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7.それでも愛おしくて ★

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「はい?」

 突然の告白に呆然とする私。
 なに?どっきり?

「どっきりなんかじゃないよ」
「なんで私の思ってること分かるの!?」
「サキュバスはね。愛液を飲んだ相手の思考が分かるようになっちゃうんだよ」

 私はあり得ない状況に頭が混乱していた。

 サキュバスって、あのサキュバス?女の人のその……愛液を食事にする悪魔?

「そうそう。まあ思考が読めるようになるのは俺の種族だけの特徴なんだけどね」

 今こうして私が考えていることを言い当てられているという事実が、このあり得ない状況は現実なのだと私に突きつける。

 つまり……目の前にいるこの元彼にそっくりな男が実はサキュバスで、私はその性欲の権化みたいな存在のサキュバスにワンナイトを仕掛けたってことなのか……

「あはは……なんかいろいろ言われちゃってるけど……まあ仕方ないかな。混乱するなって言われて混乱しない人間の方が少ないし」

 それよりも、と男が含みを持たせた声で囁くと、私を自分の膝の上に乗せた。

 そして、男はそっと私の膣口に太くて長い指を入れる。ぬちょっという鈍い水音が響いた後、指が中にすっと入って、指が動くたびにくちゃくちゃと水音を響かせた。

「んあっ……!あっああっ……!!!」

 浅いところから徐々に深いところまで、男の指はまるで生き物のようにうごめく。時折、こきこきと曲がる関節が、膣壁をノックして新たな刺激を与える。

「う、うそぉ……きもちぃい……はぁっ」

 こういった行為はご無沙汰だったから絶対に痛むと思っていたのに、不思議と痛みはなく、膣内を擦られるごとに快楽が増していく。
 いつのまにか指の数が増えていたけれど、そんなことも気にならないくらい、私は快楽に溺れ、愛液を男の脚の上に垂れ流していた。

「……そろそろ大丈夫かな……」

 男はそう低い掠れた声で呟くと、カチャカチャと腰のベルトを外していく。
 その時、ふと、男の下半身を見ると、ズボンのファスナーがはち切れそうなほどに膨らんでいた。

 男もさすがに苦しいのか眉をしかめて肩で息をしている。男がファスナーを下げて、ボクサーパンツともにズボンを脱ぎ去ると、今まで見たこともないほどの大きさの男根が私の目の前に現れた。

 その圧倒的な存在感に圧倒された私は、恐怖のあまり思わず息を呑んでしまう。

 男根は、邪魔な布の抑圧から解放された瞬間に、ぶるんと勢いをつけて、男の腹につくのではないかと思うほど上を向いてそりかえっている。
 亀頭の先端からは先走りの液体がダラダラと溢れており、血管が走る赤黒い陰茎を艶かしく濡らしていた。

 まさか今からこれが私の中に入るの……?

「…怖いよね。でも、ごめん。もう俺も我慢できない」

 そんな私の恐怖心を読み取ったのか、男は私に謝る。

「っ……大丈夫。お姉さんの体は十分にほぐしたから……それと、俺の唾液には、催淫作用があって……だから、ほら、指入れられても痛くなかったでしょ……?」

 サキュバスの特性なのだろうか。はぁはぁと苦しそうに胸を上下させながら息をしながらも、私の膣口から抜いた男の指に絡めついた愛液をうっとりと舐めるのをやめようとしない。

 その間にも、すでに先走り液がだらだらとシーツの上を汚していて、男ももう限界に近いのだと分かる。

 それでも男は私の中に無理矢理挿れてくることはしなかった。

「くっ……うあっ……お姉さんっ……」

 あんなに余裕たっぷりだった男が切なそうに私を見つめているのを見て、私は突然胸がきゅうと締まり、なんだかとても目の前の男が愛おしく感じた。

「……いいよ、入ってきて……」

 私は、向かい合わせになっていた男の唇に軽い口づけを落とすと、逞しい背中に手を回して、ぎゅっと抱きしめる。
 すると、男は少し驚いたような顔をして私を見つめた。

「怖くないの?」
「……うん」
 
 今日バーではじめて出会ったこの元彼にそっくりな男。
 困った顔や笑った顔、全部、元彼にそっくりで、その度に元彼を思い出して泣きそうな気持ちになったけど……
 こうして抱き合っている今は、もうどこにも元彼の面影を感じない。
 笑った顔も、ちょっと意地悪な顔も、切なそうな顔も、この人だけが見せる顔。

「……私、あなたに抱かれたい」

 今はただ目の前の男が愛おしくて。私は心の奥からそう思った。
 今日はじめて会ったのに私は軽率なのかもしれない。
 正直に言うと、今も男の正体がサキュバスだなんて信じられないし、羽と尻尾が男の体から生えているのにもまだ慣れていないけれど、そんなことはどうでもいい。
 私はどうしようもないくらいに、この男に恋をしてしまったのだ。

 心の中でそう思った時、目の前の男は、はっとしたような顔をした。
 そして、私から目を逸らして、何かを堪えるように唇を強く噛む。そして、耳まで真っ赤にしている男の顔に浮かんでいるのは、何かを恋慕うような……そんなとても切ない表情だった。

「……っ……ごめん。勝手に心を読んでしまって……でも、今、俺すごく嬉しい……」
「あっ……!」

 気づいた時にはもう遅かった。男はサキュバスで、私の心の声を読めるんだった。だから今の私の心の声も全部男には筒抜けだったのだ。

 そう気づいたとき、猛烈に恥ずかしくなってしまって、私も男を直視することができなってしまった。自分でも分かるほど、今、私の顔は真っ赤になっている。

「……こっち向いて」

 男は私に向き直ると、視線を逸らした私の顔を見つめ、真剣な声で私にこう言った。

「君のことが好き。信じてもらえないかもしれないけど、本当に俺は君のことが好きなんだ」
「……うん」
「どうしたら俺の気持ち信じてもらえるかな……」

 目の前の男……彼は、今までに見たことがないほど焦っていた。時に自信なさげに、でも、今度は縋りつくかのような顔をして私を見つめる。

 それもそうだ。私たちは軽率な関係性から恋をはじめてしまったから。
 ワンナイトから始まった2人の間には、信頼も何もない。だって、お互いのことをまだ何も知らないのだから。
 だから私たちは戸惑う。一夜でできた愛を証明するには、セックスという、誤解を生みかねない方法しか、今の私たちには用意されていないから。

 それでも、私は信じることができた。私と彼とは心が繋がっている。なぜかは分からないけれど、私は心からそう信じることができたから。
 だからこそ、私は……

「たくさん、たくさん、私のことを優しく抱いて。あなたの体で……私に示して」

 私は彼を抱きしめながら言葉を紡ぐ。

「ごめんね。私、馬鹿だった。あなたの意志なんてお構いなしに私の意地で強請ってしまったのが間違いだった……」
「君はなんにも悪くない。君欲しさに、俺は自分の欲を押し通してしまったんだから」

 彼は私を優しく抱きしめ返した。

「それでも君がそう言ってくれるなら……体で示すことで、俺の君への想いを、君に信じてもらえることになるのなら……俺は君を抱きたい」




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