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遅い朝食と来訪者

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 ……次の日。
 もうお昼間ね。疲れて結構寝てしまったわ。
 こんな自堕落な感じ、久々かもしれないものね……。やはり、テキパキ仕事とか嫌だわ。自堕落にダラダラと怠けたいわ……。

 独りで頂くと、朝兼用の昼食の胚芽パンがモサモサするわね……。パンケーキにしてくれないかしら。
 お母様と、お祖父様は未だお休みみたい。ロベルト様は血糊で騙されたけれど、やはり傷が開いたらしくて治療中よ。
 後でお見舞いに行かなきゃいけないわ。自宅だと行き放題ね!

「ねえ、ロベルト様は朝食をお召し上がりになったかしら?」
「朝食にお出しした、香辛料入のココアがお気に召したようです」
「そう! 王都中のココアを樽ごと買い占めましょう。業者用は袋詰めなのかしら? 香辛料も樽で揃えて、先ず粉砕機のカタログを」
「お嬢様、ご近所迷惑ですし不健康です。それに、ちょっと害悪ファンぽいかと……」
「じょ、冗談よ!」

 ちょっと浮かれて、メイドに嗜められてしまったけれど!
 でも、お母様へのストーカー及び、私への変な執着も仲無くなったのだもの!
 ココア位良いじゃないの! そうよ、王都中のカフェのレシピを買い漁り……!

「お嬢様、お客様が……」
「ええい何なのよ、こんな時に……!」
「ヤヤッカラ伯爵が、お見えに……」

 ヤヤッカラ伯爵!?
 ……つい、身構えてしまったけれど。そうだわ。
 ヤヤッカラ伯爵とも、お話をしなければ……。
 それにしても、何時までアポ無し訪問なのかしら……。

「お待たせ致しました」
「突然すまない。昨日のニュースを聞いてね」

 ヤヤッカラ伯爵は、何時もとは違って柔らかな表情をされていたわ。しかも、謝ってきた!?
 マトモな反応、出来たのね……。

「ドレニスちゃんのその反応。
 ドロシー・エモア……いや、ナタ伯爵夫人から聞いたのかな」

 喋り方まで違うのだけれど……。この狸親父……色々作ってらしたのね。色々と騙されたわ……。領地を富ませもせず、かと言って貧困にもしない……。考えてみれば難しいわよ、普通に。
 無能を作っているというのも、本当なのかもしれないわ。

「ええ、おじさま。まさかあんな理由で私とトニーの婚約が組まれていたなんて」
「ドロシー夫人はマーシャル侯爵家の流した嘘で評判ガタ落ちでな。
 だが、我が家は……伯父の婚約者としてのコゼット嬢を父から聞いていた」
「普通は信じませんものね」

 アレだけネガティブキャンペーンを打てるのだもの。どれだけ猫かぶりが上手かったのかしら……。
 悍ましいわ。

「一応、対外的に我が家へマーシャル侯爵家側に負い目が有ったからな。
 我が家がドレニスちゃんの婚約者に名乗り出れば、下手に手出しは出来ない」
「守ってくださっていたのに、色々と無礼を申し上げて……」
「いや、ト二ーがあまりにもアホなせいで却って困らせた。此方こそ申し訳ない」

 それは本当にね……。アレは、忘れていたけれど本気でアホなのよね。

「婚約破棄の件は」
「君に想い人が出来たら白紙にしようと、ドロシー夫人と約定を結んでいるよ。
 ……まさか、コゼット嬢と我が伯父に連なる者とはね」

 情報早くない!?
 きゅ、急に物わかり良くなられるとビクビクするわ!

「ご、ゴサ麦の件は、早急に手配致しました」
「ニギリ橋の方は駄目かな?」
「……何故其処まで拘られますの?」
「コゼット嬢と、ウチの伯父がよくデートした場所なんだ。
 コゼット嬢が掛けてみたいと、見様見真似にしては完璧な図面を引いたもので……」

 ぐっ、そういうエピソードが有るなら、何も聞かずに予算オーバーですって断れば良かったわ!
 と言うか、コゼット嬢は何故令嬢なのに図面を引けたの!? 本当に才媛ね!

「……鋭意努力、おじさまもしてくださいますわね?」
「心得た! それと後日。馬鹿息子に、詫びに向かわせるよ」
「ええと……有難う御座います」

 先日までトニーとの婚約破棄に意欲を燃やしていたけれど、お母様へのストーカーが酷くて色々薄まっていたわ。

「どうでもいいことかもしれないが、実はアイツは本当に浮気していなかったんだ……」
「え、ええ?」

 浮気していない?
 それは、どういう事なのかしら……。何かの暗喩?


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