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それなりにとても幸せですわよ

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「本当にジャネットは、煩いわ。駄目なのね」
「何で、何であたしだけ……。
 ジェリン姉さんや、ジェイミーやシェリカにはそんな目を向けない癖に!!」

 ジャネットお姉様、いえ、ジャネットさんは何時も私達には判らない何か、を渇望しておられましたわ。
 ……まあ、元々自分の気持ちが抑えられない質では有ったようなのですが。
 直ぐ何かに目を取られたり、思い込んだ事のみに突っ走ったり頑固だったり……。
 ボーッとしたジェイミーお兄様と対局でしたわね。
 双子なのにとは思ってましたが、血の繋がりが皆無だとは思いませんでした。
 あまり一緒に暮らした記憶にない上の姉ジェリンとも違いましたわね。

 血を繋ぐための存在であるシュートックに生まれた私達。
 何となく、その歪さを感じ取っておられたのでしょうか。




 えー、本日は突き抜けるような青空も眩しい快晴。
 微笑みながら公園を散策なんて良いでしょうね……。鳥の声とか聞きながら、寄り添ってなんてね。
 うはふはふふ!

 しかし、現実は厳しくて。
 只今お祖父様のお宅、コルベッタ公爵家の離れに乗り込んで……いえ、お父様のロイド様シゴキ阻止計画へ行った所。
 因みに私はお父様達を監督、いえ眺めるお母様に捕まってしまったわ……。
 いやあ、コルベッタ公爵家のお庭のお花も美しいですわね……。あのラッパみたいなピンクと黄色の……何のお花なのかしら。
 侯爵夫人教育の中に花の名前を覚えるとか有りますけれど、食べられないけれど美しいですわね……で良いと思うのですわ……。

「あのお母様、ロイド様をちょっと解放……」
「婿殿はカルバートの好きにさせておきなさい。死なせないわよ」
「いえ、だから! こんな美しい公爵家で! 侯爵に丸太を担がせる意味有ります!?
 何時からド根性モノになりましたのよ!」
「婿殿が浮気したら木樵業務に就かせなさい。シューホワーは林業も盛んだったわね」
「新婚になんてことを!」

 母親の意見ですか、コレ!?
 裕福な生活をされて顔色が良くなられていても、相変わらずの塩対応!
 何処の世界に、新婚の娘婿……しかも侯爵に丸太を担がせる義父がおりますのよ!?
 いや、山間部の領地ならアリかしら……。
 いや、でもシューホワー家の領地、林業の従事者さん足りてますから!

「シェリカこそ、侯爵夫人なのにこの前ゴミ捨てに行こうとしたらしいわね」
「ぐっ、つい癖で」
「気を引き締めることね。高位貴族はくだらないことで足を引っ張って来るわよ」
「ぐっ……」
「ジャネットのワガママどころではなく、ね」

 ジャネットお姉様も、中々物理的に引き止められなかったなあ……。
 お陰で腕力が付いて、腕と肩を出すドレスを避けている日々ですわよ。
 何で高位貴族の御婦人って刺さりそうな肩してますの。栄養の行き届いてない私よりも窶れ気味な方居られますわよね。謎ですわ。
 ああ、早く色艶よくスラっとなりたい……。
 じゃなくて。

「ジャネットおね……ジャネットさんは、そう言えばどうしておいでで?」
「木樵の妻になったわ」
「……きこり。領内の方ですか?」

 とうとう観念なさったのかしら。でも、領内の方々は元々貴族の血筋……ですものね。まあ、基本町中には住めませんけれど。
 ジャケットさんにその理由は伝えられたのかしら。暫くしおらしくしてらしたとか?
 でも、領地の方々はジャネットさんの中身を滅茶苦茶ご存知だものね。誰かの気が変わったのかしら。

「いえ、隣の領地ヨコンの木樵よ。
 貴族と何の血の繋がりもない、一般的な平民」
「な、何ですって⁉ ヨコン⁉」

 え、町中で貴族となって綺麗な環境で暮らしたいってアレ程喚いてたのに⁉
 よりによって……ヨコン男爵領⁉ 
 山を5つほど越えて川を3つ程も越えて……でしたわよね?
 隣とはいえ、滅茶苦茶離れてますわよ⁉ 行き辛い道しか無いから、下手に王都に出るよりも大変ですけれど!?
 どうやって行ったのかしら……。ヒッチハイクするにも平民に横柄なジャネットさんが成功するかしら。
 駅馬車は日に1本なのに……。

「ど、どのような出会い頭を……まさか、怒って家出した挙げ句、道端でぶつかって因縁つけたとか?」
「ジャネットの性格をよく分かってるわね。似たようなものよ」
「しょ、詳細を! 詳細をお聞かせくださいませ!」
「戻ってきても家はなくなったと伝えてあるわ。もうあそこはジェイミーとリエネッダの家ですからね」
「いえそうではなくて」
「何。シェリカはあの家に未練が有るの?」
「無いですわよ」

 寒いですもの、あの家。
 そりゃあ今のお家が滅茶苦茶快適ですわよ。ちょこっとケバケバしくはありますが。
 予算が出たら絨毯の色変えていいかしら……。流石にあのショッキングピンク絨毯はちょっと玄関ホールに合いませんわよ……。そして、元メリリーンお嬢様の何故か焚き火臭いお部屋の改造もゆくゆくは……。あの方、まさか部屋で野営ごっこしてませんわよね。怖いわ……。
 とまあ、お勤め先ならどうでもいいですが、住むとなると中々度肝を抜かれるんですわよね。

「それなら良かった」
「いや良くないですわよ」
「放置なさい。もうジェリンもジャネットもジェイミーも、私は手を離した。
 私の手の内は、元男爵にてコルベッタ公爵令息カルバートと、その娘シューホワー侯爵夫人シェリカ。時々婿殿」
「流石にそれは」
「血は繋がれた。私の役目シュートックの家族ごっこはもうお終い。
 これから本来の私に戻るの」

 その時。お母様の目が、初めて見る優しげな色を纏っていましたの。
 そうして、気付きましたわ。お母様は穏やかでいられた時が有ったのかしら、と。
 やらかした方々の流刑先であるシュートックの本来の当主として。
 どれ程、辛酸を嘗めたのか私には分かりません。

 お母様は、ポツリと花瓶の花を見つめていました。
 そういえば、お花を飾るような余裕も無かったですわね。

「アマーリエから貰ったの。あの子は優しくて可愛いわね。昔のお前にそっくり。
 私、優しい伯母らしいわ。こんなに怖い顔をしているのに」
「え?」

 叔父様の娘、つまり私の従妹のアマーリエちゃんのことですわね。小さい頃の私のカラバリレベルで似てるらしいですわ。
 まあ、叔父様とお父様は本当に色違いかカラバリかドッペルゲンガーレベルで似てますものね。と言うか……間接的に私も褒めました?

「もう、カリカリしたくないのよ。だから、忘れるわ」
「お母様……」
「まあそもそも、私やりたいことしかやらないわ」
「お母様」

 いや言い方。
 呆れますわよ。
 そうして……結局分からなかった事ばかり。
 湯浴みと食事を御馳走になってから、帰りに公園デートしよう! なーんてロイド様が仰るものだから。

「……シェリカちゃん、ダネッ?」

 馬車を降りた途端、滅茶苦茶独特な御婦人に話しかけられましたわ。

「は、はい……?」

 見た目も……グルグル眼鏡って何処で売ってますの。しかも三つ編みって、小説のようですわね。
 他は普通の文官の服装……のようですが。

「君にお手紙ダヨっ! ウチに届いたからネッ!」
「お、お手紙……ですか?」
「……あ、貴女様は……」
「シィ! シークレットダヨっ」

 ……また、個性的な走り方で去っていかれました。
 誰。
 しかし、このお手紙……。受け取って良かったのかしら……。宛名は、シェリカへ……。何処かで見たことのある字ね。これ、お安くてお得な紙だわ。もう懐かしいわね。

「リリリリリエ……リエネ……」
「ロイド様?」

 ロイド様にはお心当たり有るのかしら。随分動揺されているみたい。

「と、兎に角読んでみろ」
「はあ……」
「あっ、人目につくといけない! 馬車の中で!」
「そんな大層な代物ですの⁉」

 一体誰なのあの配達の方……。
 ど、どれどれ……。あれ、差出人が塗り潰されている……。

『シェリカへ。
 あたしを最近見なくて心配してるでしょう?
 路銀が尽きたから、口説いてきた庶民と偽装結婚してやったの。
 でも、子供が出来たからここに住むことにしたわ。
 近くへ来たら寄りなさいよね。
 お祝いを受け取ってやるわ。

 最近、あたしのお陰で彼も小綺麗になってきたのよ。羨ましいでしょ。
 シェリカも、あたし以上は無理に決まってるけど、それなりの幸せを得ることね』

 ……これは……。

「……何が書いてあった?」
「……」
「シェリカ?」

 本当に、お手紙を余所の方に配達させるなんて世話の焼けるジャネットお姉様。

「ええ、ええ。それなりにとても幸せですわ、お姉様」
「シェリカ……」

 きっと、私はもうジャネットお姉様にはお会い出来ないのでしょう。
 お手紙も届けられないと思います。許されない立場に置かれてしまいました。

 でも、姉妹ですもの。姉妹でしたものね。
 ジェリンお姉様や、ジェイミーお兄様ともいつかお会い出来ると……信じてますわ。

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