上 下
3 / 10

第3話 お返しをしようと思ったら、結局もらってばかり

しおりを挟む
私達はそれから買い物に出掛ける。夕飯は私の家で作って、そのままお泊り会をしようという流れになったからだ。
近くのスーパーに手を繋いで行くと、静香ちゃんが率先してカートを押してくれる。
私はその行動が嬉しくて、ついニヤけてしまう。
しかし、その顔はすぐに引き締まる。
静香ちゃんが色々と私にしてくれることが嬉しいけれども、それに甘えて私は彼女に何をしてあげただろうか?
惚れ薬を飲ませて、キスをねだって、ご飯もご馳走になって、添い寝してもらったり、抱き締めてもらったり……。
だけど、静香ちゃんからしてもらったことはいっぱいあるのに、私から返せたことが何も無い。
「……静香ちゃん」
「ん?」
「ありがとね」
「急にどったの?」
「私、静香ちゃんに何もしてあげられていないから……」
「そんなこと無いよ」
「でも……」
「じゃあさ、1つお願いしても良い?」
「何でも言って!」
「じゃあ、今日は1日、私と恋人ごっこして欲しいな~」
「……なにそれ、ごっこじゃなくて、恋人でしょ」
そう言って私達は笑った。私は静香ちゃんの事を好きになって良かったと思う。
静香ちゃんと出会わなければ、今の私は居なかっただろうから。
そして、私たちは野菜や肉などの食材を選び終えるとレジへと並んでお金を払う。
その際に、私は財布を開いてお札を数えていると、ふと視線を感じた。
そちらを見ると、そこには私達と同じくカップルと思われる人たちの姿があった。
男性と女性で手を繋ぐだけでなく、腕を組んで歩いている。
私は思わず、静香ちゃんの方を見た。
すると、静香ちゃんもこちらを見ており、目が合う。
すると、静香ちゃんは照れ臭そうに笑うと、私と腕を組む。
私はそんな静香ちゃんの行動に嬉しさを覚えながらも、周りの目線に対して恥ずかしくなってしまう。……やっぱり、こういうのは慣れない。
だけど、私は静香ちゃんにギュッと力を入れると、静香ちゃんも同じように返してくれた。
帰り道では、お互いに会話は無いものの、幸せだった。

家に辿り着くと、早速料理に取り掛かる。
と言っても、そこまで難しい物は作れないため、簡単な炒め物とサラダを作ることにした。
まずは私が調理を始めようとすると、静香ちゃんが横に来て手伝ってくれる。
エプロン姿も可愛い。髪をまとめた姿も尊い。
「静香ちゃん、ありがとう。でも、大丈夫だよ? ゆっくりしていて良いよ?」
「ううん。一緒に作る。1人で待つの寂しいもん」
「そっかぁ。静香ちゃん可愛いぃ~!」
私はあまりの可愛さに悶える。
「もぅ! 包丁持ってるんだから危ないよ!?」
「ごめんなさい。でも、静香ちゃんが悪いんだよ。ほら、ふくれっ面の静香ちゃんも可愛くて」
「もう、すぐ調子に乗るんだから。でも、可愛いって言われて嫌じゃないのは、夢美ちゃんにだけだよ?」
「私だけ?」
「そう。可愛いなんて男の子に言われたら鳥肌が立つけど、女の子に言われるのは凄い嬉しい。なんか、特別な感じがするじゃん?」
「それは私も同じかも。私も男の子に可愛いって言われても嬉しくないよ。むしろウザいし。でも、静香ちゃんになら、いくらでも言ってほしいかな。それと、私も特別扱いされて嬉しい」
「夢美ちゃんって結構欲張りだよね。でも、そこが良いんだけどさ。あっ、私ばっかりズルいな。私にも言ってよ。ね? 夢美ちゃんは私の事、どう思ってるの? もちろん、好きだよね? 私の事、愛してるよね? ねぇ? 早く聞かせて? 私の事、大好きなんだよね? じゃあ、言ってみて? はーやーく、はやく、はやくはやく~」
「えぇ、言わないとダメなの? まぁ、いいか。……好き、だよ? す、すごく好き……。……これで満足した? だから、あんまりいじめないで?」
「ん? ……これだと、友達としてみたいだから駄目。もっと愛情を込めてほしい。これは罰ゲームだからね。ちゃんと私をドキドキさせるような声で囁いてくれないと許さないんだから」
「えぇ!? 今上目遣いで言ったから、それじゃだめなの!?」
「可愛いけど、だめ。ちゃんと気持ちを込めないと」
「むぅ~。分かった。頑張ってみる……」
私は静香ちゃんを抱きしめると、耳元で呟いた。
「好き……。大好きなの……。世界で1番貴女を愛してる。だから、ずっと私の傍に居て欲しいの。他の人には渡したくない。だから、私だけの物になろ?」
そう言うと、静香ちゃんは咄嗟に離れて蹲る。
「……夢美ちゃん、声良いから、耳元で囁かれるの、やばい……。もしも夢美ちゃんのASMRとか売ってたら、全部買っちゃう自信ある……」
「えっと、その、ごめんね? まさか、ここまで効果があるとは思わなかったよ。でも、これから気を付けるね? それで、どうかな? ちゃんと言えたと思うけど……。あと、私は静香ちゃんの物になりたいから、遠慮なく奪ってくれて良いからね?」
「うん……。ありがとう。私も夢美ちゃんの事が好き。誰よりも好きで、大好きなの。だけど……、愛情過多で死にそうなんで、ちょっと待ってください……。心臓が破裂しちゃう」
「……静香ちゃん、可愛い」
「……うるさい」
「ねぇ、キスしたい」
「今は料理中です」
「じゃあ、後でいっぱいしようね」
「……私もいっぱいしてもらいたい」
「ん~?」
「……何でもありません。ほら、進まないから早くやっちゃうよ」
「あ、話逸らした」

私達はその後、仲良く料理を完成させた。
そして、夕食を食べ終えると、食器を洗うために台所に立つ。
すると、静香ちゃんが後ろから抱き着いて来た。
豊満で弾力のある柔らかな感触が背中に伝わってくる。
そして、首筋に静香ちゃんの吐息を感じると、思わず体が震えてしまう。
だけど、私は平静を装いながら振り返らずに洗い物をしていると、静香ちゃんはクスリと笑った。
そして、静香ちゃんは私に話しかける。
しかし、その内容は信じられないものだった。
私は思わず手に持っていたお皿を落としそうになりながらも、何とか持ちこたえる。
「いいいいい、今なんて言ったの!?」
「だから、一緒にお風呂入ろう?って」
「ど、どうして急にそんなことを言い出すの!?」
「だって、恋人同士なんだしさ、裸の付き合いくらいしないと不味いでしょ」
「い、いやいやいや! そ、そういうものなのかな? でもさ、まだ早いんじゃないかなって思うんだけど……」
「何を言っているの? 1回目も1216回も一緒だよ」
「1216ってどっから出て来た数字なの!?」
「誕生日。私、12月16日だから」
「メモ取れない今言わないで!」
確かに、静香ちゃんの誕生日は知ってたけども! でも、静香ちゃんと一緒に入るなんて恥ずかし過ぎる! でも、断れる雰囲気でもない。
それに、断ったら静香ちゃんが傷ついてしまいそうだ。
私は静香ちゃんの事が大好きだから、静香ちゃんを傷つけることだけは絶対に嫌だ。
だからと言って、素直に受け入れることも出来ない。
仕方がない。ここは一芝居打つしかない。
私は少しだけ体を離すと、静香ちゃんの胸を鷲掴みにする。そして、揉んだ。
そう、私は静香ちゃんのおっぱいを揉んだのだ。
私はこの行為に興奮してしまい、鼻血が出そうになる。
だけど、ここで倒れるわけにはいかない。
そう、私は今、静香ちゃんの胸を堪能している。
……じゃなくて!
「……やん」
「わ、分かったでしょ! 一緒にお風呂に入ったらもっと凄いことするよ!」
「もっと凄いことって?」
「凄い事は凄い事! もう、察してよぉ……。だからね、今日は止めよう? ね? またいつか機会があったときにしよう? ね? お願い」
「夢美ちゃんは私の事嫌いなの?」
「うっ……。好き、だけどさぁ……。それでも、やっぱり勇気が出ないんだよ……。ごめんね? 本当は凄く入りたいんだけどさ、いきなりお風呂に入るってハードルが高くてさ。ねぇ、分かってくれるよね?」
「うん。分かった。じゃあ、今夜は我慢する。けど、ベッドでは一緒に寝て貰うから、それくらいは良いでしょ? さっきも寝たんだし」
「え、えぇ……。それは良いけど」
「やったぁ~」
静香ちゃんは嬉しそうに飛び跳ねていた。
それを眺めながら、私も嬉しくて顔が緩む。

それから、私達は別々に入浴を済ませて外に出ると、パジャマ姿の静香ちゃんで心臓が持って行かれそうになる。
どうやら私の彼女は可愛すぎるらしい。
私は静香ちゃんに見惚れていると、静香ちゃんが私に声をかけてきた。
「おいで。髪、拭いて乾かして梳いてあげる」
「う、うん……」
私は静香ちゃんの言う通りにすると、ドライヤーの音が鳴り響く。
その音を聞きながら、静香ちゃんの温もりを感じていると、幸せ過ぎてどうにかなってしまいそうだった。
そして、静香ちゃんは優しく語り掛ける。
「……ねぇ、夢美ちゃん。本当に付き合っちゃったね。夢みたいだよ」
「私も夢みたいな気分。……今も惚れ薬の効果って残ってるのかなぁ」
「どうだろうね。でも、もし効果が残っていたとしても、私は夢美ちゃんの事を好きになるよ。どんなに夢美ちゃんの顔や声が良くても、性格が悪くて浮気するような人ならともかく、夢美ちゃんはとても優しいからね。まぁ、今は私以外の女の子と喋るだけで嫉妬しちゃうけど」
「私も……。静香ちゃんが他の人と楽しそうに話していたりすると、ちょっとイラっとしちゃうかな……」
「そっか。ふふ、お互い様だね。これから仲良くやって行こうね」
「うん!」
すると、静香ちゃんはドライヤーを止めると、私の髪を撫でてくれた。
それが気持ち良くて、思わず目を細めてしまう。
「静香ちゃん、その……いい?」
「甘えん坊だなぁ、私の彼女は」
「だって、好きなんだもん」
「はいはい。分かりました」
静香ちゃんはドライヤーを置いて私の頬に優しく手を添えると、そのまま唇を重ねる。
そして、何度もキスをした後、舌を絡め合わせた。
静香ちゃんの甘い香りと味が口内に広がると、私は頭がボーッとしてしまう。
静香ちゃんは私の腰に手を当てながら、耳元で囁いた。
「好きだよ。大好き。愛してる。だから、ずっと傍に居て欲しいな……」
「静香ちゃん……。私も大好き。だから、一生離れないで欲しいな」
「約束する。絶対に離さない」
「嬉しいな。ねぇ、静香ちゃん。ぎゅって抱きしめてくれない?」
「もちろん良いよ」
静香ちゃんに抱かれると、私は安心感に包まれる。
私は静香ちゃんの匂いが大好きだ。
「ね、夢美ちゃん。明日初デートしない? 折角の日曜日だし」
「デ……あ、そうだよね、だって私達、その……恋人同士なんだしね。じゃあさ、どこに行く?」
「遊園地とか? カップルで行く定番でしょ。私、行ったことないから行ってみたいな」
「私も初めてだよ。じゃ、じゃあさ、待ち合わせ場所決めようよ!」
「それもそーだね。家から一緒に出たんじゃ夢無いし。う~ん、どこにしようか……」
「静香ちゃん、学校の近くは駄目だからね! 変なことが起きそうだから!」
「……変な事? 分かっているって。じゃあ、駅前にしよう。そこから電車に乗って行けば、すぐ着くでしょ?」
「そうだね。じゃあ、そこで」
「うん!」
私達は駅で待ち合わせることにした。
そして、私は先にベッドに入った静香ちゃんに抱きしめられる形でベッドに一緒に入る。
「お休み、静香ちゃん」
「お休みなさい、夢美ちゃん」
こうして、私達の初めての夜は更けていった。
しおりを挟む

処理中です...