やらかし婚約者様の引き取り先

宇和マチカ

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貧乏男爵家は王都行きすら大変ですのよ

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 爽やかな秋の風。覚めるような赤で色づく葉を湛えた枝で小鳥が歌う。
 そんな素敵な昼下がり……。
 こんな道を、馬車で抜けられたらなあ。

 ……まあ、今現在ひとつ前の長距離馬車停から、滅茶苦茶徒歩だけれども。
 横の行商人かってレベルの荷物を担ぐお姉様が……超目立ってて居たたまれないわ。

 ごきげんよう。私の名前は、シェリカ・シュートック。
 代々閑職で窓際族な木っ端貴族の三女、17歳です。
 我が家は……歴史だけは長いものの、パッとしないのに髪の色だけが派手、という変な家。金髪もどきの艶の無い黄色に斑に混ざる赤や青が目印、それが我が家、シュートック男爵家。……最初は無駄に目立つけど、特に気にもされないお家柄。

 誓ってお洒落でもないし染めてもないこの髪……。私は黄色に変に鮮やかな青が所々混じっているわ。イキッていませんわ、地毛なのよ。辛うじて今年は借金が増えなかっただけなのに、髪のお洒落に回すお金の余裕は無いの。
 入婿のお父様の地味な黄色が羨ましい。何処から来たのかしら、この変な青は。

 因みに、荷物を抱えてるお姉様がオレンジ混じりで、ムスッと黙りこくってるお兄様は変な緑混じり。……本当に何処由来なのかしら。
 ……変な色のお陰で、伸ばした髪の毛も売れやしない。色が混じらなきゃ普通に売れますのに……。
 目はお父様似で無駄に青いけど、流石に売れもしないし関係ないもの……。

 我がシュートック領は何故か無駄にだだっ広いものの、実りは少ないし、パッとするような特産品も無し。今年は辛うじて食うに困らなかったけど、数々の経済的なピンチを乗り越え……今に至る訳ですわ。

 だから領地でお金を使わず大人しくしてたいのに、社交の為に王都に出てくる羽目になった。勿論、荷物は各自持ち……。
 ああ、旅費をケチ……節約する為とは言え、滅茶苦茶視線を感じるわ……。分かっていますわよ。背後のお姉様よね分かってる!! 分かってますよ見ないでくださいませ!
 お姉様、いやお姉様ご自身よりも、背負うお荷物が大変目立つのよね?お兄様は全く気にもしてないし……!! ちょっとは衆目を気にしたらどうなのかしら!?

「うわきゃっ⁉」

 ああ、しまった! 都会は人が多いんだったわ!!
 高そうな上着を着た人にぶつかってしまったなんて!!
 田舎臭い土埃が着いたとか弁償しろとか、因縁付けられたらどうしよう!! 地元ならダッシュで撒けるのに!! 此処には土地勘が無い!! 人混みの避け方が分からないわ!!

 思わず首を竦めて退路を確保しようとした、その時。

「気を付けろ! 愚か者めが!! 若い身空で怪我をしたらどうするんだ! 金で健康は買えんのだぞ⁉」
「すみっま、せ……ん?」

 え?
 あれ? ……な、何なのかしら、あの人。
 妙に派手な出で立ちのツンデレ? にぶつかりそうになって、怒られてしまった、だけで済んだ……?
 い、意外といい人? もっと罵詈雑言が降ってくるものではないの? 王都は危険だって……。

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