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第一章:迫る評価、危ういボーナス

3:小さな村の滞在

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「ただいま」

少女の家は村の中心から少し離れたところにあった。
形が少し違うので、もしかしたら親は特殊な役職の人間かもしれない。

「おかえり、サーニャ」

「サーニャ、その犬はなんだい?」

おそらく父親であろう男が俺を見てサーニャと呼ばれた少女に聞く。

「あ、あのね…このわんちゃん、いくところがないみたいで…一日だけ一緒にいてあげたいの」

サーニャがそういうと、父親は考えるように顔をふせる。

「そうか…じゃあ一日だけだぞ」

「…うん!」

父親から許可が出て、サーニャは満面の笑みを浮かべた。
その後、しばらくサーニャと遊んでいると夕食の時間になった。

「さ、これがあなたの分よ」

サーニャの母親がミーシャ、父親がサガモというらしい。
ミーシャが俺の前に銀の皿にいっぱいの白飯を置いた。

ありがたいが…白飯だけでこの量はきつい…。
神は基本的にお腹が空くことはない。
ただ、お腹いっぱいにもならないので食べたいものは食べられるし、食べすぎることもない。

しかし、惑星に降り立っているときは、その星の概念が適用され、当然お腹も空くし、お腹いっぱいにもなる。
白飯オンリーで山盛りの夕食…犬相手ではこんなものなのか。

「いただきまーす」

サーニャが元気よく挨拶をして、食事が始まる。
机が高くてご飯のおかずがわからないけど、まさか白飯のみということはなかろう。
俺も白飯を食べ始めると、サガモとミーシャの会話が聞こえた。

「今日も信託は出されなかった?」

「あぁ、今日も神に祈りは届かなかったよ」

信託…そう言えば人間が星に現れてから、数ヶ月に一度、人からの祈りがあった気がするな。
眠っていたからあんまり気にしなかった。

「私が神主になってから信託の儀を何度も行ってきたが、一度もお声を聞けたことがない…先代も先々代もそうだと聞くが…」

「でも、特に災いがあったわけでもないんでしょう?」

「そうだが…このままではイノスは停滞の一途を辿るのではないかと思うと…」

そうか…サガモは神官の家系か…。
それは本当に申し訳ないと思う…。

実際問題、ウェルナーの管理するアースは魔法文明を発展させて今でも新たな技術や知識が生まれている。街も高層ビルなんかが建ち並び、人間にとってはまさに理想の環境と言えるだろう。
それに対して、イノスはアースに対して数百年ほど発展が遅れている。
アースではコンクリートなるものが使われているのに対し、こちらはレンガを組み立てている。場所によっては木と藁で家をつくるなんてところもあるほどだ。
神はその惑星に住う生きとし生けるものを導かねばならないが、俺はその任をずっとさぼっていたから…。

その後はなんてことのない会話が進み、俺はその温かな雰囲気を感じて、少し心がざわついていた。
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