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本編

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「私生児にしてはあの方と似ている部分一切ないわよ」

「しっ、いくらここが離れだからってあの方を話題に出せば首が飛ぶわ」

 廊下を歩いていれば、コソコソと話す声が聞こえた。

 少年は角を曲がる前にそれに気がついて足を止めた。昔からこうやって陰で何かを言われることが多かったからか、人の声や目線に敏感だった。

 とはいっても、慣れっこなので、聞こえてきたからといって気にはしないけれど。

 くるりと、来た道へ方向転換をして別ルートで自分の部屋に戻ることにした。

 少年はノヴァ•サンセント帝国の第二皇子となっている。しかし、私生児として有名である。

 ノヴァは今年は15歳になる歳だ。身長はまだ伸び盛りであと少しで170cmに届きそうだ。容姿は薄茶の髪に蜂蜜のような瞳をしていた。

 自分で言うのもあれだが、客観的に見て顔は整っていると思う。



 
 皇帝は第三夫人まで迎えているが、皇后には第一皇子、第二夫人には皇女が二人、第三夫人は体が弱く子はいない。

 俺は皇族として数えられてはいるが、ほぼいないようなものである。その証に、この古い小さな離宮に入れられている。

 しかし、俺は知っている。この対応になっている理由を。
 そして、俺は皇帝とは血がのつながりは一切ないことを。

 なぜなら、この体に転生したからだ。

 前世の記憶と言っていいのか俺には産まれた時からニホンで過ごした記憶があった。記憶とはいっても25で死んだのでそこまで多くはないけれど。

 また、つまり、それなりに大人の思考を持っているので、皇族の中での勢力やらで大人の事情っていうものがあるんだなと薄々と理解している。

 もう一つ血のつながらないというのは、憑依の影響か赤ちゃんの頃の記憶があるからだ。

 赤ちゃんから5歳くらいまでは、自分の意識だけれど、どこかずっと夢の中にいるようなふわふわした感覚で全てを見ていた。
 感覚的にはもう1人の幼い自分がいたような、そんな感じだ。
 だから、全て覚えていると言うわけではないが、普通に比べて覚えていると思う程度だ。


 初めて見た光景は、自分の父である人物の顔だ。

 透き通るような白髪に近い金髪に蜂蜜のような琥珀色の深い瞳をした、彫刻のように顔の整った年齢不詳の男だった。

 そいつは、俺をじっと見つめて言った。

「失敗だな」

 感情も何もなく抑揚のない声でそれだけ言うと、すぐに背を向けて部屋から出ていった。



 そして、記憶が残っている中で次に目を覚ますと、何やら言い争う声が聞こえた。

「ふざけているのか。メアリーがどんな思いで、お前を追いかけたのかっ」

「それは私に関係ないだろう」

 初めて聞く男の人の声と、実父である男の声だった。声を荒げていたのは前者の男だった。実父はこの間と同じように抑揚のない声で返していた。

「だとしても、この子はお前と血の繋がっている息子だろう。育てる義務はあるんだ。わかっているか」

「ああわかっている。…無理ならば部下にやらせる」

「そういうことじゃない!」

 男は声をさらに荒げた。そうすれば、その場がシーンと静まり返った。

「…そこまで言うならお前が育てればいいだろう」

 けれど、少しの間のあと実父はそう言った。

 この会話は俺のことを話しているんだとわかって聞いていたが、産まれて間もなく実父にこんなことを言われるなんて誰が予想できたか。

「わかった。この子は私が育てよう」

 そう言った男はベビーカゴを上から覗いてきた。銀髪に深い赤い瞳。それは、皇帝だった。

 そっと俺を抱き上げてあやすように揺らした。

「悪いな。声を荒げて、ゆっくりお休み」

 そう言われると俺はどんどん意識が遠くなっていくのを感じた。

「可愛い子よ、名前はなんていうんだ?」

「ノヴァ」

「…ノヴァ、か。君は俺が代わりに育てるからな」

 答えられない、そう思ったけれど実父の声がした気がした。そっか、名前はつけてくれたんだ。

 




 と、そんな経緯があって皇帝に拾われ、俺は皇族に入ることになった。
 表向きは皇帝の婚外子として。この事実はおそらく皇帝と実父しか知らないことになっている。

 俺が知っているとは思ってもいないだろう。

 実父が皇帝とどんな関係なのかわからない。この帝国の頂点とタメ口を聞けるほど高位なのか、という憶測しかできない。赤ん坊のあのときにしか会っていないし、皇帝からは何も聞くことはできないので疑問は深まるばかりだった。


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