蛟堂/呪症骨董屋 番外

鈴木麻純

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出口のない教室

11.

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「一般客が入れない期間だからこそ、拠点とするには好都合なのかもしれない」
「そうなると、無自覚の所有者って線が消える。相手は呪症という現象を認識し、悪用している可能性が高い。悠長なこたァ言ってられなくなったぞ、これは」
 言いながら、九雀はホルスターからゴム弾の発射機を抜いた。
「なにをする気だ?」
「シャッターの鍵を壊すんだよ。これだけ老朽化してりゃ、ゴム弾でもいけるだろ」
 なんでもないことのように言って構える。古い施設であることが幸いして、確かに防犯システムさえ導入していないような代物ではあるのだが。
「待ってくれ、蔵之介!」
 慌てて止める。
「音が響く。中にいる人物が不審がって通報したら、参王署の警官が駆けつけるぞ」
「……なら、どうする? 工事責任者やここのオーナーに連絡するにしても、この時間じゃ嫌がられるし下手すりゃ明日になっちまう」
「まったく君は、後輩が絡むと短気になっていけないな。ここは僕に任せてくれ」
 明らかに苛ついた様子の悪友をなだめ、溜息をひとつ。
 ――本当は、彼の前でこれを使いたくはなかったのだが。
 鷹人はポーチの中からピッキングツールを取り出した。案の定、九雀が眉をひそめる。
「お前、前はそんなもん持ち歩いてなかっただろうが」
「以前の事件でブローカーが使っていたのを見て、便利そうだと思ったんだ」
「言っておくが、違法だぞ」
「法に触れる場面では使わない」
「持ってるだけでアウトだ! つくづくコソ泥と紙一重な……」
 ぼやく悪友を尻目に、ツールセットの中からテンションレンチとピックを取り出す。まずは鍵孔にテンションレンチを差しこんで、鷹人はふむと頷いた。
「やはり強度は高くない。この程度のシリンダーキーなら、僕でも開けられる」
「俺は今、お前を現行犯逮捕した方がいいんじゃないかと思い始めているんだが」
「そしたら僕は警察署で、君の器物損壊未遂を告発する」
「ぐ……」
 完全勝利。
 普段の行いが悪いからこうなるのだと鼻で笑ってピックを差しこみ、中のピンを外しながら注意深くレンチを回す。手応えを感じてシャッターを持ち上げると、がらがらと耳障りな音を立てて上がっていった。
「ふふん、ざっとこんなものだ。実家の蔵で練習した甲斐があった」
「練習してどこで披露するつもりだったんだ……」
 まだ頭を抱えている九雀を置いてシャッターをくぐる。ぱっと見たところ閉園後の遊園地といったところだが、よく見ると防炎シートで覆われているアトラクションもある。入り口の案内図で確認すると、園内は小ステージを中心に東西南北で四つのエリアに分かれているようだ。
「入り口がここ、南のエントランス。残滓が続く先は西側か。屋内探索型アトラクションが置かれているようだ。お化け屋敷とミラーハウス、宝探しゲーム……」
「確かに、隠れるにはうってつけだよな」
 聞いただけでうんざりしたのか、九雀が重たい溜息を吐いた。
「夜になると厄介だ。さっさと見つけてまずは特定古物を回収、呪症を封じる。で、後輩ちゃんと子供たちを元に戻させてから、所有者をしばき倒すぞ」
「そうだね。今回は律華くんがいないことだし、暴力担当は君に任せよう」
 顔を見合わせて頷き、西のエリアに向かう。
 あたりはすっかり陽が落ちて、夜の気配が濃く漂っていた。


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