上 下
5 / 5

5

しおりを挟む
 私は夢を見ていた。それは遠い遠い昔、まだお母さんとお父さんが生きていた頃、私が子どもだった時の夢。

 私は森の中でお母さんが縫ってくれた赤いずきんをかぶって花をつんでいた。けれど、そのまま森の奥まで迷い込んでしまって怖くて泣いていた。

 そこにまだ子どものロイドが私の目の前に現れる。

「おい。俺の森でなに泣いてんだよ。人間」
「うえーん!帰りたいよ~!」
「お前、あの村の子どもか。なんだよ迷ったのか?」

 ロイドは私の手を取ると、私を立たせて森の入り口へと向かう。

「泣くな。うるさい。村まで送ってやるから」
「うん…」

 何も話さなかった2人だけど、しばらくすると打ち解けあってお互いのことを話しはじめる。

「ロイドはおおかみおとこなんだ!私、はじめて見た!」
「お前、怖くないのか?」
「ううん!全然怖くないよ!だってロイドは優しいもん」
「お前、変わってるな…」
「そうかな?あ、ロイドのお母さんはいないの?」
「この間、猟師に撃たれて死んだ。他の仲間もいない。だから、この森に住んでる狼男は俺1人」
「ロイドかわいそう…さびしくないの?」
「別に。もう慣れたから」
「そんなぁ…でもさびしくないわけないよ。そうだ!私、ロイドのお嫁さんになる!」
「はぁ!?お前、何言ってんだ?無理に決まってるだろ」
「無理じゃないよ!もう決めたもん!私が大きくなったらお嫁さんにしてね!約束だよ!!」
「ったく…よくわかんねぇやつだな。クレアは」





「んっ…」

 久しぶりに昔の夢を見た。ぼんやりとした意識のまま、目を開けると私はロイドの腕の中にいた。

「目が覚めたか?」

 ふと、横を見るとロイドが私を優しく見つめていた。

「あのね。私、昔の夢見てたの」
「夢?」
「そう。私たちが初めて会った時の夢」

 私はロイドに抱きつくと、ロイドもまた優しく私を抱きしめ返す。

「昔、約束したよね。ロイドのお嫁さんになるって」
「ああ。俺も覚えてる」
「ねぇ、ロイド。私、今でもあなたのお嫁さんになりたいって思ってるんだよ」
「クレア…」

 ロイドは私に向き直って、私の額にキスをした。

「俺は今でもこれからを一緒に過ごすのはクレアだけだと思ってる」
「じゃあ、決まりだね。ロイド」

 私はくすくすと笑うと、ロイドの額にキスをしかえした。

「俺と結婚してくれ。クレア」
「うん。こちらこそどうぞよろしくお願いします」

 きっと村の人たちには受け入れてもらえないだろうし、もしかしたら2人とも追われる身になるかもしれない。けれど、そうなっても私はロイドと一緒にいたい。家族になりたい。

「ふふっ」
「何笑ってんだ?クレア」
「えーとね。今、このお腹の中にロイドの赤ちゃんがいると思ったら早く会いたくなっちゃって」
「クレア…狼男と人間は、1回や2回やったぐらいじゃ子どもはできないぞ。」
「え!そうなの?私、その…えっちしたらすぐに子どもができると思ってた…」

 ロイドはくくくと笑うと、意地悪そうな笑みをたたえて、私を押し倒す。

「じゃあ、この腹に俺とクレアの子どもができるまで今夜は一晩中やろうか?」
「もう…!ロイドのえっち!」

 月と星だけが私たちを見守る中の夢のようなできごとだった。

 私のお腹に新しい命が宿ったことを知るのはもう少し先のこと。
 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる

奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。 両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。 それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。 夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

雨音。―私を避けていた義弟が突然、部屋にやってきました―

入海月子
恋愛
雨で引きこもっていた瑞希の部屋に、突然、義弟の伶がやってきた。 伶のことが好きだった瑞希だが、高校のときから彼に避けられるようになって、それがつらくて家を出たのに、今になって、なぜ?

処理中です...