4 / 6
依存
しおりを挟む
今日から2週間、春樹は登校してこない。学校には他には友達がいない。いつもの朝の教室。グラウンドには練習する野球部。秋の初めの日差しが眩しい。教室では他のクラスメイト達が楽しそうに誰かと話している。
今日は1現目から体育の日だった。作山がホームルームで話を終えた後、男女それぞれ更衣室に向かう。中学の時部活をしていた峻希は、身体を動かすことに抵抗はなかった。科目は、バスケだったが、案外好きだった。
体育館で体育教師の田村が、一通り話終えた後、クラス対抗という形で試合が行われることになった。峻希が所属している1組対3組。峻希のクラスにはバスケ部に所属しているメンバーが多いので、スタート時点から1組が優勢だった。峻希にもパスが回ってくる。相手のゴール付近で待機していた峻希は、シュートを決める。入った。1組のクラスの奴らが沸く。相手は悔しそうにしている。結局、峻希はその後、2得点を決めた。正直、ここまで得点に貢献できるとは思ってなかったので、峻希も嬉しかった。
その日、教室で本を読んでいると、一人のクラスメイトが話しかけてきた。
「山本君、バスケ上手いじゃん。さっきはありがとう」
彼は、笑顔で、そしてどこか凛とした表情でそう言い放った。峻希は彼に見覚えがあった。いつだか登校の時、汽車を待っていたら、同じホームにいた奴だ。
「君、センスあるよ。バスケ部今、人足りてなくてさ、よかったら入らない?」
彼は、笑顔で続ける。
「ありがとう。けど、大学受験の予備校通ってたりで放課後も結構忙しくて」
「じゃあさ、たまに応援で入ってくれるとか、それでもいいから。お願い」
峻希は、彼があまりにお願いしてくるので、渋々、それを引き受けた。
「わかった。いいよ」
ここからの一週間は、結構忙しかった。学校が終わり、バスケ部の応援に入り、予備校に通う。その繰り返しだった。春樹からメッセージも来ていたが、頻繁に返すことが難しい状況だった。
『峻希、最近返信遅いよね』
『ごめん、忙しくて』
『言い訳じゃないのそれ。返事返すタイミングくらいあるだろ』
怒りに満ちた文章だった。しかし、峻希からしてみれば、時間がなくて返事が返せないのは本当のことだった。
『峻希、本当は俺と関わりたくないと思ってるんじゃないの?』
『違う。それはないよ。最近、バスケ部の練習の応援に入ったりしてるから。そのあと予備校も通ってるし』
『返事くらい返せよ。嫌われてるかと思うじゃん』
たしかに、メッセージが来ているのは知っていたが、疲労感やら忙しさやらで、返すタイミングが思いつかなかった。
『少し電話しない?』
峻希の携帯に着信がある。
「久しぶり」
と峻希が言うと、相手の声は、泣き声だった。
「寂しいんだよ、俺は」
「ごめん。本当に返すタイミングがなかっただけなんだ」
「俺が、孤独な奴だってこと、知ってんだろ」
「ごめん」
驚きと申し訳なさのあまり、それ以上返す言葉が思い浮かばなかった。親友に対して時間が作れない事、時間がないことを理由に返事を返さなかった事、春樹の気持ちになってみれば、わかるような気がした。
「ロケって、結構寂しいんだよ。表面上だけの付き合いの繰り返し。だから、もっと構ってほしい」
「ごめん峻希、そうしてあげたいけど、俺も時間がないのは事実なんだ。だからごめん」
「なんだよその答え」
というと、電話はぷつりと切れた。峻希は少し悲しかった。結局のところ、春樹は自分に構ってくれる奴なら誰でもいいのかと。別に俺じゃなくてもいいのかと、そう思った。
それっきり、しばらく春樹から連絡が来ることはなかった。そのまま一週間が経過した。春樹が登校してきた。なんだか少し気まずかった。相手も同じだったのだろう。互いに、話すことはなかった。
峻希は携帯でいろいろ検索した。
『親友 喧嘩』『親友 喧嘩 仲直り』
しばらく検索していると、知恵袋サイトにこんな投稿を見つけた。
『親友と喧嘩して困っています。その親友には寂しい、もっと構ってほしいと言われたのですが、時間の都合上、なかなか構ってあげる事が出来なくなり喧嘩になってしまいました。どうしたらいいでしょうか』
その回答には、こう書かれていた。
『それは、親友ではなく、依存ですね。依存の関係になると、最悪人間関係を崩壊させます。過去のトラウマがある、人と接するのが苦手、悪いほうに深読みするといった人は要注意です』
その回答を見たとき、背筋が凍る思いがした。これは親友ではない。依存だ。春樹は自分に依存していたのだ。
今日は1現目から体育の日だった。作山がホームルームで話を終えた後、男女それぞれ更衣室に向かう。中学の時部活をしていた峻希は、身体を動かすことに抵抗はなかった。科目は、バスケだったが、案外好きだった。
体育館で体育教師の田村が、一通り話終えた後、クラス対抗という形で試合が行われることになった。峻希が所属している1組対3組。峻希のクラスにはバスケ部に所属しているメンバーが多いので、スタート時点から1組が優勢だった。峻希にもパスが回ってくる。相手のゴール付近で待機していた峻希は、シュートを決める。入った。1組のクラスの奴らが沸く。相手は悔しそうにしている。結局、峻希はその後、2得点を決めた。正直、ここまで得点に貢献できるとは思ってなかったので、峻希も嬉しかった。
その日、教室で本を読んでいると、一人のクラスメイトが話しかけてきた。
「山本君、バスケ上手いじゃん。さっきはありがとう」
彼は、笑顔で、そしてどこか凛とした表情でそう言い放った。峻希は彼に見覚えがあった。いつだか登校の時、汽車を待っていたら、同じホームにいた奴だ。
「君、センスあるよ。バスケ部今、人足りてなくてさ、よかったら入らない?」
彼は、笑顔で続ける。
「ありがとう。けど、大学受験の予備校通ってたりで放課後も結構忙しくて」
「じゃあさ、たまに応援で入ってくれるとか、それでもいいから。お願い」
峻希は、彼があまりにお願いしてくるので、渋々、それを引き受けた。
「わかった。いいよ」
ここからの一週間は、結構忙しかった。学校が終わり、バスケ部の応援に入り、予備校に通う。その繰り返しだった。春樹からメッセージも来ていたが、頻繁に返すことが難しい状況だった。
『峻希、最近返信遅いよね』
『ごめん、忙しくて』
『言い訳じゃないのそれ。返事返すタイミングくらいあるだろ』
怒りに満ちた文章だった。しかし、峻希からしてみれば、時間がなくて返事が返せないのは本当のことだった。
『峻希、本当は俺と関わりたくないと思ってるんじゃないの?』
『違う。それはないよ。最近、バスケ部の練習の応援に入ったりしてるから。そのあと予備校も通ってるし』
『返事くらい返せよ。嫌われてるかと思うじゃん』
たしかに、メッセージが来ているのは知っていたが、疲労感やら忙しさやらで、返すタイミングが思いつかなかった。
『少し電話しない?』
峻希の携帯に着信がある。
「久しぶり」
と峻希が言うと、相手の声は、泣き声だった。
「寂しいんだよ、俺は」
「ごめん。本当に返すタイミングがなかっただけなんだ」
「俺が、孤独な奴だってこと、知ってんだろ」
「ごめん」
驚きと申し訳なさのあまり、それ以上返す言葉が思い浮かばなかった。親友に対して時間が作れない事、時間がないことを理由に返事を返さなかった事、春樹の気持ちになってみれば、わかるような気がした。
「ロケって、結構寂しいんだよ。表面上だけの付き合いの繰り返し。だから、もっと構ってほしい」
「ごめん峻希、そうしてあげたいけど、俺も時間がないのは事実なんだ。だからごめん」
「なんだよその答え」
というと、電話はぷつりと切れた。峻希は少し悲しかった。結局のところ、春樹は自分に構ってくれる奴なら誰でもいいのかと。別に俺じゃなくてもいいのかと、そう思った。
それっきり、しばらく春樹から連絡が来ることはなかった。そのまま一週間が経過した。春樹が登校してきた。なんだか少し気まずかった。相手も同じだったのだろう。互いに、話すことはなかった。
峻希は携帯でいろいろ検索した。
『親友 喧嘩』『親友 喧嘩 仲直り』
しばらく検索していると、知恵袋サイトにこんな投稿を見つけた。
『親友と喧嘩して困っています。その親友には寂しい、もっと構ってほしいと言われたのですが、時間の都合上、なかなか構ってあげる事が出来なくなり喧嘩になってしまいました。どうしたらいいでしょうか』
その回答には、こう書かれていた。
『それは、親友ではなく、依存ですね。依存の関係になると、最悪人間関係を崩壊させます。過去のトラウマがある、人と接するのが苦手、悪いほうに深読みするといった人は要注意です』
その回答を見たとき、背筋が凍る思いがした。これは親友ではない。依存だ。春樹は自分に依存していたのだ。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが
なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です
酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります
攻
井之上 勇気
まだまだ若手のサラリーマン
元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい
でも翌朝には完全に記憶がない
受
牧野・ハロルド・エリス
天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司
金髪ロング、勇気より背が高い
勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん
ユウキにオヨメサンにしてもらいたい
同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる