四角い形をした石だった。それは厚みのある板のようで、何かわからないまま言われた通りノヴァは手を置いた。

「!」

 ノヴァは手を置いて驚いた。その石が薄紫色に染まっていったのだ。

「すみません。少しお待ちください」

 ノヴァはただ感心してそれを眺めていたが、受付の女性はそれを見て少し眉を寄せるとそう言って席を外した。

 え?俺、なんかした?

 何もわからずノヴァはその場で佇んでいた。気のせいかもしれないが、女性は紫の光を見て不快そうな表情をしていた。

 何かあるのだろうか。

 しばらくすれば、受付の女性は赤髪の中年筋肉質のガタイの男性と共に帰ってきた。

「この方です」

「了解。君、少し他の部屋で話そうか」

 男性はニコッとノヴァに話しかけた。頭を掻きながら苦笑いという感じだ。ノヴァは少し背筋が伸びた。何もやっていないのに、悪いことをしてしまったのではとそう思ってしまうような。

「あ、はい」

 ノヴァは断ることもできず、そのまま男性の後を追った。

「あの、俺が何かしてしまったんでしょうか」

「ああ、気にしないで。たまにあることだから。良くも悪くも、ね」

「はぁ」

 黙々と歩く男性の後ろ姿にノヴァは声をかけた。そうすれば、含みのある返答が返ってくる。

「俺はラッドだ。お前の名前は今は言わなくていい。個室に入ったら教えてくれ」

「よろしくお願いします。ラッドさん」

 色々とあるらしい。ノヴァは察してラッドの言う通りに頷いた。

 受付を離れて依頼が張られる広場を抜け、個室が並ぶエリアにきた。

 その一室にラッドは入った。ノヴァもそのまま中へ入る。

 その部屋は、窓一つと小さめの応接室のような場所だった。ソファと机、小さめの棚のみという簡素な部屋だ。

 





  
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