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あれよあれよと
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あれから1週間。
何と言いますか。あれよあれよと逢瀬を重ね……って程でもありませんわね。
私はロイド様のご訪問を受けたりデートに誘って頂いたりしました。
元勤め先の上司の元婚約者様……。ギャグかと思わんばかりにご関係が遠い筈の方が私に求婚なさる方なんて……。巻き込まれて政略も入ってますけれど、そんな細かい事は宜しいのですわ。
私の結婚なんて、お姉様の二の次三の次で二束三文売り払われルートかと思っていましたのに……。
ご身分も確かで、御容姿も性格も卑しからぬ立派な方ですわよ。
ちょっとあのクソガキ元お嬢様へ未練が残っておられるようですが、長年の事ですので切り替えられないのは仕方ない事でしょう。
……本当にコレ、夢オチじゃありませんわよね?
公爵家で目覚める度、もしかしてその辺で行き倒れて意識不明していないかを疑いますわ。
「どうだい、シェリカ。まだグズグズしてるかなホワーの息子は。
気が利かないなら取り替えて貰うかい?」
「野菜が痛んでるから取り替えろ、みたいな言い方は止めてください、お父様」
お父様がチャチャを入れて参りますけれどね。
イラッとはしますが、こんなに長くお父様と居る機会もないので……複雑ですわ。
「シェリカお嬢様、ホワー伯爵令息様よりお届け物が……」
「まあ、綺麗な……お花!! 素敵!」
……侍女のニニーさんにワサッとした豪華な花束をブワッと見せて貰いましたけれど、童話で見たような無いような……全く何のお花なのか分かりませんわね。
お高そうなお色味で、ツヤツヤした花びらと張った葉っぱが丈夫そうです。きっと手塩にかけられた名品なのでしょう。美味しそうにすら見える艶ですわ。
……野菜に向けるような感想しか出てきませんわね、どうしましょう。綺麗ですしとても嬉しいのですけど、語彙が貧困すぎてどう言ったものでしょう!?
「孔雀草と温室咲きのチューリップだね」
「お、温室……これが噂の温室咲きのお花……。
そうですか。高価なものを頂いて……! お礼状を書きますので、ご準備頂けますか?」
「畏まりました」
お花の名前すら知らないので、トンチキな事を言っている自覚はありますわ。お父様の笑顔が生温いですもの。腹が立ちますわね。それに引き換えニニーさんは本当にプロです。尊敬しますわ。
今日のお出掛けは鳥園だそうです。
……王都って何でもありますのね。家畜なら見慣れていますけど、珍しい鳥をコレクションしていた貴族の道楽家が亡くなられた事で手放され、国営になったとか。
……鶏と野鳥しか縁の無い生活ですので、ワクワクしておりますわ。
馬車から降り立つと、そっと手を握られエスコートして頂きました。……勝手に降りてはならないそうなのですが……慣れませんわね。確かに裾を踏みそうになりますが。
「来てくれたか。丁寧な礼状を有り難う、シェリカ嬢」
「まあ、ロイド様……! 此方こそ素敵で大きな花束を頂きまして有り難う御座いました! あんな素敵なプレゼントは生まれて初めてですわ! しかも、こんな素敵な所にご招待を!」
お顔を見て、お会いするとスルッと笑顔が出て参りました。
小難しい事を考える暇もなく、ですわ。喜びがこう、溢れ出たと言いますか。中から聴いたことの無い鳥の声が……。
「うっ」
んんんん?
……急にロイド様の目から滂沱と涙が溢れだしました。え!泣いてますの⁉ 泣かれてます⁉
い、今泣く所御座いました⁉ どっちかと言うと私が泣いてお礼を言う場面では⁉
「……っ」
「ど、ど⁉ ど、どうなさいましたの⁉ 私、何か粗相を……⁉」
「ちが、違うのだ……。くら、比べてすまないのだが、メリリーンはそんな、温かい喜びを向けてはくれなかったから、嬉しくて……」
「ろ、ロイド様……」
どれだけ不憫なんですのこの方。
麻痺していたんでしょうが、やはりお辛かったんですわね……。
思わずジェイミーお兄様にしていたように、背中を撫でてハンカチで涙を拭ってしまいました。
「シェリカ、貴女は本当に、やらかされた情けない俺には勿体無い心の優しいご令嬢だ……」
「そんな……」
大したことは全くしておりませんし、限度見本が酷かったからですわね……。疲弊されてお気の毒過ぎますわ。こんな田舎娘の気遣い如きに勿体無い。
そして、ロイド様は私の前に跪かれました。
……え、何故。
「シェリカ・シュートック。どうか、俺の妻になってはくれないだろうか」
「お、おおっと……」
プロポーズされてしまいました。
……え、本当に⁉
……鳥園の入り口で……プロポーズ、されて……しまいましたわ。
「シェリカ、返事を」
「よ、よろ、喜んで……」
後でロイド様はお父様から滅茶苦茶ダメ出しを喰らったそうですが、本当に頭がハッピーで……。
あれよあれよとお話が進んでいくのが本当に信じられませんでしたのよ。
忘れた頃にトラブルはやってきますのにね……。
何と言いますか。あれよあれよと逢瀬を重ね……って程でもありませんわね。
私はロイド様のご訪問を受けたりデートに誘って頂いたりしました。
元勤め先の上司の元婚約者様……。ギャグかと思わんばかりにご関係が遠い筈の方が私に求婚なさる方なんて……。巻き込まれて政略も入ってますけれど、そんな細かい事は宜しいのですわ。
私の結婚なんて、お姉様の二の次三の次で二束三文売り払われルートかと思っていましたのに……。
ご身分も確かで、御容姿も性格も卑しからぬ立派な方ですわよ。
ちょっとあのクソガキ元お嬢様へ未練が残っておられるようですが、長年の事ですので切り替えられないのは仕方ない事でしょう。
……本当にコレ、夢オチじゃありませんわよね?
公爵家で目覚める度、もしかしてその辺で行き倒れて意識不明していないかを疑いますわ。
「どうだい、シェリカ。まだグズグズしてるかなホワーの息子は。
気が利かないなら取り替えて貰うかい?」
「野菜が痛んでるから取り替えろ、みたいな言い方は止めてください、お父様」
お父様がチャチャを入れて参りますけれどね。
イラッとはしますが、こんなに長くお父様と居る機会もないので……複雑ですわ。
「シェリカお嬢様、ホワー伯爵令息様よりお届け物が……」
「まあ、綺麗な……お花!! 素敵!」
……侍女のニニーさんにワサッとした豪華な花束をブワッと見せて貰いましたけれど、童話で見たような無いような……全く何のお花なのか分かりませんわね。
お高そうなお色味で、ツヤツヤした花びらと張った葉っぱが丈夫そうです。きっと手塩にかけられた名品なのでしょう。美味しそうにすら見える艶ですわ。
……野菜に向けるような感想しか出てきませんわね、どうしましょう。綺麗ですしとても嬉しいのですけど、語彙が貧困すぎてどう言ったものでしょう!?
「孔雀草と温室咲きのチューリップだね」
「お、温室……これが噂の温室咲きのお花……。
そうですか。高価なものを頂いて……! お礼状を書きますので、ご準備頂けますか?」
「畏まりました」
お花の名前すら知らないので、トンチキな事を言っている自覚はありますわ。お父様の笑顔が生温いですもの。腹が立ちますわね。それに引き換えニニーさんは本当にプロです。尊敬しますわ。
今日のお出掛けは鳥園だそうです。
……王都って何でもありますのね。家畜なら見慣れていますけど、珍しい鳥をコレクションしていた貴族の道楽家が亡くなられた事で手放され、国営になったとか。
……鶏と野鳥しか縁の無い生活ですので、ワクワクしておりますわ。
馬車から降り立つと、そっと手を握られエスコートして頂きました。……勝手に降りてはならないそうなのですが……慣れませんわね。確かに裾を踏みそうになりますが。
「来てくれたか。丁寧な礼状を有り難う、シェリカ嬢」
「まあ、ロイド様……! 此方こそ素敵で大きな花束を頂きまして有り難う御座いました! あんな素敵なプレゼントは生まれて初めてですわ! しかも、こんな素敵な所にご招待を!」
お顔を見て、お会いするとスルッと笑顔が出て参りました。
小難しい事を考える暇もなく、ですわ。喜びがこう、溢れ出たと言いますか。中から聴いたことの無い鳥の声が……。
「うっ」
んんんん?
……急にロイド様の目から滂沱と涙が溢れだしました。え!泣いてますの⁉ 泣かれてます⁉
い、今泣く所御座いました⁉ どっちかと言うと私が泣いてお礼を言う場面では⁉
「……っ」
「ど、ど⁉ ど、どうなさいましたの⁉ 私、何か粗相を……⁉」
「ちが、違うのだ……。くら、比べてすまないのだが、メリリーンはそんな、温かい喜びを向けてはくれなかったから、嬉しくて……」
「ろ、ロイド様……」
どれだけ不憫なんですのこの方。
麻痺していたんでしょうが、やはりお辛かったんですわね……。
思わずジェイミーお兄様にしていたように、背中を撫でてハンカチで涙を拭ってしまいました。
「シェリカ、貴女は本当に、やらかされた情けない俺には勿体無い心の優しいご令嬢だ……」
「そんな……」
大したことは全くしておりませんし、限度見本が酷かったからですわね……。疲弊されてお気の毒過ぎますわ。こんな田舎娘の気遣い如きに勿体無い。
そして、ロイド様は私の前に跪かれました。
……え、何故。
「シェリカ・シュートック。どうか、俺の妻になってはくれないだろうか」
「お、おおっと……」
プロポーズされてしまいました。
……え、本当に⁉
……鳥園の入り口で……プロポーズ、されて……しまいましたわ。
「シェリカ、返事を」
「よ、よろ、喜んで……」
後でロイド様はお父様から滅茶苦茶ダメ出しを喰らったそうですが、本当に頭がハッピーで……。
あれよあれよとお話が進んでいくのが本当に信じられませんでしたのよ。
忘れた頃にトラブルはやってきますのにね……。
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