門番令嬢は舞台裏で治安維持したくない

宇和マチカ

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素晴らしくも沼なお庭

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「コレだよ」
「……四阿あずまやですわね」

 其処に有ったのは……四阿。何かこう、白くて机と椅子が置いてある場所。
 ……お金持ちのお屋敷には必ず有る、屋根付きのよく分からないスペースよ。
 しかも美しいちょっと濃い目の芝生に、オレンジの薔薇の生け垣が背景という……。滅茶苦茶オーソドックスに美しい四阿だわ。 まあ、向こうに、美しい花々が咲き乱れるガラス張りの温室まで見えるわ! 素敵!

「此処が何か御座いましたか? まさか此方が不審者が湧いてくる入口だとか? 其処をお守りしますの?」

 イメージ的に魔界的な場所からこう、魑魅魍魎がドロドロヒューと、このキレイな四阿から湧き出てきたりしてー。
 タンスとか鏡とか、異次元に繋がってるのは浪漫よね。ふふふ、ファンタジーだわ!

「ん? 当たり」
「へえっ!?」
「ん?」
「ンゴフッ、……ホホホウホホフフフ、ご冗談を」

 ……いきなりホラー展開やめてくださらないかしらぁ!?
 私、オバケは苦手なのよ! 子供の時、寝ないからって御守りのジジババに怪談聞かされながら……あああ!! 何でも飲み込む金色に、首無し銀色に、ヌメヌメの緑青! ダメ! 思い出しちゃダメ!! 異国の怪談怖すぎる!!

「この四阿から女の不審者が現れるんだよね」
「そ、それは侵入者……なので、は? 勿論生きてる系の!!」
「急に顔色悪いけど、あの塀を見てどう思う」

 塀……。た、高いわね。
 しかも此処からもよく分かるほど太陽に照らされて煌めく棘が眩しいわ。……あれに手を置くだけで……痛そうね。でも、棘の上に土を詰めた袋を置くとかで対策は出来そう。

「あの植え込みも薔薇に見えるけど」
「えっ、違うんですか!?」

 薔薇の上に落ちると痛いから、塀の際に植える貴族も多いわ。防犯対策としてはオーソドックスかしら。

「沼薔薇だよ」
「ぬ、ヌマバラ? とは?」

 き、聞いたことない植物出て来たわね。何それ……。

「そう、沼薔薇。沼でしか咲かない特殊な薔薇モドキだよ。あの下は泥濘にしてあるから、迂闊に近寄ると足首までハマる。
 花言葉は『あなたを此処まで引き摺り落とす』」

 怖! 怖い花言葉! しかもこのキレイな薔薇、モドキなの!?
 ……し、知りたくなかったわ。しかも芝生に見える所が泥濘だなんて。
 だから、ミシー様は薔薇の近くに近寄られなかったのね。普通、薔薇自慢って、寄ってらっしゃい見てらっしゃい的に至近距離迄近寄らせるわよね。生け垣の薔薇を褒めたら一時間薔薇トーク聞かされた日誌を読んだわ。

「でも、侵入者があの薔薇を盗もうと近寄ると、足が抜けない。後、あの下に番亀が居るから」
「ば、バンガメ? とは……」

 何なのよバンガメって……。亀なの?
 はっ、まさか! あの風見鶏、亀なの!? ……亀だわ。
 じゃなくて!
 ペットとして買ったは良いけど、大きくなると予想以上にトゲトゲが生えてきて飼育困難になって、社会問題になってる……あの亀なの!?
 この前保護したの、見たわよ!?

「まさかその亀は、最近遺棄が問題になってる肉食のトゲトゲガメ……では」
「兼業で、ウチでは騎士団で捕まえてる亀を引き受けて保護活動をやってる」
「まあ! 素晴らしいですわね」
「……そう」

 ……い、意外と良い人!!
 確かにあの亀、どうやって保護するのかと思ってたのよ! 野生に返すにしても痩せたり病気だったり怪我した子も居たものね!

「沼薔薇はトゲトゲガメの栄養食だから、喜んで居てくれる。病気や怪我した子はあっちの温室にいる」
「まあ……! 偶に運ばれてくるので、気になっていたんですけど、此方に居ましたのね」
「だから侵入者は、軒並みウチの沼薔薇と番亀にこの辺は守ってもらってる」

 ……今見たら芝生の上をトゲトゲガメが歩いたり甲羅干ししたりしているわ。……色んなサイズが居るのね。やだ、和むわ……。

「良かったわ。この子達も元気そうで可愛らしいですわね……」
「……まあ、可愛くなくても別に……」

 寄ってきた亀の甲羅の突起を優しく撫でながらそんなそっぽを向かれても……。
 ツンデレなのね……。ちょっと可愛らしく見えなくも……。

「……はっ!?」
「何」

 ちょっと待って。
 ゲームに、ツンデレ担当攻略対象は居なかったかしら!?
 聖女のツンデレ弟、なんて滅茶苦茶攻略対象ぽい! 
 ……かな?

「いえ、何でも……」
「そう、じゃあ、この四阿を見張る門番任務に就いて」
「……四阿を……門番任務……」

 門ですらない……だと……!? よ。

「そ! そもそも……。四阿から他人が湧いて出るなんて有るんでしょうか? 非常識ですわ!」
「人の屋敷に無断侵入するのは、非常識な人間だろ」
「そ、そうですがそうではなく!」
「まあ、異界に繋がってるかもしれないし」
「い、異界に……!? そ、そんな事が起こりうるのですか!?」
「さあ。でも何か君、この間から立て続けに厄介事に巻き込まれてるから何かあるかもと思って。実験的に門番してみて」
「実験的な門番……」

 さっきから謎単語ばかりが目の前を駆け抜けていくわ……。何なのよ『実験的な門番』って。
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