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すわ一大事でロマンスか、ヒロイン襲来か
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「おい、ルークにキリエ、交代だぞ」
あ、詰所の兵士が来たわ。
もう交代の時間なのね。思ったよりは何も無くて良かったわ。はあ、会場の方が賑やかね。いいなあ。
「……」
「ルーク、ルーキア……。いや、怒ってね? ちょ、足速いな!! 本当に、板金鎧初めて着るのか!? マジで重い!!」
夜会の開かれているであろう、大ホールから漏れる光が眩しいわ。輝いてるわね。
確か、800人は収容できるって聞いたから……そんな人数が踊るとなると壮観でしょうね。いや、押し合いへし合いかな。優雅なのか殺伐なのか、どっちかしら。
……んん?
「……待てよ?」
「いやこっちの科白!! 待ってくれよ!!」
……800人の規模の会場の中から、知り合いを探すなんて滅茶苦茶無理ゲーよね。
そりゃ、会える訳無い。普通に会えないわ。
それに、待ち合わせ場所の打ち合わせも無しなんでしょ?
しかも入れ代わり立ち代わり皆動くのよ。使用人も入り乱れて……。
うーん、無理よね。
前世みたいにハイテク通信手段は無いのよ。オール人力か、狼煙か鳩位しか無いわ。
ワオ! 私達って偶然な出逢いね! しかも百回もお会い出来たわ!
なーんて事を?
……無理ね。
成程、高難易度過ぎる乙女ゲームだわ。こんなに思い出したってことは、クリアしたのよね? 前世の私、凄過ぎない?
「……」
でも……万が一隣の国の皇子ルートが成功してたら、完璧超人ヒロインを他国に略奪されるのね……。
折角の教育が水の泡!! その鍛えたヒロイン能力を使って、向こうの国から我が国に攻め込まれるかも!? 私も呑気に事務職やってられないの!?
やだ! 国の危機ね!! すわ一大事よね!?
防げて良かったわ!!
「ルーキア、悪かった!! 俺がお前と一緒に居たかっただけなんだ!!」
「えっ、何?」
……急に何なの!? キリエは何を言い出すの? 後、この鎧姿の時にはルーク呼びしろってのよ。
「何時も真面目で愛想いいから……気になってたんだ!!」
「キリエ……」
そっと伸ばされた手に包まれた私の手と彼の手が重なり……と言いたい所だけど。
ガショーン、と手甲同士が当たって無機質な金属音が無情にも鳴り響いたわ。
……待って、この絵面とても良くないわ。
私達、今、フルアーマーなのよ。
頭が冷めたから落ち着いて周りを見たら、見回りの兵士やら松明の番してる庭師の目が滅茶苦茶有るしね。嫌だわ、バルコニーにも高位貴族が野次馬に出て来てる!!
でもどうしよう。
でも何だか、恋の気配というか……。甘い雰囲気と言うか。
どうしよう。コイツ、アホ程チャラい上に、ギャンブル大好き穀潰し野郎なのに、ちょっとだけ! ときめいてしまうじゃないの!!
「もうこの場でしか言えないんだ、ルーキア」
「キリエ……場所を……」
「俺の兄貴の嫁になってくれないか!? ルーキアみたいな子が家を纏めてさ、親父の介護要員になってくれたらグハッ!!」
いけない、ついヤツの膝に回し蹴りを喰らわせてしまったじゃないの。
あまりに美しく吹っ飛んだものだから、……周りから拍手が巻き起こってしまったわ。
「お前のお父上の御心労である借金は、お前が拵えたんだろうが」
「は、ハイ……」
「お前の兄上が返済にご苦労されて、縁談を破談になったんだろうが」
「ハイ……」
だって私は下っ端とは言え、事務職だもの。騎士団に属する兵士のお金の流れは知ってるのよ。噂もジャンジャン入るわよ。
コイツの給料、借金返済の為に1/10しか渡らないようになってるものね。住処は兵士の寮だし、食費のみで済むように。
分かってんのかしらね? 木の下で大袈裟に足を擦るたわけ者は。
「す、スミマセンでした……」
「早く戻れ」
「ヒィィ!!」
どさくさ紛れに門から街中へ出ようとしてるから、つい槍を向けてしまったわ。
全く……。私の事を初心で可憐で世間知らずな田舎令嬢だと舐めて掛かっていたようね。その通りだけど!!
乙女でも、危機にはか弱くも反撃するんだから!
「ルーキア……お疲れ……」
「もう、これっきりにして頂きたいですわね」
……兵士の一人に労われてしまったわ。もう、アンタらが止めなさいよね! か弱い同僚がハニトラ未遂で詰め寄られていたのに!!
「あ、あの……夜会に……ええ!? あの声は、キリエ!?」
「招待状を見せなさい」
あら?何だか門にまた誰か来た? ……ゲームの製作失敗ドレスみたいな格好の女の子が居るけど……まさかなぁ。
「き、キリエが……!? そんな……攻略対象なのに何故兵士に……。同僚から暴力を」
「おいお嬢ちゃん、ブツクサ言ってないで招待状を出しなさい。不審者なのか?」
……おい、やはりヒロインなのね。キリエを狙っとったんかーい。
……そういや、キリエも顔だけは良かったわね。でも、攻略対象は、夜会に出られる立場……。
……キリエ、伯爵家の出だったわ。そういや。
女にハマって借金作って兵士やってなきゃ、普通に夜会に出られる立場よね。ヤツのルートは全く覚えてないな……。でも、どの道ヤツでは、ヒロインが不幸になるわね。
……図らずも、また治安維持に尽力してしまったわ。
「ルーキア、流石ジョーサイド第四副団長の姪御さんだ! これからも頼むよ」
「いいえ、全力を尽くしてもこのような細腕では頼りなく、荒事には向きませんで……」
要らないのよ、武力の評価は!! 欠員のシフト埋めなんか絶対しないからね!! 何時来たのかしら、サラッと兵士長も次を任せようとしないで欲しいわ!
はあ、私も夜会に出たいのにー。
「あの兵の殺気、只者じゃないな……。実験に付き合ってくれないだろうか」
「止めてください、ウチの姪なので……」
あ、あの銀髪はイケてないイケメンで有名なティナー侯爵令息のミシエレ様だわ。
三階のバルコニーから高みの見物かしら。上から目線で良いわよね。横のゴツいオッサンはもしかして伯父様? 室内警備なのねー。いいなー。何喋ってんのかしらね。
ミシエレ様は……あの人は攻略対象だったかしら。
何にしろ、夜会に出られていいなあ、ヒロインー。低爵位限定で跡継ぎ以外もオッケーの夜会とか無いものかしらね。
あ、詰所の兵士が来たわ。
もう交代の時間なのね。思ったよりは何も無くて良かったわ。はあ、会場の方が賑やかね。いいなあ。
「……」
「ルーク、ルーキア……。いや、怒ってね? ちょ、足速いな!! 本当に、板金鎧初めて着るのか!? マジで重い!!」
夜会の開かれているであろう、大ホールから漏れる光が眩しいわ。輝いてるわね。
確か、800人は収容できるって聞いたから……そんな人数が踊るとなると壮観でしょうね。いや、押し合いへし合いかな。優雅なのか殺伐なのか、どっちかしら。
……んん?
「……待てよ?」
「いやこっちの科白!! 待ってくれよ!!」
……800人の規模の会場の中から、知り合いを探すなんて滅茶苦茶無理ゲーよね。
そりゃ、会える訳無い。普通に会えないわ。
それに、待ち合わせ場所の打ち合わせも無しなんでしょ?
しかも入れ代わり立ち代わり皆動くのよ。使用人も入り乱れて……。
うーん、無理よね。
前世みたいにハイテク通信手段は無いのよ。オール人力か、狼煙か鳩位しか無いわ。
ワオ! 私達って偶然な出逢いね! しかも百回もお会い出来たわ!
なーんて事を?
……無理ね。
成程、高難易度過ぎる乙女ゲームだわ。こんなに思い出したってことは、クリアしたのよね? 前世の私、凄過ぎない?
「……」
でも……万が一隣の国の皇子ルートが成功してたら、完璧超人ヒロインを他国に略奪されるのね……。
折角の教育が水の泡!! その鍛えたヒロイン能力を使って、向こうの国から我が国に攻め込まれるかも!? 私も呑気に事務職やってられないの!?
やだ! 国の危機ね!! すわ一大事よね!?
防げて良かったわ!!
「ルーキア、悪かった!! 俺がお前と一緒に居たかっただけなんだ!!」
「えっ、何?」
……急に何なの!? キリエは何を言い出すの? 後、この鎧姿の時にはルーク呼びしろってのよ。
「何時も真面目で愛想いいから……気になってたんだ!!」
「キリエ……」
そっと伸ばされた手に包まれた私の手と彼の手が重なり……と言いたい所だけど。
ガショーン、と手甲同士が当たって無機質な金属音が無情にも鳴り響いたわ。
……待って、この絵面とても良くないわ。
私達、今、フルアーマーなのよ。
頭が冷めたから落ち着いて周りを見たら、見回りの兵士やら松明の番してる庭師の目が滅茶苦茶有るしね。嫌だわ、バルコニーにも高位貴族が野次馬に出て来てる!!
でもどうしよう。
でも何だか、恋の気配というか……。甘い雰囲気と言うか。
どうしよう。コイツ、アホ程チャラい上に、ギャンブル大好き穀潰し野郎なのに、ちょっとだけ! ときめいてしまうじゃないの!!
「もうこの場でしか言えないんだ、ルーキア」
「キリエ……場所を……」
「俺の兄貴の嫁になってくれないか!? ルーキアみたいな子が家を纏めてさ、親父の介護要員になってくれたらグハッ!!」
いけない、ついヤツの膝に回し蹴りを喰らわせてしまったじゃないの。
あまりに美しく吹っ飛んだものだから、……周りから拍手が巻き起こってしまったわ。
「お前のお父上の御心労である借金は、お前が拵えたんだろうが」
「は、ハイ……」
「お前の兄上が返済にご苦労されて、縁談を破談になったんだろうが」
「ハイ……」
だって私は下っ端とは言え、事務職だもの。騎士団に属する兵士のお金の流れは知ってるのよ。噂もジャンジャン入るわよ。
コイツの給料、借金返済の為に1/10しか渡らないようになってるものね。住処は兵士の寮だし、食費のみで済むように。
分かってんのかしらね? 木の下で大袈裟に足を擦るたわけ者は。
「す、スミマセンでした……」
「早く戻れ」
「ヒィィ!!」
どさくさ紛れに門から街中へ出ようとしてるから、つい槍を向けてしまったわ。
全く……。私の事を初心で可憐で世間知らずな田舎令嬢だと舐めて掛かっていたようね。その通りだけど!!
乙女でも、危機にはか弱くも反撃するんだから!
「ルーキア……お疲れ……」
「もう、これっきりにして頂きたいですわね」
……兵士の一人に労われてしまったわ。もう、アンタらが止めなさいよね! か弱い同僚がハニトラ未遂で詰め寄られていたのに!!
「あ、あの……夜会に……ええ!? あの声は、キリエ!?」
「招待状を見せなさい」
あら?何だか門にまた誰か来た? ……ゲームの製作失敗ドレスみたいな格好の女の子が居るけど……まさかなぁ。
「き、キリエが……!? そんな……攻略対象なのに何故兵士に……。同僚から暴力を」
「おいお嬢ちゃん、ブツクサ言ってないで招待状を出しなさい。不審者なのか?」
……おい、やはりヒロインなのね。キリエを狙っとったんかーい。
……そういや、キリエも顔だけは良かったわね。でも、攻略対象は、夜会に出られる立場……。
……キリエ、伯爵家の出だったわ。そういや。
女にハマって借金作って兵士やってなきゃ、普通に夜会に出られる立場よね。ヤツのルートは全く覚えてないな……。でも、どの道ヤツでは、ヒロインが不幸になるわね。
……図らずも、また治安維持に尽力してしまったわ。
「ルーキア、流石ジョーサイド第四副団長の姪御さんだ! これからも頼むよ」
「いいえ、全力を尽くしてもこのような細腕では頼りなく、荒事には向きませんで……」
要らないのよ、武力の評価は!! 欠員のシフト埋めなんか絶対しないからね!! 何時来たのかしら、サラッと兵士長も次を任せようとしないで欲しいわ!
はあ、私も夜会に出たいのにー。
「あの兵の殺気、只者じゃないな……。実験に付き合ってくれないだろうか」
「止めてください、ウチの姪なので……」
あ、あの銀髪はイケてないイケメンで有名なティナー侯爵令息のミシエレ様だわ。
三階のバルコニーから高みの見物かしら。上から目線で良いわよね。横のゴツいオッサンはもしかして伯父様? 室内警備なのねー。いいなー。何喋ってんのかしらね。
ミシエレ様は……あの人は攻略対象だったかしら。
何にしろ、夜会に出られていいなあ、ヒロインー。低爵位限定で跡継ぎ以外もオッケーの夜会とか無いものかしらね。
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