門番令嬢は舞台裏で治安維持したくない

宇和マチカ

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治まらぬ胸の高鳴り

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 私、二年程前に都会にやってきて、まだ都会に染まれないピュアな乙女ルーキア! 
ショッキングな事ばかり詰め込まれて、滅茶苦茶動悸息切れ中よ!
 ……深呼吸……深呼吸……。

「だ……駄目だわ……。ちょっと、理解が……追いつけませんわ」

 ……よりによってあのジドが王家の庶子様で、聖女様とアンナ様に寵愛を競わせていたなんて……。
 のうのうと呑気な悪モブ面を晒していたのに、その悪辣さが見抜けなかった。アイツ、擬態が上手過ぎなのよ。

 でも、私に門番業務を押し付けたのもまさか、仕込み!? だったら許せないけど……あのドジが無ければミシー様にお会い出来なかったわね。
 微妙な所だけどそれはそれよね。
 それに、アンナ様の旦那様になられるんだったら、細々と嫌がらせすら不可能……くっ、何という卑劣な悪モブなのかしら!

 しかし、ジドが庶子様……。しかも美女(聖女様にお会いしたことないけど、ミシー様とソックリらしいから間違いなく美女決定)をフッて、お色気美女(アンナ様ね)と結婚なんて天国爆走ルートなんてアリなの? 次の人生、ドブに住んで討伐される生物になるんじゃないの? 今、ラッキーを遣いすぎよね。

 うーむ、実はジドがモブ的ヒーローなの? イモダンとよーく似た設定のギャルゲなの? だとしたら、あのトウモロコシヒゲ髪のジャージ氏幼馴染ヒロインの存在は……うむむ分からない。正解が無いわね……。

 まだ、キリエは顔が王子様な顔面じゃない?
 で、隣国の皇子は物腰偉そうじゃない?
 ジャージ氏は……頑固な感じがそれっぽいじゃない?
 ……そうでもないか。まあいいや分からないわよ、王族の庶子様ぽさなんて。

 ……何度も考えてみたけど納得行かないなー。何でジドなのかしら。美女にモテる要素が皆無で見当たらないわ。   
 髪の色だって……オレンジ系の黄色よね。黄色系ではあるけど。

「うふふふ、納得行かないお顔ね、小亀ちゃん」
「い、いえ……。
 お兄様であらせられる王太子殿下の、治世の御為ですわよね?」

 王家の血がバッサリカットもどうかとは思うから、王家の血補充にジドを引き取られたのかもしれないわ。義理のお母様の事も有るでしょうし。
 ……あのジドをクローニャ様から略奪ってのは、本当に納得行かないけど。本当に気弱なだけの悪モブなのに……。政略に庇護欲か何かもミックスされたのかしら。

「ええ、まああの兄は優秀でしょう? 民衆の事、とても好きだもの。だから、血の繋がらない妹として、お手伝いしたかったの」
「ご立派ですわ」

 でも、ジドでなくても……他の3人の中でも……。どれも嫌よね。
 辛うじてマシなのは……隣の国の皇子かしら? 不法侵入者だけど。そういやあの後はどうなったのかしらね。新聞とかに載ってないかしら。

「それにね。あの人の伴侶となる公爵令嬢や他の下級貴族にも、王家の血は継がれているから。
 現実的に王家断絶は無理なの。だったら、庶子くらい貰っても良いでしょう?」
「そそ、そうなんですの……ん?」

 他にも王家の血は継がれて、いる?
 それって、まさか……。

「あの、孤児院のソックリさんは……まさかのまさか」
「直系ではなくても、似た雰囲気の親戚は居るもの。勿論、赤の他人でも居るわね。あら、震えているの?」

 ……ここここここ、怖すぎるわ。
 まさかのまさか、過去にもこういう事件が有ったりして。
 庶子様がたの子供が親御さんを亡くしたりして……孤児院にお世話になることに、なってたり……なってたりィ!? ヒイイ、酷い仮説を思いついてしまったわ!! いや、ド他人ソックリさん説も……それはそれでホラーで怖いけど!

「れ、歴史は繰り返しています? もしかして……」
「小亀ちゃん。本当に此方に協力してくれて有難う」
「は、はい……」

 はーい、肯定系の微笑み頂きましたー。
 蛇に睨まれたカエルか、狼の前のウサギの気分だわ……。

 これから切っても切れなさそう……。
 服を頂いた時点でご親切に震えたけど……そうよねー。

「また来てね」
「さ、さようならー」

 ああ、足が重い……。鉛の靴を履いたように重いわ。
 お店を出た途端、滅茶苦茶足が重いのよ。入った時は軽やかだったのにいいい!

「ルーキア?」
「あ、ハイ……」

 ……しかし、例の炙り出し煮込みの件はどうなるのかしら。
 まさか、王家の血筋全員があの謎煮込み好きな訳ないわよね。
 王家の血が薄まると嫌いになるとか? かしら。そもそもどの時点で薄まるのかしら……。王家の直系! とか体の何処かに印字されて出てくるのかしら。偶に痣を持って生まれてくる人はいるけど、ガチの字が浮き出てくるなら怪談よ。怖すぎるわね。

「面白い事考えるね。誓いを立てて即位した国王の直系のみが、沼薔薇に囚われるようになってる」
「へー、沼薔薇の……」

 沼薔薇ってこの国にそんな風に色々絡んでいたのね……。ミシー様のお屋敷以外で見たことなかったけど……。トゲトゲガメ達は元気かしら。

「見ていく?」

 ……え?
 私、誰と話してるのかしら。このお声は……滅茶苦茶聞いた事あるー。

「ドワフッ!?」
「久しぶり、ルーキア。沼薔薇の盟約は、沼薔薇を求めずには居られない」
「……沼薔薇の迷惑? ですか」
「まあ、沼薔薇からしたら迷惑で合ってるけどな」

 ……しまった、滅茶苦茶聞き間違いだわ。
 目の前には、銀髪を風に靡かせるミシー様。
 ……ひ、久しぶりにお見かけしちゃった。しかも、こんな町中で……いえ?
 この、一瞬普通そうで違う生け垣は……!! 滅茶苦茶沼薔薇の繁った生け垣!!

「俺の家へ、ようこそ?」
「ブハッ!? こ、此方は……ティナー侯爵家!?」
「あ、ハイ……」
「う、うはあ!? も、門番さん!! まで!?」

 みみみみみ、見られた!!

「アンナ様のお立場じゃ喋れない事もあるし、寄っていく?」
「え、ええと……」
「聞くよね? 俺の門番令嬢」

 ……いえ、そちらにガチの門番さんいらっしゃいますわよー。本職ですわよー。
 なんて、この威圧感たっぷりな美しい笑顔の前で言えるものかしら。
 門番令嬢違う……と抗うことも出来ず、私は二軒目でのお茶を頂く事になったわ。

 でも、少し……だけ、ね。
 お会いできて……嬉しいわ。
 そして、私ルーキアは、沼薔薇が香りそうで香らない中、私は四阿の有る庭に招き入れられたのよ。

 ……今回は何も闖入して来ないわよね?
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