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薄幸の推し俳優
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「……狼狽えて悪かった」
「いえ、此方こそ……」
うう、ちょっとまだ怯えておられますわね。
ちょっとまだ、推しへの熱い視線を隠しきれずにいますわ。うう、はっちゃけ過ぎましたわね。お恥ずかしい。
「オレの名前は、ロベルト……。ロベルト・オヤブロー。ボロッサムは、芸名だ。ロベルトと呼んでくれ、ドレニス嬢」
「まあ……ふ、ふう……。光栄ですわ、ロベルト様」
おお、推しに……! 感涙で咽び泣きそうですわ……。
「令嬢だろ、アンタ。呼び捨てでいいよ」
「うっ……、僥倖ですわ……」
「其処まで? 何なんだ」
「ファンなんですってば」
ファンサ……いえ名前を読んで頂いた上、推しの本名を図らずもゲット、いえお呼びしていいという福音を得てしてしまいましたわ……。ちょっと動悸息切れが高まるばかりですわ。
ですが、今からでも挽回は可能ですわね。ボロッサムが、いえロベルト様が麗しい誇れそうなファンを演じなければ!
それにしても素敵だわー。ウチのベッドに推しが眠っているだなんて、何処の乙女小説かしら。誰かの罠だったとしても悔いは御座いません!
罠は破り仕返しするものです! 歌劇でそう言ってました!
「本当にファンなのか……」
「勿論ですって! 信じてくださいませ」
「お嬢様其の辺で。
オヤブロー殿。不躾ですが、何故あんな乱闘に巻き込まれてしまわれました?」
長々しく流れない話に執事が口を挟んで来たわ……。舞い上がりすぎたわね……。でも、熱い想いが止まらないのだもの!
「……ギャラ……報酬を奪われた。信じないと思うが、主演の」
「あのイケ好かない似非イケメンのエキビーですわね!?」
「お、おう……。信じるのか」
「もしかして其奴が、残却極まる差し入れパクリを!? 昨日お送りしたのはサメのクッキーなのですが!」
「いや、知らねえけど……何でサメ?」
「去年、サメに喰われるシーンが有りましたでしょう?」
「やられ役は死ぬ程やったから、覚えてねえ……」
……し、しまったわ。あまり嬉しくないチョイスだったかしら。
真っ赤な薔薇にすれば良かったですわね。
でも、一応未だあの輩が婚約者の座に居ますしねえ。
去年食べ損ねた飴のようにへばり付いておりますし……。
外聞を跳ね退けて、何とか口説きたいわあ……。
「お嬢様、トニー・ヤヤッカラ様が訪ねて来られました……」
「い、今ァ!?」
何なのよあのアポ無し野郎! 破棄の話し合いはバックレておしまいになりやがりまして!
「ヤヤッカラ? ……アンタ、ヤヤッカラの婚約者なのか?」
「あちらの不義で破棄寸前! ですのよ!」
「お、おう……? 何でオレに其処までリキ入れて話す?」
そこは誤解して頂きたくありません! と言う気持ちが溢れてしまいましたわ。
うう、また引かれてしまいました。
「兎に角、傷をお癒やし下さいませ。只今より、貴方の庇護者、いえパトロンとなりましょう」
「婚約者持ちのご令嬢が、男囲ったらヤベーだろ。オレ帰るわ……うわっ!」
ウチの従僕は空気を読んでくれて助かるわね。
速やかにロナルド様をベッドにお運び頂いたわ。
「さて、かかってやがれですわね……!」
「おい、腕をまくるな……」
あら、赤くなっておいでで。
ちょっとばかり、満更でも御座いません?
……早く証拠を見つけ、あの輩と婚約破棄しなければ……!
私は正統派での婚約破棄を致しますわよ!
「いえ、此方こそ……」
うう、ちょっとまだ怯えておられますわね。
ちょっとまだ、推しへの熱い視線を隠しきれずにいますわ。うう、はっちゃけ過ぎましたわね。お恥ずかしい。
「オレの名前は、ロベルト……。ロベルト・オヤブロー。ボロッサムは、芸名だ。ロベルトと呼んでくれ、ドレニス嬢」
「まあ……ふ、ふう……。光栄ですわ、ロベルト様」
おお、推しに……! 感涙で咽び泣きそうですわ……。
「令嬢だろ、アンタ。呼び捨てでいいよ」
「うっ……、僥倖ですわ……」
「其処まで? 何なんだ」
「ファンなんですってば」
ファンサ……いえ名前を読んで頂いた上、推しの本名を図らずもゲット、いえお呼びしていいという福音を得てしてしまいましたわ……。ちょっと動悸息切れが高まるばかりですわ。
ですが、今からでも挽回は可能ですわね。ボロッサムが、いえロベルト様が麗しい誇れそうなファンを演じなければ!
それにしても素敵だわー。ウチのベッドに推しが眠っているだなんて、何処の乙女小説かしら。誰かの罠だったとしても悔いは御座いません!
罠は破り仕返しするものです! 歌劇でそう言ってました!
「本当にファンなのか……」
「勿論ですって! 信じてくださいませ」
「お嬢様其の辺で。
オヤブロー殿。不躾ですが、何故あんな乱闘に巻き込まれてしまわれました?」
長々しく流れない話に執事が口を挟んで来たわ……。舞い上がりすぎたわね……。でも、熱い想いが止まらないのだもの!
「……ギャラ……報酬を奪われた。信じないと思うが、主演の」
「あのイケ好かない似非イケメンのエキビーですわね!?」
「お、おう……。信じるのか」
「もしかして其奴が、残却極まる差し入れパクリを!? 昨日お送りしたのはサメのクッキーなのですが!」
「いや、知らねえけど……何でサメ?」
「去年、サメに喰われるシーンが有りましたでしょう?」
「やられ役は死ぬ程やったから、覚えてねえ……」
……し、しまったわ。あまり嬉しくないチョイスだったかしら。
真っ赤な薔薇にすれば良かったですわね。
でも、一応未だあの輩が婚約者の座に居ますしねえ。
去年食べ損ねた飴のようにへばり付いておりますし……。
外聞を跳ね退けて、何とか口説きたいわあ……。
「お嬢様、トニー・ヤヤッカラ様が訪ねて来られました……」
「い、今ァ!?」
何なのよあのアポ無し野郎! 破棄の話し合いはバックレておしまいになりやがりまして!
「ヤヤッカラ? ……アンタ、ヤヤッカラの婚約者なのか?」
「あちらの不義で破棄寸前! ですのよ!」
「お、おう……? 何でオレに其処までリキ入れて話す?」
そこは誤解して頂きたくありません! と言う気持ちが溢れてしまいましたわ。
うう、また引かれてしまいました。
「兎に角、傷をお癒やし下さいませ。只今より、貴方の庇護者、いえパトロンとなりましょう」
「婚約者持ちのご令嬢が、男囲ったらヤベーだろ。オレ帰るわ……うわっ!」
ウチの従僕は空気を読んでくれて助かるわね。
速やかにロナルド様をベッドにお運び頂いたわ。
「さて、かかってやがれですわね……!」
「おい、腕をまくるな……」
あら、赤くなっておいでで。
ちょっとばかり、満更でも御座いません?
……早く証拠を見つけ、あの輩と婚約破棄しなければ……!
私は正統派での婚約破棄を致しますわよ!
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登場人物紹介です。ドレニス・ナタ−母親似でお芝居好きな敏腕伯爵令嬢。推し俳優はボロッサム。最近大衆演劇のせいかガラが悪い。ボロッサム(ロベルト)−ドレニスの推し俳優。実年齢より老けている?トミー・ヤヤッカラ−ドレニスの今にも別れたい婚約者。信心深い。ヤヤッカラ伯爵−婚約者の父親。取り留めがない。ドレニスの父親−乗馬を愛するサボり魔。脳筋気味だが人好きされる性格。ドレニスの母親−幼い令嬢のようなフワフワした美女。甞て王都を揺るがす婚約破棄をやってのけた。ドレニスの祖父(父方)−甞てはスパルタだが、今はそうでもない。有能だが、おっちょこちょい。マーシャル侯爵−甞て、ドレニスの母親に婚約破棄されたにも関わらず許してくれた良い人らしい。
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