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本編

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「あれ、なんで寝て…」

「起きたか。報酬だが、金貨20でどうだ」

 目を開けて、最初に聞いた男の声でここがどこなのか思い出した。

 …わからないけど、金貨か、めちゃくちゃ多いことはわかる。

 いや、てか人が起きて最初にそれいうのかよ。まあいいけど。

「それでいい。」

 承諾すれば、袋に入った金貨をこちらに差し出してきた。それを受け取ればその重さに腕が布団の上に落ちる。

 重っ、

「あ、でも血をとってる途中で倒れたから」

 こんなに貰えない…そう言いたかったが、

「それなら問題ない。お前が寝ている間に採った」

 ああ、はい。そうですか。

 迷惑をかけたことに罪悪感があったが、それを聞いて吹き飛んだ。この男が何をやっても驚かないような気がしてきた。

「それと、これはおまけだ。」

「んわ、ぁっ、」

 何が?そう思うより先に、身体ににゾクっとした何かが駆けた。ジンジンとした身体の痺れに、ピクリと背筋が伸びた。

 無痛になる魔法をかけられたときより、刺激が強い気がする。

 何したんだ?…あれ、さっきより身体が軽い気がする。

 不思議に思っていたが、はっと男を見た。魔法をかけられたのだろうとノヴァは納得した。
 
 っほんとにこいつは、言ってから行動が早すぎるんだよ。せっかちが。

 急に魔法をかけられると変な声出ることに目の前の男を恨んだ。

「…稀に魔力に敏感な魔法を使えない人間ノーマルがいると聞いたが、お前はそのようだな。安心しろ、別に体に害はない。」

 さらっと言い退ける男は、全く気にしておらず俺が一方的に恥ずかしがっている図になっているのがさらにむかつく。

 俺が魔力を受けて気持ちよ…変な感じがするのはただの体質。それがわかったのは救いでもあった。
 …魔力が性的なものに繋がるなんてただの変態ではないか。

 ノヴァは、赤くなった顔をごまかすようにわざとらしく咳をして、話を逸らすように気になっていたことを聞いた。

「それより、あんたの名前知らない。あと何者?魔術師?」

 それを言えば男は、あれ?言わなかったか、ときょとんとした顔をしたあとに口を開いた。

「私の名前はシゼルだ。そして、魔術師で魔塔主だ。」

「へ、、」

 考えつきもしない最後に言った単語が頭の中でぐるぐると巡った。

 そして、

「まじかよ」

「嘘をついてどうする。」

 いや、そうですよね。

「魔、塔主…。」

「なんだ信じられないのか?ここは塔の最上階だぞ」

 単語を往復したノヴァに、シゼルは白いカーテンがかかっている窓を親指で差した。

 全く気にしていなかった外の景色は、白いレースのカーテンを凝らしてみれば青い空の色が広がっている。

 ノヴァは、恐る恐るベッドから這い出て窓に近づくとカーテンをめくった。

「っ!!」

 あれ、この白いのって…雲?

「すご…」

「窓を開けるといい。」

 感動していたらすぐ真上で声が聞こえたと思うと、後ろから手が伸びてきた。すぐ近くでシゼルの体温を感じる。

 近くね?

 驚いて固まっていると窓が開いた。
 涼しい風と気持ち良い空気が入ってくる。

「見てみろ」

 ノヴァは、言われるまま窓の外を覗いた。シゼルの腕が落ちないように胴体に腕が回っているが、ノヴァは気にしていなかった。

 すごい…!

 塔と聞くから、前世の高層ビル一棟とイメージしていたけれど、街みたいだ。

 今いる塔が一番大きくて周りに囲むように大きい塔が四つ建っている。そして、その周りに大きめの建物がいくつも建っていた。この建物は全て空中に浮いていた。

「塔って一つじゃないんだな」

「魔術師にも種類がある。主に攻撃や剣などを得意とする魔術師、魔薬や治癒を得意とする魔術師、精霊や魔物などを使役する魔術師、魔道具の研究を得意とする魔術師の四つに分かれる。それが周りにある塔に分かれている。塔の間にある建物は図書館、魔獣舎、訓練場などの施設だ。」

「へぇ。この一番高い塔は?」

 シゼルの説明にノヴァはただ関心していた。
 皇族が住む城のようなものだろうか。魔塔主が一人で住んでんのか?

「魔術師には階位があり、ここは魔塔主と上位12名の魔術師が住む塔だ。大体他人に興味のない変人の集まりだがな」

 そうシゼルは言った。

 …それ、ジョーク?笑ったほうがいいやつ?そうじゃなければ、自分も変人って言ってるってことで良さそう?

 そう色々喉まで出かけたが、どうにか飲み込んで口をつぐんだ。

 どうであれ、魔術師に種類も階位なんてものもあるとは初耳だった。

「あんたの部屋はこの階だけなのか?」

「随分、魔術師に興味があるようだな。」

「別にねぇよ、っ、」

 ただの疑問だったのに、思ってもいなかった反応を返されて思わず振り返った。

 そうすれば、すぐ近くにシゼルの顔があった。窓から入ってくる光でシゼルの金髪はキラキラと輝いていた。

「近い、どけ」

 なんで腕がここにあるんだよ。

 自分の腰に回る腕を剥がして、シゼルを胸を押して離れるように言った。
 そうすればあっさりと離れるシゼル。

「まあいい、そろそろ帰らないと怒られるだろう。送ろう」

 そう言われて時間がかなり過ぎていることに気がついた。こっそり抜け出してきたのに、帰りが遅くなりすぎるとまた小言を言われる。

「ああ、帰る」

 ノヴァは、金貨の入った袋を手に持つとシゼルに近づいた。

「できれば離れに近いところに送ってくれないか」
 
 シゼルに会った場所に帰されては、確定で帰りが遅くなり執事にバレる。

「別にお前の部屋でも可能だが」

「…ならそこがいい」

 思ってもなかったシゼルの提案に、ノヴァは首を縦に振りづらかったが、ここはプライドよりもバレない方を選んだ。

「ああ、わかった。行くぞ」

 そうしてシゼルは、来た時とは全く変わってノヴァの肩を抱くと周りが光に包まれた。

 目を開けた時にはノヴァは、薄暗くなった部屋に一人で立っていた。

 そこにはもう、シゼルの姿はなかった。
 静かで人の気配のない部屋になんだか寂しさを感じたノヴァだった。


 

 ——————もう会えないのだろうか。


 初めて会話をした血のつながっているはずの父。自己中で、強引なところが多かったが、結局はノヴァが今一番困っていたことを解決してくれた。

 そして、皇宮でずっと息を殺して目立たないよう、無害であると常にアピールするために猫を被っていたノヴァのそれを剥がして自然体で話をした人物。

「なんなんだよ。どうして、俺をっ」

 そのことに気がついたら、今度は悲しくなった。
 あいつが俺を捨てなければ、もっと俺は自由に生きられていたかもしれないのにっ。

 悔しくて、やるせない。
 そんな気持ちがノヴァに残った。

「ノヴァ様、夕食のお時間です。」

 ノック音と共に響いた執事の声は、今のノヴァを虚しくされるだけだった。


 
 

 

 



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