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いつも通りでいつもじゃない日
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「高飛車王女様がイケメン婚約者にハチャメチャな理由で婚約破棄を叩きつけ……へえー」
やっと辿り着いた我が家のタウンハウスは、平民街に構えたお風呂無しの合計三部屋しかない平均的に手狭な平屋。
普段は、他人に貸して家賃を取ってる所なんですのよ。
見回してみると……今回の賃借人のマナーはマシみたいですわね。目立った粗は見当たらない。
前回は炭と砂埃だらけでしたわ。……お姉様がブチギレてたものね。ああ思い出したくないわ。
でも、1ヶ月しか滞在しないのに何でタウンハウスが必要なのかしら。
と言うか家族全員……単身赴任中のお父様は官舎住まいで、調子の悪いお母様と嫁いだお姉様は来なかったけど……この三人兄妹で来る必要有るのかしら?
宿屋の方が絶対居心地良いのに。
三人の予算を一纏めしたら、宿を取れる筈なのに! 代表でひとりで良かったのに!! 兄姉の面倒をよく見ている私だけとか!! ええ、私とかが!!
……虚しいわね。あら、新聞に宿屋の広告載ってる。いいなー。屋上にプール付きのお宿ですって。
……ちょっとシーズンオフだけどきっとプールだなんて楽しいでしょうね……。お洒落な飲み物も描いてあって……どんなお味がするのかしら。
「シェリカ、新聞ばかり読んでないで荷解き手伝って」
「……はーい」
王都からの新聞を読んでたら、直ぐ上の姉のジャネットに呼ばれてしまったわ。
しかも、良く見たら昨日の新聞ね、コレは。店子の人が置いていったのかしら? まあ、良いか。焚き付けにしておきましょう。
しっかし、さっきから気になってたけど、この荷物デカすぎないかしら? ……何が入ってるのかしら。
「ジェイミーお兄様は?」
無口なもんだから、気が付かなかった。いつの間にか居なくなってしまったわ。放浪癖が直らないなー。
「騎士団を見に行った。……夢見るだけはタダだから、止めなかったけど」
ジャネットお姉様は、双子の兄のジェイミーお兄様に随分辛辣よね。
一応へなちょこながらも剣に振り回されて鍛練を怠らないのに……。ええ、しょっちゅう腰痛やら打ち身やらで唸っているのが煩いから、やめといた方がいいとは私も思うのだけれどね。
「ジャネットお姉様、荷物に何を入れたの?」
「布団よ。今置いてるの、小汚ないかもしれない他人が使ってた寝具よ⁉ 洗ってる間、この寝具で過ごすのよ」
「そ、そう……」
寝られりゃいいだけの私とは違い、ジャネットお姉様は田舎住まいなのに無駄に気持ち悪がり……デリケートなのよね。
いやまあ、前回の炭と砂埃で家の中が真っ白及び真っ黒の件が尾を引いてるんでしょうけれど。
でも、あんな目立ってまで寝具一式持ってこようって気概が分からないわ。砂埃程度、払えば良いじゃないの。
しかも、洗濯も何も明日は雨の予報が新聞に……いや、今日か。パラパラと雨が降りだしてしまった。
「お兄様、傘持ってったのかしら」
「ちょっと濡れたって死にやしないわよ」
「虚弱で直ぐ風邪を引くお兄様にそれはないわよ。
この辺にお風呂屋さんって未だ有ったかしら……」
何せ都会はコロコロお店が変わるし……覚えた! と思ったらもう帰還しないといけないのよ。物価も高いし。
前回来た時にお世話になった安かった果物屋さん、さっき無かった気がするわ……。やだわあ。お兄様が帰ってきたら探索に付き合って貰おうっと。
「世話が焼けるわねえ……。シェリカ、竈に火を着けて頂戴」
「はーい」
何時ものところに薪あったかしら。やだ、この火打ち石、欠けてるわ。んもー! 前の借り主はマナーの悪い方ね!
でも。でも。
そんな苦労をしてお湯を沸かしたものの、お兄様は帰ってこなかったのです。
お父様が帰ってきても、ずっと。
「……ジェイミーは、何処に行ってしまったの!?」
「まさか……いや、まさかな」
お父様が暗い顔で首を捻っておられたけど結局お兄様は戻らなくて……ヤキモキしながら、社交シーズンが終わる。今年も特に何も起こらず壁の花仲間と気もそぞろながらも駄弁ったのよ……。
何処行ったのよ、お兄様……。ヤキモキしても、全く行方は分からない……。
やっと辿り着いた我が家のタウンハウスは、平民街に構えたお風呂無しの合計三部屋しかない平均的に手狭な平屋。
普段は、他人に貸して家賃を取ってる所なんですのよ。
見回してみると……今回の賃借人のマナーはマシみたいですわね。目立った粗は見当たらない。
前回は炭と砂埃だらけでしたわ。……お姉様がブチギレてたものね。ああ思い出したくないわ。
でも、1ヶ月しか滞在しないのに何でタウンハウスが必要なのかしら。
と言うか家族全員……単身赴任中のお父様は官舎住まいで、調子の悪いお母様と嫁いだお姉様は来なかったけど……この三人兄妹で来る必要有るのかしら?
宿屋の方が絶対居心地良いのに。
三人の予算を一纏めしたら、宿を取れる筈なのに! 代表でひとりで良かったのに!! 兄姉の面倒をよく見ている私だけとか!! ええ、私とかが!!
……虚しいわね。あら、新聞に宿屋の広告載ってる。いいなー。屋上にプール付きのお宿ですって。
……ちょっとシーズンオフだけどきっとプールだなんて楽しいでしょうね……。お洒落な飲み物も描いてあって……どんなお味がするのかしら。
「シェリカ、新聞ばかり読んでないで荷解き手伝って」
「……はーい」
王都からの新聞を読んでたら、直ぐ上の姉のジャネットに呼ばれてしまったわ。
しかも、良く見たら昨日の新聞ね、コレは。店子の人が置いていったのかしら? まあ、良いか。焚き付けにしておきましょう。
しっかし、さっきから気になってたけど、この荷物デカすぎないかしら? ……何が入ってるのかしら。
「ジェイミーお兄様は?」
無口なもんだから、気が付かなかった。いつの間にか居なくなってしまったわ。放浪癖が直らないなー。
「騎士団を見に行った。……夢見るだけはタダだから、止めなかったけど」
ジャネットお姉様は、双子の兄のジェイミーお兄様に随分辛辣よね。
一応へなちょこながらも剣に振り回されて鍛練を怠らないのに……。ええ、しょっちゅう腰痛やら打ち身やらで唸っているのが煩いから、やめといた方がいいとは私も思うのだけれどね。
「ジャネットお姉様、荷物に何を入れたの?」
「布団よ。今置いてるの、小汚ないかもしれない他人が使ってた寝具よ⁉ 洗ってる間、この寝具で過ごすのよ」
「そ、そう……」
寝られりゃいいだけの私とは違い、ジャネットお姉様は田舎住まいなのに無駄に気持ち悪がり……デリケートなのよね。
いやまあ、前回の炭と砂埃で家の中が真っ白及び真っ黒の件が尾を引いてるんでしょうけれど。
でも、あんな目立ってまで寝具一式持ってこようって気概が分からないわ。砂埃程度、払えば良いじゃないの。
しかも、洗濯も何も明日は雨の予報が新聞に……いや、今日か。パラパラと雨が降りだしてしまった。
「お兄様、傘持ってったのかしら」
「ちょっと濡れたって死にやしないわよ」
「虚弱で直ぐ風邪を引くお兄様にそれはないわよ。
この辺にお風呂屋さんって未だ有ったかしら……」
何せ都会はコロコロお店が変わるし……覚えた! と思ったらもう帰還しないといけないのよ。物価も高いし。
前回来た時にお世話になった安かった果物屋さん、さっき無かった気がするわ……。やだわあ。お兄様が帰ってきたら探索に付き合って貰おうっと。
「世話が焼けるわねえ……。シェリカ、竈に火を着けて頂戴」
「はーい」
何時ものところに薪あったかしら。やだ、この火打ち石、欠けてるわ。んもー! 前の借り主はマナーの悪い方ね!
でも。でも。
そんな苦労をしてお湯を沸かしたものの、お兄様は帰ってこなかったのです。
お父様が帰ってきても、ずっと。
「……ジェイミーは、何処に行ってしまったの!?」
「まさか……いや、まさかな」
お父様が暗い顔で首を捻っておられたけど結局お兄様は戻らなくて……ヤキモキしながら、社交シーズンが終わる。今年も特に何も起こらず壁の花仲間と気もそぞろながらも駄弁ったのよ……。
何処行ったのよ、お兄様……。ヤキモキしても、全く行方は分からない……。
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