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本編
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しおりを挟む目を覚ましていきなり、昨日の深い緑の髪の青年が目の前にいた。
思わず驚きで声が出たノヴァは眠気が一気に飛んでいった。
なにかのドッキリかよと突っ込みたくなったが、そんな暇もなく…。
体を起こすだけでベッドから降りずに、昨日のことを根掘り葉掘り聞かれていた。
しかも話し出してしばらくすれば、いつのまにか昨日のピンクブロンドの少女も話に加わっていた。
ノヴァは、借りてきた猫状態だ。
ちなみに、シゼルは起きてから姿は見えない。どこかに行っているのだろうか。
「何その魔法!?いいなー体験してみたーい」
「主、すごい」
そして、2人が興味あるのはノヴァではなく、シゼルの使った魔法のようだった。話の食いつき具合が全く違う。
なんか悔しい。
「魔法って難しさあるんですか」
その勢いにたじたじになるノヴァだが、全く知らない世界なので話を聞いていると疑問が次々湧いてくる。
「あるよ~!君にかかってた魔法はね、ただの転移魔法じゃないよ。そもそも、転移魔法は魔術師が自分自身に使うものであって、他のものや人も一緒にとなれば触れたりすることが前提とされるんだ。それなのに触れてない他人、ノーマルにも使えるなんてどうなってんだって話よ。
それもすごいんだけど、発動条件が攻撃、しかも悪意のあるものだと判断されたときに発動するとかもう!どれだけの技術があるか!!」
ただちょっとした疑問だったのに、こちらに乗り上げる勢いで青年が早口で捲し立てる。
と、とりあえず、めちゃくちゃすごいってことはわかった。
それからしばらくは、シゼルの凄さを熱弁されていた。ノヴァは、熱量に押されて無言で話を聞きながら時々首を縦に振り肯定するしかなかった。
笑みが若干引き攣りぎみだったが青年たちは気にして無さそうだ。
「そういえばなんで君命狙われてるわけ?」
「…少し色々ありまして」
突然話の矛先がノヴァにかわった。どう返すのかが正解なのか分らないノヴァは言葉を濁す。
この感じ、あいつは俺のこと話してなさそうだよな。
まあ、話しても面倒だろうし、話さない方が無難か。
そんなことを思う。
「へ~、そっか!じゃあ、このまま依頼続けるの?ていうか、シゼル様に依頼してよく断られなかったね。」
思ったより興味のあることではなかったらしくそれ以上聞かれることはなかった。
「魔法の対価何あげたの?」
「へ、?」
しかし、話が全く予想していない方へ流れていきノヴァは困惑する。
「魔法の対価…」
『お前の血をくれ』『報酬は金貨20でどうだ』
『これはおまけだ』
あのときのシゼルが言った言葉が頭の中に浮かんで、ノヴァは2人がその質問をした理由を理解した。
あー、なるほどね。
そもそもあの魔法は俺が血をあげたおまけだったけど、2人からすればそれが俺が依頼した側だと思われているのか。
まあ、それはそうか。シゼルという魔塔主は話を聞いただけでも規格外の人間だと分かったからな。
誰もシゼルがそこら辺にいる少年に依頼をするとは思えないだろう。
「そうですね…。その辺は少し話しづらいですかね」
「そっかぁ。まあ、それなら仕方ないね」
実際話しづらかったので、その通りに伝えれば意外にも青年はあっさりと引いた。
先ほどから少し意外だ。
かなりグイグイくる人たちだと思っていたのに。
それよりも、2人が俺が依頼していると思っているならこれはいい機会だ。
2人が勘違いしているのを利用してうまく知りたいことを教えてもらえそうだ。
「あの、依頼を続けるってなると報酬ってどれくらい必要だと思いますか」
「えー、そうだなあ。昨日君が来たとき、シゼル様が『こんなに早くくるとは』って言ってたし、あの魔法がすぐに使われるとは思ってなかったってことだ。だから、同じ依頼ももう一度するなら、一回分の依頼の対価減らしてくれそうだけどな~。」
緑髪の青年は、うーんと首を傾げながらそんなことを話す。そしてノヴァはもう一つ聞いた。
「なるほど。ちなみに、ただの興味なんですけど対価は何を渡すことが多いんですか」
「お金じゃないもの。」
次はピンクブロンドの少女が答えてくれた。
「たとえば…?」
「金属、宝石、実験体、血液、魔獣のツノ、とか魔術師が求めてるものによる。人によってかなり違う」
え、なんかやばいものも含まれてたけど。聞き間違いじゃないよね?
「…な、なぜお金を取らないんですか?」
「お金を対価にする魔術師ももちろんいるよ。けど、ここに住む魔術師達は、一部成果を報告することでシゼル様から毎月一定のお金を貰えるからね~。」
「わざわざ必要いらない。」
「そうそう。だから、ノーマルからの依頼だと対価に研究するためとか、鍛えるための素材が欲しいってわけ。自分でとりにいく手間省けるし?」
それを聞いてノヴァは納得した。そして、ほっとした。
お金はないけど、あげられるものはありそうだ。
「もしかしてシゼル様だと対価高いし、他の魔術師に依頼したいとか?!ねね、僕はどう!?」
ふむ、と何かを納得している様子のノヴァをみて何を思ったのか青年は目を輝かせてノヴァとの距離を詰めた。
「えっと、、」
距離ちか…。
「私は入室許可を出した覚えはないぞ」
「おっと、シゼル様おはようございます~」
「主、おはようございます」
青年の扱いに困っていれば、部屋の主人が音もなく現れた。急な登場にノヴァは目を驚いて目を見開いた。
「えーだって、明日来いって言ったじゃ~ん」
「言った」
シゼルが無表情でただそこにいるだけで圧があるのに、二人は特別驚く様子もない。むしろ、駄々をこねているようにも見える。
「ノース、アリス。朝飯を食べてから出直せ」
「はーい」
「わかった」
今になって2人の名前を知ったけれど、2人は昨日のようにそのまま姿を消した。
普段からああいったやりとりをしているのだろうか。シゼルの2人の扱いが、慣れているなと思った。
ノヴァはそれを見て無意識のうちに拳を固く握っていまっていた。
…。
あれ今、俺は何を思った?
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