6 / 127
6.溢れる気持ち
しおりを挟む
突然、少女は私の名前を聞いてきた。
私は少女に名前を教えるべきか考える。
少女が何故ここにいるのかも不明な上、本来ありえない距離を移動してきたと言っている。
でも、目の前の少女に興味があるのも事実だった。
逡巡の末、私は本名は隠し名乗る事にした。
「私の名はギルバート…ギルと呼んでくれ。」
「ギルさん。」
私の名を呼んだ少女が微笑む。
「ギルでいいよ。呼び捨てで。」
「あの…でも…」
戸惑いがちに私を見るフィアに良いからと言う。
「分かりました。ギル…。私もなぜマーキス公爵領内に居るのか分からないんです。でも本当にさっきまでオーウェン侯爵領にいたんです。本当に…。」
「ふっ…。」
「何で笑うんですか?」
少し拗ねたように言うフィア。
さっきの戸惑う姿も必死に説明する姿も拗ねたフィアも可愛いと思った。
不思議だった…こんな気持ちになることが。
「それで?笑ったから何だって言うんだ?フィア、君は自分の立場が分かっていない様だね。直ぐにでも騎士団に突き出してもいいんだけどね。だってそうだろう?無断で人の邸に入り込んだんだから。」
フィアの反応が見たくて意地悪く言ってしまう。
フィアは青い顔になりオドオドと戸惑いの表情を見せる。
次第に綺麗な瞳に涙を溜めているのを見て、色んな顔が見たかったが、こんな顔をさせてはダメだと思った。
「ごめん。意地の悪い言い方をした。フィアは悪い人間でないって思っていたのに…本当にごめん。」
素直に謝罪を口にする。
それを聞いたフィアが言った言葉は私にとって、とても衝撃的だった。
「私は…自分が怪しいのは分かっているからギルの言ったこと当然だと思うけど…。でも、ギルは何だかトゲトゲしてるの。そんなだと、周りの人だけじゃなく自分も傷つけるんだよ。大切にしないと失くしちゃうんだから気をつけた方がいいよ。」
『ジーク。嫌なことがあったからってそんな言い方はダメよ。あんまりトゲトゲしていたらジークも傷つくし、ジークの大切なものも失くしちゃうわよ。』
確かあれは私が4歳か5歳くらいの頃だっただろうか…。
忙しい父に遊んでもらう約束を破られ、思ってもいない言葉を言ってしまった事がある。
父は辛そうな顔をしながら政務に向かった。
そんな私に母が言った言葉だった。
ーそんな風に言われた私は帰って来た父に必死にしがみつきながら、泣いて謝ったんだっけ。父が居なくならない様に必死に…
両親との思い出が不意に蘇る。
「っ…ギルごめんなさい。」
とフィアが謝った事で涙が頬を伝った事を知る。
彼女は何も悪くない。
寧ろ両親との思い出を思い出させてくれた。
泣けなかった私を泣かせてくれたのだから。
私の事をよく知らない、出会ったばかりのフィアだから泣けたのかは分からないが感謝しかなかった。
「フィアは何も悪くないよ。…でも…うん。今日はもう休もうと思う。だから……フィア。明日も会えないかな?フィアともっと話してみたいんだ。」
「…明日もここに来れるか分からないよ?でも、私もギルとお話ししたいから、来れるように頑張ってみるね。」
何を頑張るのだろうと思ってしまい笑みが溢れる。
だが、フィアが頑張ってくれないと明日も会うことは出来ないのだから是非とも頑張ってもらおう。
「うん。待ってる。」
「じゃあまた明日、同じ時間に。」
そう言うと後退ったフィアは消えてしまった。
フィアがいた場所を暫く見つめてから部屋に戻った。
部屋に戻った私は両親を思い出し泣いた。
この日私は泣き疲れて眠りについた。
私は少女に名前を教えるべきか考える。
少女が何故ここにいるのかも不明な上、本来ありえない距離を移動してきたと言っている。
でも、目の前の少女に興味があるのも事実だった。
逡巡の末、私は本名は隠し名乗る事にした。
「私の名はギルバート…ギルと呼んでくれ。」
「ギルさん。」
私の名を呼んだ少女が微笑む。
「ギルでいいよ。呼び捨てで。」
「あの…でも…」
戸惑いがちに私を見るフィアに良いからと言う。
「分かりました。ギル…。私もなぜマーキス公爵領内に居るのか分からないんです。でも本当にさっきまでオーウェン侯爵領にいたんです。本当に…。」
「ふっ…。」
「何で笑うんですか?」
少し拗ねたように言うフィア。
さっきの戸惑う姿も必死に説明する姿も拗ねたフィアも可愛いと思った。
不思議だった…こんな気持ちになることが。
「それで?笑ったから何だって言うんだ?フィア、君は自分の立場が分かっていない様だね。直ぐにでも騎士団に突き出してもいいんだけどね。だってそうだろう?無断で人の邸に入り込んだんだから。」
フィアの反応が見たくて意地悪く言ってしまう。
フィアは青い顔になりオドオドと戸惑いの表情を見せる。
次第に綺麗な瞳に涙を溜めているのを見て、色んな顔が見たかったが、こんな顔をさせてはダメだと思った。
「ごめん。意地の悪い言い方をした。フィアは悪い人間でないって思っていたのに…本当にごめん。」
素直に謝罪を口にする。
それを聞いたフィアが言った言葉は私にとって、とても衝撃的だった。
「私は…自分が怪しいのは分かっているからギルの言ったこと当然だと思うけど…。でも、ギルは何だかトゲトゲしてるの。そんなだと、周りの人だけじゃなく自分も傷つけるんだよ。大切にしないと失くしちゃうんだから気をつけた方がいいよ。」
『ジーク。嫌なことがあったからってそんな言い方はダメよ。あんまりトゲトゲしていたらジークも傷つくし、ジークの大切なものも失くしちゃうわよ。』
確かあれは私が4歳か5歳くらいの頃だっただろうか…。
忙しい父に遊んでもらう約束を破られ、思ってもいない言葉を言ってしまった事がある。
父は辛そうな顔をしながら政務に向かった。
そんな私に母が言った言葉だった。
ーそんな風に言われた私は帰って来た父に必死にしがみつきながら、泣いて謝ったんだっけ。父が居なくならない様に必死に…
両親との思い出が不意に蘇る。
「っ…ギルごめんなさい。」
とフィアが謝った事で涙が頬を伝った事を知る。
彼女は何も悪くない。
寧ろ両親との思い出を思い出させてくれた。
泣けなかった私を泣かせてくれたのだから。
私の事をよく知らない、出会ったばかりのフィアだから泣けたのかは分からないが感謝しかなかった。
「フィアは何も悪くないよ。…でも…うん。今日はもう休もうと思う。だから……フィア。明日も会えないかな?フィアともっと話してみたいんだ。」
「…明日もここに来れるか分からないよ?でも、私もギルとお話ししたいから、来れるように頑張ってみるね。」
何を頑張るのだろうと思ってしまい笑みが溢れる。
だが、フィアが頑張ってくれないと明日も会うことは出来ないのだから是非とも頑張ってもらおう。
「うん。待ってる。」
「じゃあまた明日、同じ時間に。」
そう言うと後退ったフィアは消えてしまった。
フィアがいた場所を暫く見つめてから部屋に戻った。
部屋に戻った私は両親を思い出し泣いた。
この日私は泣き疲れて眠りについた。
0
お気に入りに追加
122
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

【完結】お姉様の婚約者
七瀬菜々
恋愛
姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。
残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。
サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。
誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。
けれど私の心は晴れやかだった。
だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。
ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる