惚れ薬を飲ませようと思った彼女は自ら惚れ薬を飲む

水鳥聖子

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第6話 惚れ薬は私達だけの秘密と思っていたら、思いの外絡んでいた

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いつものように朝手を繋いで玄関前まで行く私達。近い時間で出ているのか、森野さんに玄関先でよく合う。
あくびとかはしていないようだけれども、いつも眠そうにしている。
心なしか動きも緩慢で、私達に気付いた様子はない。
「おはよ~、渚。よく合うねぇ」
「ん、あぁ、おはよう。……いつも一緒だね」
「仲良しだからね~」
「良いんじゃない、仲違いするよりは」
私達に挨拶をしてから、そのまま教室へと向かっていく彼女。
後ろ姿を見ると、何時も通りに眠そうに歩いている。
何というか、本当に寝不足で今にも倒れそうな人みたいに見える。
そんな事を考えていると、静香ちゃん、そう言えば学校での姿は基本眠そうにしてるけど、最近はそんなことないように見える。
「静香ちゃん」
「なぁに~? 夢美ちゃん」
「最近、学校では寝てるところをあんまり見ないけど、大丈夫なの?」
「あ~、それはね。夢美ちゃんと帰るようになってから、夜遅くまで起きてないんだよね。ほら、夢美ちゃんと帰っていると、色々お喋りする時間が増えるじゃない?」
静香ちゃんの言葉に、私は頬が熱くなるのを感じた。
確かに彼女と帰るようになったお陰で、一緒に居る時間は増えた。
だけど、まさかそんな風に思われているとは思わなかった。
「今までは特にお話しする相手が居なかったから、ついつい夜更かしをしちゃってたんだよね」
「夜更かしって、そんな夜遅くまで何をしてるの?」
「えへへ、内緒だよ~」
「むぅ……」
「あはは、ごめんね、夢美ちゃん。そんな顔しないでよ~」
「別に怒ってる訳じゃなくて……。ただ、ちょっと気になっただけ」
「うーん、夢美ちゃんには教えても良いんだけど、じゃあ、これは二人だけの秘密ってことにしない?」
「二人だけの秘密、えへへ……」
秘密を共有する相手として選ばれたことが嬉しくて、思わず笑みが零れる。
そんな私を見て、静香ちゃんも同じように笑ってくれる。
「実は私、小説書いてるんだよね。まぁ言ってしまえば趣味なんだけど」
「小説? 静香ちゃんが?」
「うん。私、昔から本を読むのが好きでさ。それで、自分でも書こうと思って、色々試したりしてるの」
「凄いね。私なんて、読書すらまともに出来ないよ」
「そうかな。私は結構楽しいと思うよ。それに、自分の考えたことを文章にするっていうのは面白いし」
「どんな物語を書いてるの?」
「恋愛も書くし、ミステリーも書くし、ファンタジーも書くよ」
彼女の言葉を聞いて、私は少し驚いた。
静香ちゃんって、そういうのも書けるんだ。
普段からおっとりしている彼女が書いているとは思えない。
でも、それを聞くのは何だか恥ずかしくて出来なかった。
特に静香ちゃんも触れて欲しい話題では無さそうだったし、彼女の趣味を聞けただけ良しとすることにする。
それから私達は教室で森野さんと別れ、私達はB組に、森野さんはA組の教室に入る。
教室に入って最初に挨拶をして来たのは、やはり怜奈さんだった。
「やほー☆ 静香、夢美ちゃん、おはよー!」
「おはよ~れなちー。今日も元気だねぇ」
「お、おはようございます、怜奈さん……」
相変わらずテンションの高い怜奈さん。
この元気の良さだけは見習わないといけないかもしれない。
彼女の明るさが眩しい、まるで太陽のように輝いているように見えてしまう。
怜奈さんに話しかけられたことで、クラス中がこちらに視線を向ける。
そしてその大半が私達の会話に耳を傾けていた。
「そういえば、昨日カラオケ行ったんでしょ? どうだった?」
「あはっ☆ 夢美ちゃんが歌ってるところ、写真撮っておいたから後で見せてあげるね~」
「おぉ! 楽しみにしてるねぇ」
「夢美ちゃんは歌上手いからね~。私、初めて聞いた時直ぐに”自信無く歌うなんて勿体無い!”って思ったよね☆」
「分かる。歌は聞いた事無いけど、夢美ちゃんの声って綺麗だもんねぇ」
「ふ、二人共、褒め過ぎ……」
照れて頬を赤く染める私を他所に、二人は楽し気に話を続ける。
私、静香ちゃん以外に友達居ないから分からないけれど、やっぱりこんな感じなのかな……。
そう思いながら、私は二人の話に相槌を打つのだった。

お昼休み。静香ちゃんと一緒に昼食を食べようと席を立つと、珍しく隣のクラスの森野さんの方から声を掛けてきた。
彼女は何時も一人でお弁当を食べているらしく、あまり他の人と話すことはないのだけれども……。
私は首を傾げながらも彼女に応じる。
静香ちゃんも不思議そうな顔をしていた。
森野さんの用件は、意外なものだった。
「……あの、ちょっと相談に乗って欲しい事があるんだけど……いいかな?」
「私に?」
「うん……」
「ん~、良いよ~。じゃあ屋上行こっか」
「ありがとう。……それと、夢美さんも一緒に来てくれない?」
「え、私も……?」
「……ダメかな?」
「いえ、私もお邪魔でなければ……」
「……そっちの方が助かるかも。じゃあ、付いてきて貰える?」
そう言うと、森野さんは私達を連れて歩き出す。
向かう先は恐らく購買だろう。
私達が着いた頃には既に多くの生徒が列を作っていた。
しかし、彼女は臆することなく進んでいき、あっという間にパンを買うことが出来た。
「……それで、私達に相談したいことって何かな?」
「えっと、実は最近好きな人が出来たんだよね。で、告白しようか悩んでいるんだけど、どうやってすれば良いのか分からなくて……」
「成程~。ちなみに、相手は誰なの?」
「それは言えないけど、同じクラスの人だよ」
「それはまた難儀な相手に恋をしたねぇ」
(私達以上に難儀なカップルが居ないこと、分かってるのかな……)
「で、取り敢えずまずは既成事実をと思って……」
「「………ん?」」
「惚れ薬を作ったんだけど……」
「「………んん??」」
彼女の言葉に、思わず固まる私達。
聞き間違いだろうか、今とんでもない単語を聞いた気がする。
私が困惑していると、隣に居る静香ちゃんが彼女に質問をする。
「それで、飲ませたの?」
「いや、それを高値で売りさばいちゃった。幾らかは言えないけど、物凄い金額で。まさか売れるとは思わなかったけど……」
「う、うん、それで……?」
「匿名で売ったし、相手も匿名だったから誰に売れたかは分からないんだけど、送った住所が多分この近辺なんだよね……」
聞き覚えのある話だ……と言うよりも……。
(夢美ちゃん、もしかして……)
(私も同じこと思った……)
私が買った惚れ薬、まさか森野さんが売り捌いたものだとは思わなかった……。
静香ちゃんも気付いたようで、小声で私に話し掛けてくる。
私もそれに答えるように、小さな声で言う。
幸いにも周りには聞こえていないようだ。
もし聞かれたら、大変なことになっていたかもしれない。
「それで、相談って?」
「惚れ薬が原因で停学とか退学になったら、好きな人に告白どころじゃなくなる……」
「まぁそうだよね。でも、バレなければ大丈夫じゃない?」
「いや、もうバレてると思うんだよね。だって、この前その人の家に行った時に鉢合わせしたし」
「「……はい??????」」
森野さんの言葉に、私達は揃って目を丸くして驚く。
彼女の言っていることが理解出来ない。
どうしてそんなことになっているのだろう。
そもそも、何で森野さんは相手の家の場所を知っているのだろうか。
疑問は尽きないが、今は聞かない方が良いような気がする。
そして、静香ちゃんも私と同じことを思ったらしい。
「普段会話しないから、私が彼女の家を訪れたことを不審に思われたと思う」
「そ、そう……」
「でも、その時は何とか誤魔化したから大丈夫だと思う」
「因みに、どんな風に誤魔化せたの?」
「いや、その辺は私も必死だったし、記憶が曖昧だけど……」
「へ、へぇ~……」
「それで、どうしたら良いかな?」
「どうするも何も、正直何を相談されてるのか分からないんだよね。多分告白したい>停学・退学になりたくない>惚れ薬を取り戻したいって優先順位なんだろうけど」
「いや、この際惚れ薬は別に取り戻せなくても良いんだけど。惚れ薬を使ってまで告白したい、或いは相手に好きになってもらいたい気持ちは分かるし。二人には縁遠そうな話だけど」
((もろ惚れ薬を使って出来上がったカップルなんだけど……))
私と静香ちゃんは心の中で同時に突っ込む。
森野さんは私達の表情を見て何かを察したらしく、小さく溜息を吐く。
そして、彼女は少し恥ずかし気に口を開いた。
どうやら彼女は自分の容姿を自覚していないみたいだ。
彼女は美人だ。可愛いというよりは綺麗という言葉の方が似合うし、顔立ちも良い。
スタイルの方だって私よりも断然良い。
その森野さんが告白したい相手なのだから、余程素敵な人なんだろう。
とは言え、惚れ薬の件が渡した相手が不明な状況なら名乗り出て解決なのに、まさか、私以外に購入してる人がいるなんて……。
「ちなみに、惚れ薬って何個作って何個売ったの?」
「1個だけ作って、1個だけ売れた」
「そっかぁ……」
静香ちゃんは私と同じことを思って聞いたけど、気休めに「私が買いました」と安易に言うには少し怖い状況だった。
何しろ匿名で売り払ったのだ。
もしそれが相手側にバレているとしたら……。
もしかしたら、既に警察に連絡されている可能性もあるのではないか。
仮にそうじゃなかったとしても、下手に言って相手を怒らせたり、それをネタに脅されてしまうのは怖い。
そう考えると、迂闊に言うことは出来ない。
しかし、このままでは話が進まないし、彼女としては誰かに相談することで突破口を開こうとしている。
とは言え、どうしたものだろう……。
「見付けたよ、あはっ☆」
「およ? れなちー、私探してたぁ?」
「ううん、用あるの、そっちの子だよ☆」
「わ、私……?」
怜奈さんは森野さんを指さす。
え、この流れ、もしかして……。
「えっと、私に何か用……? えっと……」
「雛菊怜奈だよ~。れなちーって呼んでね☆」
「……雛菊さん、それで、私に用って?」
「あはっ☆ なんだか夢美ちゃんみたーい☆」
怜奈さんは森野さんの肩に手を置く。
すると、彼女は私の方を向いてニッコリと微笑む。
嫌な予感がする。
そして、その予感は的中した。
私は森野さんと一緒に、人気のない空き教室へと連れて行かれる。
一体何のつもりだろうか。
彼女が何を考えているのか全く分からない。
いや、それよりも、これから何が起こるのかが不安で仕方がない。
そして、その不安は現実となった。
私達が居るのは、校舎裏の人気の無い所だった。
辺りを見回すと、私達以外誰も居ない。
まるで私と森野さんが二人で話す為に、わざとこの場所を選んだように思える。
しかし、そんなことをする理由が分からない。
さっきの惚れ薬の件から、もしかしたら彼女も何か知っているかも知れないのだった。
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