門番令嬢は舞台裏で治安維持したくない

宇和マチカ

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不審な場所で不審な香り

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「しっ、黙って」
「は、はほ……い」

 私、ルーキア。転生者でジョーサイド男爵令嬢なの。
 只今狭い通路に潜んでいるのよ! 
 殿方と夜会の裏側に潜伏中! なんて!
 やだ、ミシー様と接近して体が密着して、顔が近い! 吐息が掛かってしまうわ……。
 な、……何でこんな事に!!

 ……ちょっぴりガッツポーズが溢れ出るのは、気の所為よ!

「実は、ずっと……」
「は、はい……」

 お顔が近ーい! 見上げたら、ふ、触れてしまいそう! くくく、唇なんかが! お近くにキャー!
 ななな何でこんなおいし……訳の分らない事に!まきこまれているの?

 こんな……『ヒロイン的に何でこんな事に! 超ラッキー』を体験したかったなんて……うら若き乙女の秘密なんだから!
 でも、此処まで来る迄にちょこっと大変だったわね。






「……んがっ!」

 ……うっ、背中が冷たい。板張りの床に直に寝かされているわね、こりゃ。滅茶苦茶痛いわ。
 ……そして手にゴリゴリとした……こりゃ麻縄の感触ね。そして口に猿轡……。ご丁寧なやり口ね。一体何なのよ。
 頭も何だかクラクラするし。

 ……えーっと。此処は何処だ。暗いけど目が慣れてきたわね。ウチの実家、基本的に薄暗いからなあ。慣れてて良かったのか悪かったのか。
 どうやら……何処かの掘っ立て小屋みたい。
 隙間風とウオウオと不審な声が聞こえる所……獣ね? 
 よし! 何処かの山の中と見た!

 あの後……。ティナー侯爵家は復讐的な活気に満ちていたけど、取り敢えず軍の終業時間と同じ時間に帰らせて貰ったのよね。流石にか弱い文系乙女には、復讐迄はお手伝い出来ないし。

 でも、もう何も出てこないのかしら、あの四阿。
 まさか、あの変な女官共が就業してる間だけ出てくるの? 残業なし? 
 それなら何て規則正しい職場なのかしら。余所様のお宅に忍び込む&性犯罪をこなす重犯罪だというのに。悪人の方が福利厚生に厳しいのかしら。羨ましいわ腹の立つ。

 ……で、鎧を下げた鞄を持って、第三騎士団へ帰ろうと……したら麻袋を被されてしまったんだっけ。
 その中で異臭を嗅いでしまって、頭が痛くなって……。
 この異世界に不釣り合いな、発泡スチロールの臭いだったわ。
 もしかして……液体を染み込ませたハンカチでウッ! 気絶! 的なアレかしら。
 そしてこの掘っ立て小屋に突っ込まれた状況との併せ技で考えると……。

 ……誘拐……!!
 ……何故!? 私を!?

「ふんむ!」

 私がお勤めする第三騎士団への嫌がらせかしら?
 それとも今回の特別派遣門番任務へのクレーム?
 ミシー様への嫌がらせ?

 分からんわ!

 メリメリバリッ!

 ……こんな事もあろうかと、縄抜けを練習しておいて良かったわ。
 ……勢い余ってちょっぴり千切れたみたいだけど、縄がボロくて安物で助かったわ!

 さて。
 どうやらか弱い私は、卑劣な暴漢に拐われてしまったようね。
 でも、ね。解せないわー。何故私が拐われるの? 
 まさか、私ったらヒロインだったのかしら。
 確かに前世の記憶を思い出すし、攻略対象には……会った、いえニアミスしたけど……。
 男爵令嬢では有るけど、家は商家上がりでないし、ラストダンスどころか夜会に招かれた事すらないわ。

 因みにみんなの憧れデビュタントこと、お披露目会はこの国には無さげなの。
 だって、王都で馬車を持ってすらいない爵位持ちがワンサカと居るんだもの。
 日々の暮らしにカツカツで、王都に出て来れる余裕の有る爵位持ちばかりではないのよ。
 下っ端貴族生活は、世知辛いのよ。ドレスを拵えるにしても、莫大な費用掛かるんだから。

 そんなお金もない男爵家の娘の私が狙われたのは何故かしら。……はっ、まさか曾曾お祖父様のツケ絡み!? そんな! 100年くらい前なのに!?
 でも、曾お祖父様&お祖父様がご苦労にご苦労を重ねて全て返された筈。お可哀想にお亡くなりになったあの時は……。

「この女がミシエレの愛人なの? 図体はデカいし肌も汚いし……ゲテモノ食いも大概にして欲しいわ」
「……!」

 ぐおっ! 蹴られた!! ヒールの先で私の頭を蹴ったわ、この女!!
 ……ああ痛い! 腹が立つ! 
 ……でもお陰で頭が冴えたわ。気配は5人って所かしら。

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