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8.本当の私は……
しおりを挟む唖然とする私をよそに微動だにしない正宗君。抱きしめられているから表情は分からないけれど、絶対に引かれたことは間違いない。
はじめて向かい合ってしたハグがこんなに気まずいものになるなんて最悪だ。
正宗君はふぅーと息を吸うと、一言、気まずそうに「すまない」と謝った。
「勝手に彩のプライベートな部分を見てしまって」
「……正宗君。引いてないの?」
「動揺はしている……けど、女性にだってそういう欲は普通にあるものだろう」
私は硬直している正宗君の視線の先にあるものを見てしまった。
それはセフレとのセックスのために買っておいた使いかけのコンドーム。
バラバラのサイズに、封が開かれているもの……
何も言わなくても誰だってその意味は分かるはずだ。
(……正直に全てを話そう)
どう言い繕っても逆に正宗君を傷つけるだけだ。
「……私、処女じゃないんだよ」
「彩……?」
「彼氏がいなかったのは本当。でも、私は性欲が強すぎて自分ではどうにもできなかったから体だけの繋がりを色んな人と持っていたの。正宗君と付き合うと決めた時にその人達とは縁を切ったけど……」
正宗君はさすがにショックを受けているのか何も言葉を発さない。
「……私、最初はね。自分の勝手に巻き込んで相手を傷つけるくらいなら恋人はいらないと思ってたの。正宗君に告白された時も友達のままでいようと思っていた」
私は正宗君の顔を直視できず下を向く。自分の彼女の本当の顔を知って、正宗君は今、どんな顔をしているんだろう。
軽蔑?それとも哀憫?
そんな顔を正宗君が私に向けていると思ったら怖くてできなかった。
「でも、正宗君と付き合うことになって、正宗君と話して、手を繋いで、そうやってお互いのことを知っていくうちに正宗君のことを心から好きになった。でも、好きになるごとに私は正宗君のことを騙しているんじゃないかってずっと不安で悩んでて……」
私の視界がぼやけたかと思うと、ボロボロと熱い涙が溢れ始める。
「3ヶ月も好きな人が側にいるのにエッチもできなくて、私、ずっと欲求不満だったの。……最低だよね。ほら、だから言ったでしょ?私は正宗君が思っているような人間じゃないって」
床に散らばったとある小説の表紙のイラストが目に入る。
幸せそうなカップルが私をとても惨めな気分にさせて、さらに涙を抑えることができなくなった。
「これ以上もう正宗君に嘘をつくことなんてできない。でも本当の私を見せる勇気もない……だから今日のデートで私、お別れを言おうと思ってた」
本当はこんな姿を見られたくなかった。どうせ別れるのならせめて可愛くて純粋な私として正宗君の思い出に残りたかったのに。
どうしてこんなことになってしまったの?
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