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敏腕令嬢、推しを救う
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コツコツ……。もそもそ。もぞっもさっ。
私は今、タウンハウスの一室の前の廊下を15分くらいウロウロ彷徨き回っているの。
ああ、ボロッサム……。貴方はどうして怪我人なの……。
「お嬢様……。
いい加減、廊下を歩き回るのはお止めください」
侍女に止められても、留まらない我が心と歩み……。
「未だ治療中なの? ボロッサムは、そんなに重症なの……?」
「先程からお伝えしております通り、傷自体は大した事ないらしいですわ。
血を落とさねばなりませんし、お着替えとか有りますから」
そうなのよ! あの暴漢共に襲われて従僕が助け出したものの、劇的な血塗れだったのよ!
今思い出しても涙が溢れて悔しいわ……!
「うう、暴漢に襲われてなんて可哀想なボロッサム……。あの下手人共は、軒並みテキ川へ放り込んでやらないと……」
「運搬料が嵩みますので、王都の警備騎士にお任せしましょう」
しかも、ボロッサムを殴っていた悪辣な下手人には、スタコラサッサと逃げられてしまったのよ……。
何てことなの……。
ウチの従僕達は勿論、頑張ってくれたんですけれどね。
王都の狭い裏道を縦横無尽に走られれば、土地勘のイマイチな此方に太刀打ちできず……。
おのれ……。この恨みはべったり心に滲みたー。
貴様らをクッキーの粉のように床に払い除けぶっ潰すまで終わらんぞー。
つい、歌劇の小節が思い浮かんでしまうわね……。
あの時は血塗れでも偽物だったし勇壮だったわ、ボロッサム。それなのに、今はリアルに痛々しい目に遭うなんて……。
「お仕度が済まし……わっ!」
「待ってました、ですわね!」
あまりの悲しみで扉の前に座り込んでいたら、従僕に驚かれてしまったわ
「お嬢様……ご心配は分かります。ですが、大分ぐったりしておりますので休ませておあげください」
「……うう……。寝顔を見るだけでも……」
「とんでもない! 未婚のレディがそんな事為さっては!」
「良いのよ。我が家の中なんだからセーフセーフ。
余所ではやらないものー。お邪魔しますわー」
「あっ、お嬢様!」
ちょっと強引に扉の中に体を捩じ込んで、無理矢理入ったわ。うふふ、ちょっとはしたなかったかもしれないわね。家主特権の愛故だから仕方ないわね!
お嬢様を扉に挟む訳にもいかないから、侍女も渋々開けてくれたわ。
「……誰だ」
「はわあわあわあおおうひええ……」
「だ、何だ……? おい、本当に誰だよ」
真っ赤な赤毛に、眼光鋭い金色の目!
な、生のボロッサムが、遠くでなく眼の前に降臨しているわ……。
ビッカンビッカン光り輝いて、何かこう……。
天使とか女神とか色々神聖なものとセットで舞い降りていますわあああ……。
女神様有り難やあ……。この出会いをお恵み頂きヒョエエエエ……!
「喋ったァ……ナマァ……ナマァ……」
「な、何なんだ、この女……」
お、怯えてるボロッサムも生……。生が溢れているわ……!
「生が我が家に……」
「何言ってんだこの人……」
「お嬢様、お嬢様!」
はっ! つい推しに生で会えた喜びでちょっぴり言動と顔が意味不明になってしまいましたわ!
この頃度重なる心労でちょっぴり荒れてしまった、言葉も思い出しまして!
「ははは、ハジメマシテ、熱烈ナ、ファンデス……」
「……」
会話が不自由に……余計に胡乱な顔を……あっ、その表情も素敵っ! 肖像画化させたいっ! 机に貼り付けて飾るの!
「その、ドレニス・ナタですわ! あの、差し入れもさせて頂いてます! ボロッサム様の頭の片隅にでも差し入れのご記憶とか御座いません?」
ゼリーとかクッキーとか、箱で!
目立たないかしらねえ……。
「差し入れとか、貰ったことねーけど」
「……何ですと?」
あの受付の男……! アレだけ調子乗っててボロッサムに渡してないだと!?
「オレ以外は結構貰ってんの見るけど、アンタ誰かと勘違いしてるんじゃねーか?」
「そんな訳御座いますか! 横領ですわ! ピンハネ……いえ、丸ごとハネされてますわよっ!」
「……」
ポカンとされてるその包帯だらけのお顔も素敵……! じゃなくてよ!
「まあ……、オレ、嫌われてっからなあ……」
「ゴギャー!」
「!!」
その私の心を握りしめる寂しげな表情に、つい怒りとか悶えとかの叫び声が我が喉から生まれ出てしまいましたわ!
「……!? ……!?」
「はっ、つい! 何を仰いますの! 私の推し!」
「……お、おい!」
「お嬢様、お慎みを……」
ついウッカリ、手を握るのも駄目なのかしら!? 従僕に剥がされてしまいましたわ!
「兎に角、此処は安全です。暫く匿われてください」
「そ、そうですわ! 囲いますわ!」
「何でオレなんかに其処まで……」
な、な、な……。
ボロッサムって、リアルに薄幸な方なんですのねええええ!
お労しい! 麗しい! ゴホン、不謹慎ですわね。下手人追捕の手を緩めずにしないと!
私は今、タウンハウスの一室の前の廊下を15分くらいウロウロ彷徨き回っているの。
ああ、ボロッサム……。貴方はどうして怪我人なの……。
「お嬢様……。
いい加減、廊下を歩き回るのはお止めください」
侍女に止められても、留まらない我が心と歩み……。
「未だ治療中なの? ボロッサムは、そんなに重症なの……?」
「先程からお伝えしております通り、傷自体は大した事ないらしいですわ。
血を落とさねばなりませんし、お着替えとか有りますから」
そうなのよ! あの暴漢共に襲われて従僕が助け出したものの、劇的な血塗れだったのよ!
今思い出しても涙が溢れて悔しいわ……!
「うう、暴漢に襲われてなんて可哀想なボロッサム……。あの下手人共は、軒並みテキ川へ放り込んでやらないと……」
「運搬料が嵩みますので、王都の警備騎士にお任せしましょう」
しかも、ボロッサムを殴っていた悪辣な下手人には、スタコラサッサと逃げられてしまったのよ……。
何てことなの……。
ウチの従僕達は勿論、頑張ってくれたんですけれどね。
王都の狭い裏道を縦横無尽に走られれば、土地勘のイマイチな此方に太刀打ちできず……。
おのれ……。この恨みはべったり心に滲みたー。
貴様らをクッキーの粉のように床に払い除けぶっ潰すまで終わらんぞー。
つい、歌劇の小節が思い浮かんでしまうわね……。
あの時は血塗れでも偽物だったし勇壮だったわ、ボロッサム。それなのに、今はリアルに痛々しい目に遭うなんて……。
「お仕度が済まし……わっ!」
「待ってました、ですわね!」
あまりの悲しみで扉の前に座り込んでいたら、従僕に驚かれてしまったわ
「お嬢様……ご心配は分かります。ですが、大分ぐったりしておりますので休ませておあげください」
「……うう……。寝顔を見るだけでも……」
「とんでもない! 未婚のレディがそんな事為さっては!」
「良いのよ。我が家の中なんだからセーフセーフ。
余所ではやらないものー。お邪魔しますわー」
「あっ、お嬢様!」
ちょっと強引に扉の中に体を捩じ込んで、無理矢理入ったわ。うふふ、ちょっとはしたなかったかもしれないわね。家主特権の愛故だから仕方ないわね!
お嬢様を扉に挟む訳にもいかないから、侍女も渋々開けてくれたわ。
「……誰だ」
「はわあわあわあおおうひええ……」
「だ、何だ……? おい、本当に誰だよ」
真っ赤な赤毛に、眼光鋭い金色の目!
な、生のボロッサムが、遠くでなく眼の前に降臨しているわ……。
ビッカンビッカン光り輝いて、何かこう……。
天使とか女神とか色々神聖なものとセットで舞い降りていますわあああ……。
女神様有り難やあ……。この出会いをお恵み頂きヒョエエエエ……!
「喋ったァ……ナマァ……ナマァ……」
「な、何なんだ、この女……」
お、怯えてるボロッサムも生……。生が溢れているわ……!
「生が我が家に……」
「何言ってんだこの人……」
「お嬢様、お嬢様!」
はっ! つい推しに生で会えた喜びでちょっぴり言動と顔が意味不明になってしまいましたわ!
この頃度重なる心労でちょっぴり荒れてしまった、言葉も思い出しまして!
「ははは、ハジメマシテ、熱烈ナ、ファンデス……」
「……」
会話が不自由に……余計に胡乱な顔を……あっ、その表情も素敵っ! 肖像画化させたいっ! 机に貼り付けて飾るの!
「その、ドレニス・ナタですわ! あの、差し入れもさせて頂いてます! ボロッサム様の頭の片隅にでも差し入れのご記憶とか御座いません?」
ゼリーとかクッキーとか、箱で!
目立たないかしらねえ……。
「差し入れとか、貰ったことねーけど」
「……何ですと?」
あの受付の男……! アレだけ調子乗っててボロッサムに渡してないだと!?
「オレ以外は結構貰ってんの見るけど、アンタ誰かと勘違いしてるんじゃねーか?」
「そんな訳御座いますか! 横領ですわ! ピンハネ……いえ、丸ごとハネされてますわよっ!」
「……」
ポカンとされてるその包帯だらけのお顔も素敵……! じゃなくてよ!
「まあ……、オレ、嫌われてっからなあ……」
「ゴギャー!」
「!!」
その私の心を握りしめる寂しげな表情に、つい怒りとか悶えとかの叫び声が我が喉から生まれ出てしまいましたわ!
「……!? ……!?」
「はっ、つい! 何を仰いますの! 私の推し!」
「……お、おい!」
「お嬢様、お慎みを……」
ついウッカリ、手を握るのも駄目なのかしら!? 従僕に剥がされてしまいましたわ!
「兎に角、此処は安全です。暫く匿われてください」
「そ、そうですわ! 囲いますわ!」
「何でオレなんかに其処まで……」
な、な、な……。
ボロッサムって、リアルに薄幸な方なんですのねええええ!
お労しい! 麗しい! ゴホン、不謹慎ですわね。下手人追捕の手を緩めずにしないと!
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登場人物紹介です。ドレニス・ナタ−母親似でお芝居好きな敏腕伯爵令嬢。推し俳優はボロッサム。最近大衆演劇のせいかガラが悪い。ボロッサム(ロベルト)−ドレニスの推し俳優。実年齢より老けている?トミー・ヤヤッカラ−ドレニスの今にも別れたい婚約者。信心深い。ヤヤッカラ伯爵−婚約者の父親。取り留めがない。ドレニスの父親−乗馬を愛するサボり魔。脳筋気味だが人好きされる性格。ドレニスの母親−幼い令嬢のようなフワフワした美女。甞て王都を揺るがす婚約破棄をやってのけた。ドレニスの祖父(父方)−甞てはスパルタだが、今はそうでもない。有能だが、おっちょこちょい。マーシャル侯爵−甞て、ドレニスの母親に婚約破棄されたにも関わらず許してくれた良い人らしい。
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