やらかし婚約者様の引き取り先

宇和マチカ

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お母様の采配

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「居ない者は仕方ない。
 ジャネット、お前が家を継ぎなさい」
「お母様⁉」

 帰ってくるなり、それはなくない⁉
 こちとら長旅で疲れきって、旅の埃を落とすかーって言ってた所よ⁉ お姉様も愕然としているわ、お珍しい!

「嘘でしょ⁉」
「嘘なものですか。シュートックはお前が継ぐのよ」

 そしてその後、夕食時にもお母様の意見は変わらないの。本当に……お母様の鶴の一声で、ジャネットお姉様が我が家を継ぐ事になってしまったの!?
 お父様は!?便りすら無いって!?どうなっているのよ、家長!いえ殆ど領内はお母様の采配だけれど!

 きゅ、急展開が過ぎない⁉
 重ねて言うけど、帰ってきて未だ旅装すら解いて直ぐなのよ⁉ 未だ荷物は埃だらけだったのよ!⁉

「なっ……何で……⁉
 ねえお母様、何で、私が⁉」
「何の為にお前を養育してきたのか分かっている?
 お前の義務よ。これは決定事項」

 お母様の眼差しは相変わらず冷たすぎるし、迫力が有りすぎるわ。
 こんな田舎生まれなのに、場違いな威圧感が酷いのよね……。
 いえ、気の強さに都会も田舎も関係ないのかしら。気の強い友人関係が居なくて小心者でツルんで居るから、分からないわ……。

「嫌よそんなの!! ジェイミーを探し出せば良いじゃない!!」
「警備騎士が探して見つからなかったジェイミーを、どうやって探し出すの? 我が家にそんな余裕はないわ。探すならお前だけでお探しなさい。
 王都への旅費は出さないわ」

 ああ、今日も薄い壁を通して大声が煩い……!!
 お姉様のガチギレ激怒ぶりにも全く無反応。そして、何処吹く風のお母様……。
 しかし諦めないお姉さまの怒鳴り声が連日、我が家に響き渡る羽目になってしまい……。滅茶苦茶家がギスギスしているのよ!!

「嫌よ!! こんなド田舎! 誰が継ぐもんですか! 私は都会で結婚するの!!」
「お前みたいなマナーもなってない慮外者が、都会で結婚出来る訳無いわ」

 そうなのよね。当然ながらド田舎……、いえ、我が領内でも評判の『瞬間火打ち石』と呼ばれるお姉様に婿は見付からないし……銭で誰か釣ろう、いえお誘いしようにも常にカツカツの我が家には……最早銭、いえ財産はないの。

 八方塞がりとは、正にこの事。

 私が脱出して、オマケに姉の結婚相手でも見付からないかしら。そんな事も密かに企みつつ。
 私は友人知人、親族にお手紙を書きまくったわ。
 腱鞘炎になるかと思う程、薄い薄い御縁を辿ったんですわ!

 そして手紙攻撃が功を奏し、本日は行儀見習い……というか、滅茶苦茶実務でガッツリ働く気で、私は主家筋の門を叩いたのですわ。
 旅費はお小遣いを貯めたんだけど、何と勤め先が出してくださったの! ラッキー!!

 一刻も家から出たいし居づらかったのよ。やったわ! 希望に満ちたこの日が……やっと!! 来た、ような⁉  因みにお姉様のお婿様は見付からなかったわ。……あの大荷物騒動が高速で広まっていたらしいの。
 後、夜会での態度の悪い不貞腐れぶりとかね……。
 ……もういいや。お姉様の件はお母様にお任せしましょう。

「そう。あの男の娘にしては……善良に育ったわね、シェリカ。良いわ、束の間だけど行ってらっしゃい」

 出稼ぎに行くと言ったら、お母様に珍しく褒められたもの。それにしてもお母様は相変わらず全方向へ塩対応ね。  
 流石王都で『岩塩鉱の君』と呼ばれてるだけあるわ。
 岩塩鉱がちょっと採れる小さい鉱山が有って数少ない特産品にしてるから、その線の渾名だと思ったのにね……。分け隔てなく塩対応だからですって。酷いにも程があるわと思ったけれど、もう諦めたの。
 シュートックも塩漬けの地とか散々だものね。
 人の噂と貧乏は辛いのよ。

 因みにお姉様は領主教育を詰め込まれて脱走しては地下牢へ閉じ込められていたわ。
 ……さっき見たけど、地下牢に端切れを縫い止めた絨毯とか机とか持ち込まれて居心地よく整えられてたわね。まさかお姉様は此処に住む気なの?
 いやまあ、地下の方が室温が良いのは事実だけれど。閉めきっているしね。他は隙間風が酷いったら無いのよ。

 いえ、でもいいわ。家の事は暫く棚に上げましょう。お金を稼いで、よりよき未来への希望を築くのよ!
 お姉様のお婿様にも……私が一生懸命働いて、お勤め先が良い感じの嫁ぎ先をお世話してくださるかも。
 身分とか気にしませんから!

 ……でもまあ、良いお話にはそれなりの理由が有る訳なんですのよね。
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