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硬い御手に包まれて
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「侍女殿! 無事か⁉ ああ、無事なのだな⁉ すまなかった!!」
……ななななな何事ですの?
ええと、かなり困惑しながらも目の前の出来事を整理致しますと……。
えーと、あの……。逆ギレしながら逃亡されたお嬢様(元)のやらかしでお勤め先から何故かコルベッタ公爵家に運ばれた私、シェリカは……。
お父様のカラバリ……いえ、叔父様から我が家の……やらかした高貴な方々の流刑地であると言う事実を聞き、混乱と怒りの渦に放り込まれましたの。
で、落ち着いたと思ったら……クソガキお嬢様(元)の婚約者様であらせられたロイド様が、何故かいらっしゃいましたのよ。
そして、入ってこられるなり頭を下げられて無事を喜ばれ……熱烈なお詫びを頂いておりますわ。
な、何で……ですのよ。
「私が無知蒙昧で有ったが為に、コルベッタ公爵家に売られたと聞き!!」
「う、売られた⁉」
「そうだ! 二束三文でと聞いた!!」
に、二束三文……。ど、どうなってますの⁉
「ウチの娘の手を離していただけるかい?」
「む⁉ カーディフ卿、髪を染められたのか?」
……い、いつの間にか手を握られていましたのね。お父様に、バリバリ鳴りそうな勢いで剥がされましたわ! お陰様で手がこっちまで痛いんですけれど、どうしてくれますのよ!
ですけれど……ちょ、ちょっと照れちゃいそうでしたから丁度いいですけれど! 案外剣ダコの有る硬い御手でしたのね。
「いや待てよ、ウチの娘……?
シェリカ嬢、まさか君は公爵令嬢にも関わらず……公爵家の密命を受け、影に日向に工作員的に他家に仕えていたのではないか⁉ 屋根とかを走りながら!」
「屋根⁉ そんな訳が御座いませんわよ!! 何処の冒険小説ですの⁉」
堪り兼ねて思わず大声を出してしまいましたわ!屋根走りって何ですのよ!
たかが男爵令嬢に、そんな技能有る訳が無いでしょう!
「『庭掃きイビリッスに神降りす』の3巻54ページ目、リス目のメスリのポジションだ!」
「あっ、だっ……」
あんのかよ!! そんな変なシチュエーションの本が有るのかよ!!と、はしたなくも叫びそうになりましたわ!! 誰⁉
「ホワー家では何も聞いていないのかな?」
「父上からメリリーンが追い出されて、侍女が拐われたようだと聞いたのです」
せ、世間一般ではそういうお話になってますのね。
まあ、往来もザワついてましたし……侯爵家のお屋敷は人通りの多い所でしたものね。そりゃ噂になってしまいますでしょう……。何てこったそんな馬鹿な、ですわ……。
「俺がメリリーンを導かず結果、放置したから……。性根のちゃんとした侍女を拐わせてしまうなんて!
……何故です⁉ 公爵家とも有ろう家が! 一体彼女が何をしたと⁉」
「まあ、其処で喋っては当主失格か……」
……滅茶苦茶混乱されていらっしゃるわね。分かるわ……。でも、私を心配して公爵家に乗り込んで来られるなんて、何ていい方なのかしら。
私なんて、説明されても分かりませんし未だ混乱しておりますもの。
後、お父様の呟きが所々怖いですわよ。何なんですの。
「君はズガタカ侯爵家の入婿予定だったな。次男かね?」
「四男になります。破棄……と言うか……メリリーン……いえ、相手失踪の白紙撤回になりそうですね……。まだ話し合いは未定ですが」
……お気の毒に、ロイド様が沈んでいらっしゃるわ。恋は盲目と言いますけれど、本当にあのクソガキがお好きだったのね。
アレいえ、あの方の何が良いのか全く分からないけれど、恋をしたことがない私に詰る事は出来ませんわね……。
「この度は……私の力不足でお嬢様を逃してしまい」
「止めてくれ、侍女殿。
思えば私が視野狭窄すぎたのだ。
いずれ分かってくれる。昔の素直さに……と無駄な期待を……。君にも大迷惑を掛けてしまい……」
ふ、不憫すぎるわ……。確かにお悪い所も……諦めが悪いとか受け入れてないとかその辺とか御座いましたけれど。
この方の為さる事は、愛と労りに裏打ちされて満ちていたのに。手酷く裏切ったのは……あのお嬢様。
何でこんな良い方を苦しめたのかしら、あのクソガキ……。心が痛みますわ。
「浸っている所悪いが、シェリカは拐かされていないし、売られてもないし、工作員でもない」
「あ、は、ハイ。少し考えが先行し過ぎました」
ご、誤解は解けたのかしら。それならば、良かったですけれど。
「分かるけどね。格好良いよねイビリッス。私の推しはカッサラーイだけど」
「あの本をご存じで⁉」
「私の若い頃から有るよ。ふむむ……」
お父様がジロジロとロイド様を眺めておられます。
居心地が悪そうですわ、お気の毒に。
「理由を説明しても良いが、戻れなくなるぞ?」
「あの、お父様。私にも理由が説明されましたけれど、戻れないとはどういう事ですの?」
「……何!?侍女殿にも⁉ ……独りで抱え込ませる……それはいけない。是非俺にもお話しください!」
……大丈夫なのかしら、ロイド様……。
義勇心に溢れたツンデレなのかと思いきや、結構天然な方なのね。
……ななななな何事ですの?
ええと、かなり困惑しながらも目の前の出来事を整理致しますと……。
えーと、あの……。逆ギレしながら逃亡されたお嬢様(元)のやらかしでお勤め先から何故かコルベッタ公爵家に運ばれた私、シェリカは……。
お父様のカラバリ……いえ、叔父様から我が家の……やらかした高貴な方々の流刑地であると言う事実を聞き、混乱と怒りの渦に放り込まれましたの。
で、落ち着いたと思ったら……クソガキお嬢様(元)の婚約者様であらせられたロイド様が、何故かいらっしゃいましたのよ。
そして、入ってこられるなり頭を下げられて無事を喜ばれ……熱烈なお詫びを頂いておりますわ。
な、何で……ですのよ。
「私が無知蒙昧で有ったが為に、コルベッタ公爵家に売られたと聞き!!」
「う、売られた⁉」
「そうだ! 二束三文でと聞いた!!」
に、二束三文……。ど、どうなってますの⁉
「ウチの娘の手を離していただけるかい?」
「む⁉ カーディフ卿、髪を染められたのか?」
……い、いつの間にか手を握られていましたのね。お父様に、バリバリ鳴りそうな勢いで剥がされましたわ! お陰様で手がこっちまで痛いんですけれど、どうしてくれますのよ!
ですけれど……ちょ、ちょっと照れちゃいそうでしたから丁度いいですけれど! 案外剣ダコの有る硬い御手でしたのね。
「いや待てよ、ウチの娘……?
シェリカ嬢、まさか君は公爵令嬢にも関わらず……公爵家の密命を受け、影に日向に工作員的に他家に仕えていたのではないか⁉ 屋根とかを走りながら!」
「屋根⁉ そんな訳が御座いませんわよ!! 何処の冒険小説ですの⁉」
堪り兼ねて思わず大声を出してしまいましたわ!屋根走りって何ですのよ!
たかが男爵令嬢に、そんな技能有る訳が無いでしょう!
「『庭掃きイビリッスに神降りす』の3巻54ページ目、リス目のメスリのポジションだ!」
「あっ、だっ……」
あんのかよ!! そんな変なシチュエーションの本が有るのかよ!!と、はしたなくも叫びそうになりましたわ!! 誰⁉
「ホワー家では何も聞いていないのかな?」
「父上からメリリーンが追い出されて、侍女が拐われたようだと聞いたのです」
せ、世間一般ではそういうお話になってますのね。
まあ、往来もザワついてましたし……侯爵家のお屋敷は人通りの多い所でしたものね。そりゃ噂になってしまいますでしょう……。何てこったそんな馬鹿な、ですわ……。
「俺がメリリーンを導かず結果、放置したから……。性根のちゃんとした侍女を拐わせてしまうなんて!
……何故です⁉ 公爵家とも有ろう家が! 一体彼女が何をしたと⁉」
「まあ、其処で喋っては当主失格か……」
……滅茶苦茶混乱されていらっしゃるわね。分かるわ……。でも、私を心配して公爵家に乗り込んで来られるなんて、何ていい方なのかしら。
私なんて、説明されても分かりませんし未だ混乱しておりますもの。
後、お父様の呟きが所々怖いですわよ。何なんですの。
「君はズガタカ侯爵家の入婿予定だったな。次男かね?」
「四男になります。破棄……と言うか……メリリーン……いえ、相手失踪の白紙撤回になりそうですね……。まだ話し合いは未定ですが」
……お気の毒に、ロイド様が沈んでいらっしゃるわ。恋は盲目と言いますけれど、本当にあのクソガキがお好きだったのね。
アレいえ、あの方の何が良いのか全く分からないけれど、恋をしたことがない私に詰る事は出来ませんわね……。
「この度は……私の力不足でお嬢様を逃してしまい」
「止めてくれ、侍女殿。
思えば私が視野狭窄すぎたのだ。
いずれ分かってくれる。昔の素直さに……と無駄な期待を……。君にも大迷惑を掛けてしまい……」
ふ、不憫すぎるわ……。確かにお悪い所も……諦めが悪いとか受け入れてないとかその辺とか御座いましたけれど。
この方の為さる事は、愛と労りに裏打ちされて満ちていたのに。手酷く裏切ったのは……あのお嬢様。
何でこんな良い方を苦しめたのかしら、あのクソガキ……。心が痛みますわ。
「浸っている所悪いが、シェリカは拐かされていないし、売られてもないし、工作員でもない」
「あ、は、ハイ。少し考えが先行し過ぎました」
ご、誤解は解けたのかしら。それならば、良かったですけれど。
「分かるけどね。格好良いよねイビリッス。私の推しはカッサラーイだけど」
「あの本をご存じで⁉」
「私の若い頃から有るよ。ふむむ……」
お父様がジロジロとロイド様を眺めておられます。
居心地が悪そうですわ、お気の毒に。
「理由を説明しても良いが、戻れなくなるぞ?」
「あの、お父様。私にも理由が説明されましたけれど、戻れないとはどういう事ですの?」
「……何!?侍女殿にも⁉ ……独りで抱え込ませる……それはいけない。是非俺にもお話しください!」
……大丈夫なのかしら、ロイド様……。
義勇心に溢れたツンデレなのかと思いきや、結構天然な方なのね。
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