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貴方とはお好みが合致しなくても
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今日は、国民の祭日である女神の恩寵与えられる建国記念日。
そして、此処は女神像が全てお揃いになり聳え立つ建国広場。
ワアアアア、と歓声が巻き起こっているわ。
万雷のような拍手とは、あの事を言うのね。
ロベルト様は、国王陛下の御前で見事な英雄凱歌を歌い上げられたの。
今は亡き、薄幸の女神に愛されし才媛コゼット嬢の忘れ形見。
その外見から虐げられて来たものの、這い上がって来たロベルト様は金色の瞳を持つ、新たなる女神に愛されし者として……新たなるデビューを果たすの。
この見事な歌に感動された陛下から男爵位を授かり、国王陛下の宮廷楽士として華やかなデビューを……。
という段取りなんだけれど! そんな事を忘れる位! 感動的なのよ!
大衆劇場でもビッカンビッカン輝いておられたのに、建国広場でのあの勇姿……! 一生懸命選んだ、白の外套のお衣装が赤い御髪に映えて映えて映えまくるわ!
さらなる神々しさに、さっきから涙が止まらないわよ……。
もう、最前列なのに鼻を啜ってばかりよ……。メイクがドロドロしてきているのが分かるけれど、止まらないの!
……此処までちょっと長かったわ……。
敏腕令嬢として、ロベルト様の評判アップに馬車で王都を根回しに走り回ったし、社交界にも出まくりだったわ。
お陰で、演劇フリークな令嬢とも仲良くなれたの! お友達って初めて!
……お友達なんて、要らないわ、とかボッチ最高! な思考だったのは意地を張りすぎよね。
よく考えたら不健康よ、私。病んでいたわねきっと。
「ドレニス」
「うう、あの眩さを明日に持ち越せないなんて、何て勿体無い」
それにしても、手が痛いわ……。
久々に、千切れんばかりに叩いたものね……。
早速、ロベルト様にお目にかかる前に、メイク直しをしなければ……。
涙が口まで垂れてきたわ。
「……目が眩むわ……」
「女神像の照り返しが強かったのか? ドレニス」
「いえ、ロベルト様の御勇姿が煌々と私の目を射抜いて……」
ん?
あら? あられれれら?
「ど、どどど……ロベルト様!?」
え、何時の間にか舞台を降りてこられたの!?
あら? 何かの不備が? 此処から陛下の下へ参られる段取りでは? お怪我の後遺症も感じさせない足運びが優雅でらっしゃるわ。
「一緒に、行こう」
「わ、私が?」
え、何故にまた……。段取りが飛んでしまわれたのかしら。ヒソヒソと流れを説明するべき?
それにしても、ロベルト様の長身から翻る外套が滅茶苦茶格好宜しいわ……。
上着の裏地に『貴方のドレニスより、愛を込めて』……なんて刺繍したのは全くバレてないわね。
……最近、ちょっと素っ気無い気がしていたのに、どうされたのかしら。
ま、まさか私にこう、サプライズを?
「君が、オレを見出してくれたから……」
「あ、ハイ……」
あ、そっちなのね。
急に愛を囁かれるかと思ってしまったわ……。
そうよね、私なんて未だ強火ファンへの対応よね……。
「最初は……何なのかと思った。押し付けがましいし」
「え……」
え、苦情? まさか、また余計なことを私ってば……。いやあああ!
「でも、凄く助けてくれるし、ばあちゃんの名誉まで回復してくれて……ドレニスを胡散臭く思った自分が情けなくてな。
喧嘩もこの図体のクセに弱いし」
「人間向き不向きが御座いますし、情けなくなんて」
「オマケにオレなんかの為に泣いてくれるし優しいし……」
「す、すみません、お見苦しい顔を!」
何となく合わなかった金色の瞳が、私とかちあって…、…み、見つめられているのかしら。
泣き崩れてえげつなくなった、こんな顔を!
早くメイク直し……いえ、最早全身洗って着替えたいわ!
「見苦しい所なんてない。アンタは綺麗だ」
「ヒッエ……」
「お、オレに褒められるのそんなにイヤか?」
「ち、違います違います! 私の問題で……」
ああ、ズンズンと進まれて距離が縮まっていく……。
華やかなロベルト様の晴れ舞台、裏方に徹しているつもりだったのに。
こんな身なりで、顔で国王陛下の御前に立つなんて……、
「この方は、オレの良き方です。平民育ちのオレが適う方では有りませんし、好みも合致しませんが……」
ああ、朗々としたロベルト様のお声が国王陛下へ届けられているわ。
「妥協点を話し合い、寄り添っていくつもりです。彼女とはそれが出来ると信じております」
国王陛下が何を仰ったのか、覚えていないの。
ただ、また滂沱と涙が流れていたのを覚えているわ。
涙の向こうに、路地が見える。
あの時傷付いていた私と、孤独だったロベルト様。
あの時は何も届かなかったけれど、大衆劇場で舞台で追いかけて……認識すらされていなかったけれど。
あの子どもだった私達、少しばかり報われたかしら?
陽炎のように過去の影が消えて、私の手を優しくも大きな手がキュッと強く握りしめた。
そして、此処は女神像が全てお揃いになり聳え立つ建国広場。
ワアアアア、と歓声が巻き起こっているわ。
万雷のような拍手とは、あの事を言うのね。
ロベルト様は、国王陛下の御前で見事な英雄凱歌を歌い上げられたの。
今は亡き、薄幸の女神に愛されし才媛コゼット嬢の忘れ形見。
その外見から虐げられて来たものの、這い上がって来たロベルト様は金色の瞳を持つ、新たなる女神に愛されし者として……新たなるデビューを果たすの。
この見事な歌に感動された陛下から男爵位を授かり、国王陛下の宮廷楽士として華やかなデビューを……。
という段取りなんだけれど! そんな事を忘れる位! 感動的なのよ!
大衆劇場でもビッカンビッカン輝いておられたのに、建国広場でのあの勇姿……! 一生懸命選んだ、白の外套のお衣装が赤い御髪に映えて映えて映えまくるわ!
さらなる神々しさに、さっきから涙が止まらないわよ……。
もう、最前列なのに鼻を啜ってばかりよ……。メイクがドロドロしてきているのが分かるけれど、止まらないの!
……此処までちょっと長かったわ……。
敏腕令嬢として、ロベルト様の評判アップに馬車で王都を根回しに走り回ったし、社交界にも出まくりだったわ。
お陰で、演劇フリークな令嬢とも仲良くなれたの! お友達って初めて!
……お友達なんて、要らないわ、とかボッチ最高! な思考だったのは意地を張りすぎよね。
よく考えたら不健康よ、私。病んでいたわねきっと。
「ドレニス」
「うう、あの眩さを明日に持ち越せないなんて、何て勿体無い」
それにしても、手が痛いわ……。
久々に、千切れんばかりに叩いたものね……。
早速、ロベルト様にお目にかかる前に、メイク直しをしなければ……。
涙が口まで垂れてきたわ。
「……目が眩むわ……」
「女神像の照り返しが強かったのか? ドレニス」
「いえ、ロベルト様の御勇姿が煌々と私の目を射抜いて……」
ん?
あら? あられれれら?
「ど、どどど……ロベルト様!?」
え、何時の間にか舞台を降りてこられたの!?
あら? 何かの不備が? 此処から陛下の下へ参られる段取りでは? お怪我の後遺症も感じさせない足運びが優雅でらっしゃるわ。
「一緒に、行こう」
「わ、私が?」
え、何故にまた……。段取りが飛んでしまわれたのかしら。ヒソヒソと流れを説明するべき?
それにしても、ロベルト様の長身から翻る外套が滅茶苦茶格好宜しいわ……。
上着の裏地に『貴方のドレニスより、愛を込めて』……なんて刺繍したのは全くバレてないわね。
……最近、ちょっと素っ気無い気がしていたのに、どうされたのかしら。
ま、まさか私にこう、サプライズを?
「君が、オレを見出してくれたから……」
「あ、ハイ……」
あ、そっちなのね。
急に愛を囁かれるかと思ってしまったわ……。
そうよね、私なんて未だ強火ファンへの対応よね……。
「最初は……何なのかと思った。押し付けがましいし」
「え……」
え、苦情? まさか、また余計なことを私ってば……。いやあああ!
「でも、凄く助けてくれるし、ばあちゃんの名誉まで回復してくれて……ドレニスを胡散臭く思った自分が情けなくてな。
喧嘩もこの図体のクセに弱いし」
「人間向き不向きが御座いますし、情けなくなんて」
「オマケにオレなんかの為に泣いてくれるし優しいし……」
「す、すみません、お見苦しい顔を!」
何となく合わなかった金色の瞳が、私とかちあって…、…み、見つめられているのかしら。
泣き崩れてえげつなくなった、こんな顔を!
早くメイク直し……いえ、最早全身洗って着替えたいわ!
「見苦しい所なんてない。アンタは綺麗だ」
「ヒッエ……」
「お、オレに褒められるのそんなにイヤか?」
「ち、違います違います! 私の問題で……」
ああ、ズンズンと進まれて距離が縮まっていく……。
華やかなロベルト様の晴れ舞台、裏方に徹しているつもりだったのに。
こんな身なりで、顔で国王陛下の御前に立つなんて……、
「この方は、オレの良き方です。平民育ちのオレが適う方では有りませんし、好みも合致しませんが……」
ああ、朗々としたロベルト様のお声が国王陛下へ届けられているわ。
「妥協点を話し合い、寄り添っていくつもりです。彼女とはそれが出来ると信じております」
国王陛下が何を仰ったのか、覚えていないの。
ただ、また滂沱と涙が流れていたのを覚えているわ。
涙の向こうに、路地が見える。
あの時傷付いていた私と、孤独だったロベルト様。
あの時は何も届かなかったけれど、大衆劇場で舞台で追いかけて……認識すらされていなかったけれど。
あの子どもだった私達、少しばかり報われたかしら?
陽炎のように過去の影が消えて、私の手を優しくも大きな手がキュッと強く握りしめた。
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