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依存

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今日から2週間、春樹は登校してこない。学校には他には友達がいない。いつもの朝の教室。グラウンドには練習する野球部。秋の初めの日差しが眩しい。教室では他のクラスメイト達が楽しそうに誰かと話している。

今日は1現目から体育の日だった。作山がホームルームで話を終えた後、男女それぞれ更衣室に向かう。中学の時部活をしていた峻希は、身体を動かすことに抵抗はなかった。科目は、バスケだったが、案外好きだった。

体育館で体育教師の田村が、一通り話終えた後、クラス対抗という形で試合が行われることになった。峻希が所属している1組対3組。峻希のクラスにはバスケ部に所属しているメンバーが多いので、スタート時点から1組が優勢だった。峻希にもパスが回ってくる。相手のゴール付近で待機していた峻希は、シュートを決める。入った。1組のクラスの奴らが沸く。相手は悔しそうにしている。結局、峻希はその後、2得点を決めた。正直、ここまで得点に貢献できるとは思ってなかったので、峻希も嬉しかった。

その日、教室で本を読んでいると、一人のクラスメイトが話しかけてきた。

「山本君、バスケ上手いじゃん。さっきはありがとう」

彼は、笑顔で、そしてどこか凛とした表情でそう言い放った。峻希は彼に見覚えがあった。いつだか登校の時、汽車を待っていたら、同じホームにいた奴だ。

「君、センスあるよ。バスケ部今、人足りてなくてさ、よかったら入らない?」

彼は、笑顔で続ける。

「ありがとう。けど、大学受験の予備校通ってたりで放課後も結構忙しくて」

「じゃあさ、たまに応援で入ってくれるとか、それでもいいから。お願い」

峻希は、彼があまりにお願いしてくるので、渋々、それを引き受けた。

「わかった。いいよ」

ここからの一週間は、結構忙しかった。学校が終わり、バスケ部の応援に入り、予備校に通う。その繰り返しだった。春樹からメッセージも来ていたが、頻繁に返すことが難しい状況だった。

『峻希、最近返信遅いよね』

『ごめん、忙しくて』

『言い訳じゃないのそれ。返事返すタイミングくらいあるだろ』

怒りに満ちた文章だった。しかし、峻希からしてみれば、時間がなくて返事が返せないのは本当のことだった。

『峻希、本当は俺と関わりたくないと思ってるんじゃないの?』

『違う。それはないよ。最近、バスケ部の練習の応援に入ったりしてるから。そのあと予備校も通ってるし』

『返事くらい返せよ。嫌われてるかと思うじゃん』

たしかに、メッセージが来ているのは知っていたが、疲労感やら忙しさやらで、返すタイミングが思いつかなかった。

『少し電話しない?』

峻希の携帯に着信がある。

「久しぶり」

と峻希が言うと、相手の声は、泣き声だった。

「寂しいんだよ、俺は」

「ごめん。本当に返すタイミングがなかっただけなんだ」

「俺が、孤独な奴だってこと、知ってんだろ」

「ごめん」

驚きと申し訳なさのあまり、それ以上返す言葉が思い浮かばなかった。親友に対して時間が作れない事、時間がないことを理由に返事を返さなかった事、春樹の気持ちになってみれば、わかるような気がした。

「ロケって、結構寂しいんだよ。表面上だけの付き合いの繰り返し。だから、もっと構ってほしい」

「ごめん峻希、そうしてあげたいけど、俺も時間がないのは事実なんだ。だからごめん」

「なんだよその答え」

というと、電話はぷつりと切れた。峻希は少し悲しかった。結局のところ、春樹は自分に構ってくれる奴なら誰でもいいのかと。別に俺じゃなくてもいいのかと、そう思った。



それっきり、しばらく春樹から連絡が来ることはなかった。そのまま一週間が経過した。春樹が登校してきた。なんだか少し気まずかった。相手も同じだったのだろう。互いに、話すことはなかった。

峻希は携帯でいろいろ検索した。

『親友 喧嘩』『親友 喧嘩 仲直り』

しばらく検索していると、知恵袋サイトにこんな投稿を見つけた。

『親友と喧嘩して困っています。その親友には寂しい、もっと構ってほしいと言われたのですが、時間の都合上、なかなか構ってあげる事が出来なくなり喧嘩になってしまいました。どうしたらいいでしょうか』

その回答には、こう書かれていた。

『それは、親友ではなく、依存ですね。依存の関係になると、最悪人間関係を崩壊させます。過去のトラウマがある、人と接するのが苦手、悪いほうに深読みするといった人は要注意です』

その回答を見たとき、背筋が凍る思いがした。これは親友ではない。依存だ。春樹は自分に依存していたのだ。

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