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愛する女神様達の正体は
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「ドレニス、久しぶり」
「……ええ、お久しぶりですわね」
ヤヤッカラのおじさまが引き摺るように連れてこられたのは、相変わらず能天気な婚約者……トニーの馬鹿野郎ですわね。
普通に顔も見たくないし、連れてこなくて良かったのですが、お役人の前でサインをさせなければいけませんからね……。偽造防止とか色々有りますが、有り体に面倒だわ。
でも、おじさまとお祖父様のご助力と事業協力の締結、そしてマーシャル侯爵の犯罪を解決した件を鑑みて、婚約撤回が認められましたの! 白紙撤回、素敵なお言葉!
お役人が居ないと、トニーに拳をお見舞いして踊り出したい気分ですわね!
「はい、確かに」
お役人に書類を確かめて頂いて、丁重にお帰り頂きました。
お土産……は賄賂に当たるのでお持たせ出来ませんが、お帰りのご無事をお祈り致しますわ。頼みますからコケたりしないで欲しいわ。
因みに、私の対面にはトニーとヤヤッカラのおじさま。
此方の背後には、お祖父様……は先日の件でお忙しく、お母様はお父様のお世話の為領地へ帰られました。そう言えば怪我人でしたわね、あの親父。
お母様を助けた件に関しては少しばかり見直していなくもありませんが、我に返るとやっぱり複雑ですわ。兎に角、私の背後にはじいとメイドが数名。
「では、ドレニスちゃんと少しばかり話したいと馬鹿息子が言うのでな」
「何でしょう」
せめてこのアホからは、お詫びの言葉でも出るのかしら。
これっぽっちも迷惑を掛けても無いような、能天気な顔をしてやがるわねえ!!
おじさまは別室でお待ちくださるそう。
この隙に然りげ無く脳天を割ってもいいかしら。此奴だけは何の好感度変更もなく、底辺ですし。
「ドレニス。私が浮気をしていたと勘違いしてたようで、驚いたよ」
「浮気でなければ何なのですか」
「いや、だからね。私は女神様そのものしか愛せないんだ」
「……」
……変な告白をお聞きしましたわね。
今聞こえた音を物理的に叩き落としたいくらいに、奇妙奇天烈なお話を……。
女神様って、あのツルッとだかヌメっとした石を?
「落としたぞ」
「う……る」
「売る?」
煩えな。ええ、唇はしっかりと動いてしまいましたわ。仕方ありませんもの。だって、ブチ切れてしまいましたもの。淑女の胆力で二文字に止め置きましたけれど。
後、叫んだら別室のロベルト様に聞かれてしまいそうですし。
ええと、とても派手に扇を落としてしまったようで取り乱したわ。
つい、暴言を言いかけましたし。まだ背後にいるのは使用人とはいえ、衆目を集めている最中なのに。
此処で罵ったら私の品位が損なわれてしまいますわ、知ったことか。でもロベルト様がおられるしグググ……。堪えなければ!
「ふっ……ぐう、……」
……おおおお落ち着かなくては。でも、口から本音がボロボロ零れそう!
ああ、私の心の支え、私の愛の光ロベルト様! 今此処で! 私への愛を囁いているシーンを再生せざるを得ませんわ!
そんなシーンも役柄も全く無かったけど!
脚本家は何をしているのかしら!! もう劇場を此処に建てて私がプロデューサーに!
……ではなくて。
「顔色が悪いぞ、ドレニス。鼻でも詰まったのか?」
「お構いなく」
はあ、現実はウザったいお声に腹立たしいお顔。でも、この発言に、慌てふためかずザワつかずにいられましょうか。
後ろのメイドも、正気かコイツ表現フェイスになってますわよ。
私の扇を拾うついでに、顔を直そうとしているようですが。
……我が家ではなめらか様をお祀りしておりますけど、アレを、アレしか愛せないのか。
あの、塊を……。
なんてこったい、ですわね。無機物は浮気に……入るのかしら?
「……」
「あのようなお姿でないと愛せないんだ。つまり、君は私の好みではない」
「左様ですか」
いや、何で偉そうにー?
何を仰っているのやら。いや、やはり浮気よ。石だろうが浮気! 私も秘めた恋を表沙汰にしなかったのだから、浮気!!
それに、お前如きが私の好みに合致したこと有ったかしら。
そりゃあ、小さい頃は見られた顔をしておりましたけれど。私は一目会ったその日から、お前よりもロベルト様の虜ですから!
「これから他国の女神像を買付に行く旅に出ようと思う。探さないでくれ」
「出合え者共、この者を直様引っ捕らえよ!!」
賠償金、各方面への根回し、慰謝料!!
そして言いたかった、この科白!!
ええ、歌劇のように憧れの……玉座でないのが残念ね。王族には流石になれそうにありませんから。
「ほぎゃあええええ!!
何すんだドレニス!!」
「お前こそ何をしているトニー! この、馬鹿息子がああ!」
ホホホ、実に心地好いこと。
あの大声、案外やられ役とかで役者に向いているかもしれません。
ヤヤッカラのおじさまが直ぐにいらしてくださって、尚更良かったわね。
ただ、トニーの大声のせいで、ロベルト様が怯えてしまわれたではないの!
「君はお祀りしている、ほがらか様を見習えばどうなんだ!」
しかもコイツ、女神様の見分け、付いていないようですし。
「……ええ、お久しぶりですわね」
ヤヤッカラのおじさまが引き摺るように連れてこられたのは、相変わらず能天気な婚約者……トニーの馬鹿野郎ですわね。
普通に顔も見たくないし、連れてこなくて良かったのですが、お役人の前でサインをさせなければいけませんからね……。偽造防止とか色々有りますが、有り体に面倒だわ。
でも、おじさまとお祖父様のご助力と事業協力の締結、そしてマーシャル侯爵の犯罪を解決した件を鑑みて、婚約撤回が認められましたの! 白紙撤回、素敵なお言葉!
お役人が居ないと、トニーに拳をお見舞いして踊り出したい気分ですわね!
「はい、確かに」
お役人に書類を確かめて頂いて、丁重にお帰り頂きました。
お土産……は賄賂に当たるのでお持たせ出来ませんが、お帰りのご無事をお祈り致しますわ。頼みますからコケたりしないで欲しいわ。
因みに、私の対面にはトニーとヤヤッカラのおじさま。
此方の背後には、お祖父様……は先日の件でお忙しく、お母様はお父様のお世話の為領地へ帰られました。そう言えば怪我人でしたわね、あの親父。
お母様を助けた件に関しては少しばかり見直していなくもありませんが、我に返るとやっぱり複雑ですわ。兎に角、私の背後にはじいとメイドが数名。
「では、ドレニスちゃんと少しばかり話したいと馬鹿息子が言うのでな」
「何でしょう」
せめてこのアホからは、お詫びの言葉でも出るのかしら。
これっぽっちも迷惑を掛けても無いような、能天気な顔をしてやがるわねえ!!
おじさまは別室でお待ちくださるそう。
この隙に然りげ無く脳天を割ってもいいかしら。此奴だけは何の好感度変更もなく、底辺ですし。
「ドレニス。私が浮気をしていたと勘違いしてたようで、驚いたよ」
「浮気でなければ何なのですか」
「いや、だからね。私は女神様そのものしか愛せないんだ」
「……」
……変な告白をお聞きしましたわね。
今聞こえた音を物理的に叩き落としたいくらいに、奇妙奇天烈なお話を……。
女神様って、あのツルッとだかヌメっとした石を?
「落としたぞ」
「う……る」
「売る?」
煩えな。ええ、唇はしっかりと動いてしまいましたわ。仕方ありませんもの。だって、ブチ切れてしまいましたもの。淑女の胆力で二文字に止め置きましたけれど。
後、叫んだら別室のロベルト様に聞かれてしまいそうですし。
ええと、とても派手に扇を落としてしまったようで取り乱したわ。
つい、暴言を言いかけましたし。まだ背後にいるのは使用人とはいえ、衆目を集めている最中なのに。
此処で罵ったら私の品位が損なわれてしまいますわ、知ったことか。でもロベルト様がおられるしグググ……。堪えなければ!
「ふっ……ぐう、……」
……おおおお落ち着かなくては。でも、口から本音がボロボロ零れそう!
ああ、私の心の支え、私の愛の光ロベルト様! 今此処で! 私への愛を囁いているシーンを再生せざるを得ませんわ!
そんなシーンも役柄も全く無かったけど!
脚本家は何をしているのかしら!! もう劇場を此処に建てて私がプロデューサーに!
……ではなくて。
「顔色が悪いぞ、ドレニス。鼻でも詰まったのか?」
「お構いなく」
はあ、現実はウザったいお声に腹立たしいお顔。でも、この発言に、慌てふためかずザワつかずにいられましょうか。
後ろのメイドも、正気かコイツ表現フェイスになってますわよ。
私の扇を拾うついでに、顔を直そうとしているようですが。
……我が家ではなめらか様をお祀りしておりますけど、アレを、アレしか愛せないのか。
あの、塊を……。
なんてこったい、ですわね。無機物は浮気に……入るのかしら?
「……」
「あのようなお姿でないと愛せないんだ。つまり、君は私の好みではない」
「左様ですか」
いや、何で偉そうにー?
何を仰っているのやら。いや、やはり浮気よ。石だろうが浮気! 私も秘めた恋を表沙汰にしなかったのだから、浮気!!
それに、お前如きが私の好みに合致したこと有ったかしら。
そりゃあ、小さい頃は見られた顔をしておりましたけれど。私は一目会ったその日から、お前よりもロベルト様の虜ですから!
「これから他国の女神像を買付に行く旅に出ようと思う。探さないでくれ」
「出合え者共、この者を直様引っ捕らえよ!!」
賠償金、各方面への根回し、慰謝料!!
そして言いたかった、この科白!!
ええ、歌劇のように憧れの……玉座でないのが残念ね。王族には流石になれそうにありませんから。
「ほぎゃあええええ!!
何すんだドレニス!!」
「お前こそ何をしているトニー! この、馬鹿息子がああ!」
ホホホ、実に心地好いこと。
あの大声、案外やられ役とかで役者に向いているかもしれません。
ヤヤッカラのおじさまが直ぐにいらしてくださって、尚更良かったわね。
ただ、トニーの大声のせいで、ロベルト様が怯えてしまわれたではないの!
「君はお祀りしている、ほがらか様を見習えばどうなんだ!」
しかもコイツ、女神様の見分け、付いていないようですし。
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登場人物紹介です。ドレニス・ナタ−母親似でお芝居好きな敏腕伯爵令嬢。推し俳優はボロッサム。最近大衆演劇のせいかガラが悪い。ボロッサム(ロベルト)−ドレニスの推し俳優。実年齢より老けている?トミー・ヤヤッカラ−ドレニスの今にも別れたい婚約者。信心深い。ヤヤッカラ伯爵−婚約者の父親。取り留めがない。ドレニスの父親−乗馬を愛するサボり魔。脳筋気味だが人好きされる性格。ドレニスの母親−幼い令嬢のようなフワフワした美女。甞て王都を揺るがす婚約破棄をやってのけた。ドレニスの祖父(父方)−甞てはスパルタだが、今はそうでもない。有能だが、おっちょこちょい。マーシャル侯爵−甞て、ドレニスの母親に婚約破棄されたにも関わらず許してくれた良い人らしい。
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