門番令嬢は舞台裏で治安維持したくない

宇和マチカ

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協力者は身内にも

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「うーん……ゴフッ……」

 何か、背中が痛いわ。肩こりかしら。
 ……いや、痛い。痛たたた!! 痛すぎる!

「ルーキア様!」
「ぶえ……」

 目覚めた時は、伯父様のジョーサイド伯爵家タウンハウス、だったのよ。
 メイドさんが付いててくれたみたいで、即座に伯父様を呼ばれたわ。……着替えは……メイドさんがしてくれたみたいね。あの鎧よりも強敵なコルセットも抜かれて、簡素な寝間着になってるわ。

「おお、意外と早く目覚めたな! 流石我らがジョーサイドの子だ!」

 起きぬけに、伯父様のハイテンションはキッツいわね。
 威厳がどうとか外面を顰めてるせいか、身内にはオクターブ高い喋り方は何とかならないのかしら。ウチのお父様もそうだけどさあ。我が一族の男共は変にカッコつけなのよね。従弟のメロディが真似しなきゃ良いけど。

 でも、とっても体が煩いし、何でこんな変な姿勢で寝てるのかしら。うつ伏せ……のようで、左右をクッションに固められて……。

「おうぐいたっ!!」
「無理するな、肉離れを起こしているそうだぞ」
「ええ……に、肉離れ? そんなんじゃなくて、背骨が軽く折れてるような気が!!」
「ハハハ! 魔法で癒やしでもしない限り、背骨が折れたら結構な確率で死ぬぞ!」
「冗談抜きで痛いんですけど……ハッ!?」

 ま、まさか……。
 まさかよ。
 私がここに居るって事は……。まさかのまさか!!

「私ったら……ミシー様に、此処まで背負われてお連れ頂きましたの!?」
「あの色違い弟が、そんな肉体労働する訳ないだろう」
「う」

 痛い。心が痛いわ。背中と共に痛み過ぎるわ。
 分かってたのよ本当は。でも期待しちゃうじゃない。乙女だもの。

 でも夢見る乙女に現実は冷たく、厳しいのよね。
 私ったらあの夜会で……ミシー様を潰すまいと、ひとり後ろに倒れて……人事不省で担架で運ばれてしまったそうなのよ。
 オマケに変な姿勢で背中を捻ったせいか、肉離れ迄起こしてしまって……。伯父様のタウンハウスに担ぎ込まれたんだって。

 担架か……。いえ、とても救護法として正しいけど……其処は、お姫様抱っことは言わないけど、エスコートした乙女を運ぶ手段はおんぶでは? 田舎の薩摩芋色娘には贅沢だっての? 酷すぎるわ。

 後、ミシー様ってそんなにあからさまに色違い弟って呼ばれてんの? 酷くない?
 ミシー様はお姉様とそんなにソックリなのかしら。

「それよりも! 夜会はどうなりましたの」
「ああ、大騒ぎだ」

 ……何でそんなに落ち着いてるのかしら。伯父様、一応王宮騎士よね? 何で家にいるのかしら。まさか、干されてるの?

「大騒ぎの割に、伯父様は何故お家に居られますのよ」
「フッフン、賢いな、ルーキア」
「まさか、職務を干されて」
「ハハハ、我が家は重用されるぞ、ルーキア」

 ……その微妙に苛つくグヘへ笑いは……。
 い、嫌な予感しかしないわ。
 昔、私が子供の時……。近所のボロい屋敷の雪下ろし時にジャンプし倒して、屋根を踏み抜いてた時の笑顔の様よ……。
 後でしこたま家主である親戚に怒られてたけど、当たり前よね。

 そ、そうじゃなくてよ。
 そうよ。伯父様が……ミシー様の、いえ王太子殿下の計画をご存知であれば辻褄が合うわ。
 この、行き当たりばったりに見えなくもない……この流れにジョーサイドが関わっているのなら。
 可憐でか弱い非戦闘員の事務官である私を、ミシー様がスカウトしたのも……。
 ジョーサイド家当主である伯父様が、糸を引いて、いえ、協力していたのなら!

「伯父様も、まさか、王太子様のお手伝い……を」
「我らがジョーサイドが返り咲かん為にも、な」
「……い、要らん事してる……!!」
「要らん事とは何だ!」

 う、煩いし!! 滅茶苦茶要らん事じゃないの!! 我が家が歩んできた苦難の歴史を忘れたのか、このバカ伯父は!

「甲高い声はやめて頂戴、伯父様! 折角、地味に曾祖父様から信頼をコツコツ積み上げてきたのに!! もし、突飛でアホな焦り行動で、今迄がおじゃんになったらどうするのよ!? 我が家の危機、再び!?」
「大丈夫だ。王太子殿下はソツが無い上に、協力者にはお優しい」
「いやそれ! 簒奪では」
「ルーキア、バレなければいいのだ」
「よかないわよ!」
「バレないよ」
「何かの拍子にバレ……うおおお痛あああ!!」

 テンションが上がり切って、つい腕を振り回してしまったじゃないの!

「大丈夫?」

 んん?
 アレ、このお声は。
 み、ミシー様!? 御衣装は……ピンクじゃないわ。普通のお召し物よね。お着替えなさったのかしら。何時間くらい経っているのか……。北向きの部屋で窓にカーテンが掛かっているから、時間が分からないわ。

「やだ、私ったら寝台で……ぐごお!」
「寝といて。筋肉には効かないんだよね、回復術」
「これはミシエレ殿。休んでいる姪の部屋にズカズカと何用ですかな」
「聞こえてたよ。さっきみたいに甲高ーく色違いって呼べば?」
「ハッハッハッ、何のことやら」

 ……仲悪いな。
 アレ? このふたり、王太子様の簒奪に手を貸す仲間では無いの? 考えるとおかしな……うう、些細な動作で背中が痛むわ……。

「み、ミシー様……」
「ゴメンね、ルーキア。まさか悪漢に打ち勝った君がコルセットに負けるとは」
「うぐ……き、着慣れないもので」

 じょ、女子力が足りなかったのよね。やはり鎧では何の特訓にもならなかったわ。あの経験はマジで……無駄だった……!! 常々レディらしくコルセットと戦うべきだったわ! 乙女ルーキア、背中治ったらボーナスで緩めのコルセットを買って、練習しようと今誓ったわ!

「でも気を遣ってくれずとも、君くらい受け止めたのに。海老反りで倒れなくても」
「そ、そうでしたの……。お怪我が無くて何よりでしたわ……。痛いブコゲフン……」

 海老反りの情報要らなかったわ……。何て姿で倒れてしまったの私ったら。悲惨よ。

 それに、うぐ、今気付いたけど。
 あっちの壁に掛けられてるドレスの丁度脹脛の当たりが破れている気配が……どどどどうしよう借り物なのに!
 あのビリッて音、まさかスカートを破った音だったの!? どどど、どうしよう! お借りしてるのにいいい!

「それで、一応説明に来たんだけど……」
「説明……そうですわ、説明を」

 そう、今回の説明よ。巻き込まれた事に関しては……騎士団の誰かに文句を言いたかったけど。……第三騎士団までグルなのかしら。考えたくないけど、可能性アリよね。
 そもそも我が一族の当主である伯父様が絡んでいる以上、もう抗議のしようが無いわ。腹立たしいけど。

 破れたドレスの弁償の有無は、後で考えましょう……。私ったら、有耶無耶に出来そうないい仕事してないかしら。お話をしっかり聞いて、チョロまかせそうな言質を取りたいものね……。うう、破れていても美しいドレスだわ。申し訳ないけどとてもお支払い出来そうにない艶と光沢……。せめて分割払いに持ち込みたい!!

「君が倒れてくれたお陰で、彼らから注目を逸らせてね。床に門を顕現させて、閉じ込めた」
「……つまり?」
「お前を囮にして、あの庶子共を我らが捕獲したという事だ、ルーキア」
「俺がね」
「ミシエレ殿も活躍されましたなあ。囮という大役を果たした我が姪ルーキアの次に」
「は、はあ」

 ……な、仲悪い……。然りげ無く肘で突きあうのやめて欲しいわ。大人げない光景は、見てて居た堪れないんだけど。

「コレで、王太子を更にすげ替える事も、うら若きもの識らぬ令嬢を騙しスペアを作らせる事も、防げた訳だ」
「そ、そうですか……」

 ミシー様のマジカルパワーで、あの金髪グラデーションの3人……キリエ、皇子、ジャージ氏を取っ捕まえたってことでオッケーなのかしら。
 あれ? ってことは……。嫌だわ、嫌な事に気付いてしまった

「……あの3人のお母様は……国王陛下の被害者なのですか?」
「言葉巧みに騙された被害者は他にもいるが、芽吹いたのは5人だ」
「げ、下種い……」
「更に下種な話、彼らの母君は婚約者に嫁いだ後、誰もが産褥で亡くなられている」
「な、何てこと……」

 い、言い方悪いけど……。託卵の上に……タイミング的に、暗殺疑惑!? そ、そういやキリエのお母様って幼少時に産褥で亡くなられてると聞いたわ。
 だから……寂しくて? あの顔目当てにホイホイ寄ってきたヒロインを国王陛下の思うがままに、構うのかしら。だとしたら、とても嫌な裏側ね。

 でも、ギャンブル狂チャラ男に……なったのは本人の責任ね。まあキリエの件は取り敢えず置いておこう。キリエのお母様がたのお話の方が大事よ。

「い、一時期でも情を交わした女性に……そんな仕打ちが出来るものなんですの!? 非情過ぎますわ」
「だろ。そんなのをこれ以上、王位に置く訳にはいかない。
 大体、夜会の開き過ぎで予算も逼迫してるし」
「流石、財務の長であるお父上に似て金勘定に細かいですな」
「家業柄ね」
「伯父様……。少々黙ってらして」

 ていうか、財務関係の貴族でいらしたのね、ミシー様。結局調べる暇が無かったのよね。

「そもそも……何故、態々お迎えになった王太子殿下を廃して、放置していた庶子……様がたを担ぎ出すような事になりましたの? 
 本来の王子様、王女様がたは何故お亡くなりに? どうして替え玉になる方々を……」
「それは……」
「本来の王子王女が亡くなったのは、落盤事故だよ。但し……」

 ボボボー!ボボーエー!!

 んん?
 ……こ、この重低音は!! 緊急事態の笛!
 何てタイミングで鳴らされるのよ!良いところだってのに!!

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