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出口のない教室
24.
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鏡の中にはなにもなかった。思念世界が崩壊しつつある影響だろうか、見渡す限り白い空間が広がっていた。右も左も分からないまま、歩き出す。九雀蔵之介はこの広大に見える空間の中で、しかし律華と会えないかもしれないとは疑わなかった。
「だって、想いで作られる世界なんだろ。ここは」
誰に聞かせるわけでもなく独りごちる。
「だったら、どこへ歩いて行っても辿り着く場所は同じだ」
異能の知識は少しもないが、そういう場所だろうという確信があった。目的が後輩の救出であることを抜きにしても、自分と相性のいい世界なのだろうとも。
九雀は迷わない。よく知りもしない他人の想いに惑わされることはない――呪症管理者として懊悩する悪友を見て嫉妬しないこともないのだ。彼らは奇跡を起こしたがる人の想いを否定して、日常を取り戻す。おそらくは他人を思って心を痛める彼らだからこそ、人の想いに干渉する力が与えられるのだろう。それは不条理な世にあって、珍しく良心的な神の采配であるともいえる。
しばらく歩いて、九雀は足を止めた。
「もう十分歩いただろ。試すのはよしてくれ」
どちらに向けて告げたのかは、自分でも分からなかった。花岡智か、人形のトモか。
(まあ、どっちでも同じか)
これは声に出さず。九雀は腰のホルダーから警棒を抜いた。
なにもない白い空間に先端を押しあて、ゆっくりと磁気発生装置のスイッチを入れる。そのとき、空気がぴりっと張り詰めた気がした。それでも構わず――あの従業員用通路への扉をこじ開けたのと同じように――宙を四角く切り取る。
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