(完)約束嫌いな私がしてしまった、してはいけない約束

警戒すべき相手 ハルの思考

「アイザック・ジョセフ…」

実は俺はこいつの事を知っている。
イオを連れて街に買い物に行った時に俺に接触してきた人物だ。
あの時は何者なのか分からなかったが、直ぐに調べさせ分かった事だ。
アイザック・ジョセフは孤児だった。
孤児だった彼がジェダイナ家の執事になったのは、全てキャサリン夫人によるものだ。
アイザック・ジョセフの幼少期は悲惨なものだったらしく、今彼が生きているのは余程の幸運に恵まれたからだと報告があった。
その幸運の相手がキャサリン夫人だ。
つまり彼からすればキャサリン夫人に救われたと言えるのだ。
だからジェダイナ家への…いやキャサリン夫人への忠誠心が高い。
それは異常なまでにだ。
この考察はアイザック・ジョセフを調べた者が言っていたものだ。
俺はその者を信じている。
だからこの考察は信じるに値すると思っている。
何と言っても調べたのはサミュエル家の有能な執事であるクラレンスだからだ。
そろそろクラレンスの後継について真剣に考えなければならないのだが、中々上手くいかないと親父が言っていた。
とにかくアイザック・ジョセフは厄介な相手だと言える。
彼にはキャサリン夫人しか見えていないのだ。
本来であれば今夜の夜会でシャーロット嬢があのような行動に出た事はお互い予定外だったろうと思う。
俺達の目的はジェダイナ家当主でありシャーロット嬢ではなかったからだ。
はぁ…本当に予定外だった。
予定外…予定外ではないが予想外の事は他にもあったな。
拐われたイオが戻って来たことだ。
何者なのかはイオが頑なに言わないからはっきりした事は分からないが、俺達以外にイオに協力する者がいるという事の証明に他ならない。
それにイオが拐われたのは予想できる事だったが拐われ方には疑問が残るんだよな。
向かいの部屋にいたイオを俺達に気づかれずに拐うのはかなり難しい事だと思う。
俺達がいつ廊下に出てくるかも分からない状況で犯人は実行した。
もちろん俺に落ち度があったために起きた事であることは間違いないのだが、犯人にしてみたら今日たった一度イオが1人になった絶好のチャンスを逃さなかったという事になる。
そんな事ができるのはこの邸の中を自由に歩き周っていても不自然じゃない人物ということだ。
もしも、あのままイオが戻らなければ…側から見れば俺にはエスコートする女性がいないように見える。
令嬢を押し付ける程のいい理由になりかねない…か？浅はかな考えには見えるがなくはないか…
だとすれば可能性が高いのはシャーロット嬢になる。
そこまでは分かりきっていたことだが、それを指示した犯人はジェダイナ公爵ではなくアイザック・ジョセフの単独行動もしくはキャサリン夫人の指示ということも考えられるな。
とにかくアイザック・ジョセフが危険な人物であることは間違いなく、ここで終わることもないという事だ。
今度は絶対にイオを守り抜いてみせる。