やらかし婚約者様の引き取り先

宇和マチカ

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聞いたことのある声が就職先に響く

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 ズガタカ侯爵家。
 ええと、シュートック男爵家とは三代前だったかのお祖父様が、ご学友だったか何だったかで御縁が有って、寄り親筋というか主家筋としてのお付き合いが薄ーくあるお家柄ですって。

 ええ、そもそも別に主家筋だからって特に優遇措置も無かったんだけれどもね。特に何もしてくださらなかったわね。
 ええ。別に文句を申し上げられる立場ではないのだけれど。その辺の繋がりは濃く持ちつ持たれつでして頂きたかったわ。17年前の寒波の時とかにね。

 ……少々理不尽だけれど、気を取り直してお屋敷を見るに、……審美眼の学べなかった私の目にも、とっても豊かですわ。
 正門なんか、上に逆光でよく見えないけど鷹だかカモメの彫刻だか載ってるもの。
 使用人枠……いえ、辛うじて爵位持ちの家に生まれたから、侍女枠で滑り込んだ私は使用人門から出入りだけれどね。
 それでも、我がシュートックのアホみたいに重いだけの錆びた門よりも、軽くて丈夫そう。蔦の意匠も素敵な立派な門ですわ。お金が貯まったらあの門もこういうのに取り替えたいものね……。

 そして足を踏み入れると……もう、生えてる草のオーラすら違いますわね。何かしら、この柔らかさは。王宮の中庭レベルでは無いかしら?

「おい、どういうことだ?
 ちゃんと3日前に訪れると手紙を出した筈だぞ!!今日会えないとは⁉ 私の何が気に入らぬのだ⁉」
「それが……」

 足元の草に感動していたら、厩舎でモメている声が聞こえるよう。
 でも、善き侍女アピールしなきゃ。こういうのは見てみないフリに限るんですのよ。
 噂話はお勤めして半年! ミーハー心はそれまで我慢! 前を向いて何事もなかったかのように!
 余所者は控えめすぎるくらいでいいのよ! 田舎だからその辺の機微は分かっているわ!

「シュートック嬢、此方で面接をしますから」
「はい、先輩。お手間をお掛けして申し訳御座いません」

 ……先導してくれるお仕着せの女性の目が怖いわー。
 この反応で当たりだったみたいね。
 滅茶苦茶試されているわ。流石高位貴族のお屋敷。チェックが厳しいわ。すれ違う使用人の目線すら合わないのに視線を感じる……。どういう事なのかしら? 目が肩とか足に付いてるの?
 今のところ過激な見た目の人外は見当たらないけれど。
 まあ、化け物屋敷でも魑魅魍魎屋敷でもお給金さえ良いならどうでも良いことよね。でも、いざという時は証拠を固めて頑張って逃げましょう。流石に本物のお化けは怖いわ。

「……この娘なら保つかしら……」

 ……おおっとー⁉ 不穏なコメントが漏れ聞こえて来たわね。い、一体何が待っているのかしら。侍女修行ですの?
 其処に見えてるバカデカイ三段噴水に打たれろとか?本を頭に10冊くらい乗せて歩けとかかしら?それとも本当に魑魅魍魎とバトル?
 ……最後は少し自信がないわね。逃げられるかしら。後で何処に隠れたらやり過ごせるか、見ておかないといけませんわ……。

「……一体私の何が気に食わんのだろう。メリリーンは……」

 ……メリリーン? 此処の跡取り娘のメリリーン・ズガタカ侯爵令嬢のことかしら?
 と言うことはあの何処かで聞いた気のする大声は、メリリーン嬢の婚約者?
 ……お約束アリで訪ねてきた婚約者をすっぽかしたってことですか?

 まあ、意外。そっちの方の魑魅魍魎だったのね。
 ……だけれど、雇われて1日未満の私がお嬢様に関わることなんて早々無いでしょう。
 私よりも2つ歳上の19歳だと聞いたけれど、礼儀知らずかぁ。
 我が国の貴族としてはとっくにご結婚なさっても良いお歳だけれど、ご事情でなさってないとか。それは各々のご事情だから私はどうでも良いけれど、婚約者を追い返すだなんて困ったことですわね。

 と、思いきり他人事だったのだけれど……まさか即、この足で私がお嬢様の侍女に抜擢されるだなんて思わなかったわ。
 どういうことなんですの!?
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