やらかし婚約者様の引き取り先

宇和マチカ

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初見でも分かり易いご関係

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 本日はキレた……いえ、業を煮やした侯爵様が無理矢理お嬢様を引き出して、厳命されました。

「婚約者と……これ以上きちんとした理由もなく会わないなら、食を断つ」

 と。
 平民になりたいと宣われる割に、所詮お嬢様は贅沢三昧の食生活なので、直ぐに音を上げられたの。
 ……一食や二食抜く位、平民からしたら普通なんですけれどねぇ。まあ、私も貧乏生活長いですし。

 でも、もっと早く手を打たれれば、と思いますわ。甘いんですのよね……。侯爵様も奥方様もダダ甘ですわよ。

 それで、兵糧攻めにて、お嬢様は婚約者様にお会いになられました。それなのに、ねえ。
 お嬢様は婚約者様とメンチを切り合って……柔らかく表現すれば強めに見つめあっておられます。
 今にも胸ぐら掴んでドツキ合いをしそうな雰囲気なんですわ……。

 何でこんな煌びやかな屋敷で、場末の喧嘩の雰囲気を味わっているのかしら、私……。

「何でオマエなんかと会わなきゃなんねーんだ」

 ああ、お嬢様の沸点は……今日もズガタカイ山の気圧よりも低いようです。
 因みにズガタカイ山は窓から見える、我が国では一番高い山だそうですわ。

 そんなお付き合い方はダメよ、とつい先週奥方様に散々こんこんと止めどなく怒られたと言うのに……。
 お嬢様の脳内は妄想しか留めておけないのかしら。

「何見てんだやんのかコラ」
「お嬢様、お言葉が」
「やるんですかコラ」
「お嬢様、コラは要りません」
「やる訳無いだろう愚か者が!!」

 ああ、ロイド様も堪り兼ねて……熱した油に水を注ぐような、要らないことを!! もう少し……耐えられませんわよね。ですけど、お嬢様の顔!見事に沸点超えて爆ぜてるじゃないの!!

 何故こんなことになったのかしら。

 お嬢様と、婚約者様のご関係。それを我らの平民言葉で表すと……その辺のクソガキと……お優しいんですけれど、ツンデレ?
 ……この組み合わせは、水と油。

 いやでも、常に傍に置けば、情も湧くでしょう。
 水と油なら掻き回したら、乳化するんじゃ? いずれ纏まるさ。

 重ねて言いますが、薄ーいご縁の分家筋からやってきた着任したての新参者の私でも分かります。
 なりませんのよ。混ぜるだけでは無理なんですのよ。乳化とは、職人技なのです。繋ぎも必要なのですわ。

 まあ、世間様にはそのようにして生まれるロマンスも他ではありましょう。愛読書の『週刊淑女の連撃』のお便りコーナーにも出てましたもの。来週号は一撃必殺! トキメキ秋波の照準大特集! だったかしら。雑誌も買えるように……いえ、節約節約。先輩方からお借りしましょうかしら。

 ……いえいえ。現実逃避してはね、ええ。諦めてはダメ。諦めても銭は生まれないし生活は向上しないわ。
 兎に角、このやりとりを報告すべくメモらねば……。見せて頂いた1月前の資料と全く一緒の流れなのに……。本当に必要なのかしら、コレ。ホント紙の無駄……いえいえ。ええ。はあ……。

 兎に角、時間を掛ければ婚約は上手く行くさハハハ!的な緩ぅーいお考えは……、どちらのご両親もお棄てになられたら宜しかったのにねぇ。
 本当に報告する紙の無駄……いえ、いえいえ。ええ。つい口から出そうになるわね。
 でも、鬱憤を思うだけはタダですもの。思わずにいられましょうか。

 このおふたり、お嬢様の留学中もちょくちょくお会いになられ……無理矢理引き合わされていたんでしょうね。兎に角10年この距離感なんですって。

 ……もう、無理でしょうよ。
 碌でもないわよね……。

 お嬢様は、婚約者様と嫌い合っているとお思いです。
 婚約者様は、お嬢様がツンデレしてるとお思いなようです。
 ……何でなんですかしら。
 誰もが思う、破綻秒読みは間近。どうしてお止めになられないの?

「はあ……素直になれないヤツめ。……ハハハ」

 ポジティブ極まる婚約者様に……いえ、肩はキッチリ毎度落としておられますけど。

 お辛そうでお気の毒でならないわ……。
 どうにかして……婚約を解消出来ないものなのかしら。




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