貴方とはお好みが合致しないようなので

宇和マチカ

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進まない証拠固めと通りの乱闘

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「お嬢様、目の下に隈が……。うう、おいたわしい……!」

 げ、激務だわ……。激務極まりないですわ。
 敏腕令嬢と呼ばれた私でも滅茶苦茶激務!
 テキ川の氾濫は思ったより大した事無かったけど、両親が逃げ出そうとして閉じ込めておくのが……。
 まあ、お母様が鈍臭いから簡単っちゃあ簡単なんだけれど、頻度が多いのよ。
 水害の報告へと王都のタウンハウスにやって来て居るのに、全然都会ライフらしさを味わえていないわ……。
 この3つ先の通りに劇場が有るのに……。大衆演劇場も王立劇場も有るのに……。

「両親の為の素敵な座敷牢作ろうかしら……。鉄格子と足枷と……湿気が必要よね。
 服装はボーダーかしら」
「お、お嬢様……。息抜きにお出かけになられては」
「そう!?」
「き、急に明るくなられて……」

 それはそうよ。
 この大変な最中、自主的に息抜きなんて外聞が悪いじゃない!
 いえ、家の中だから内聞? どうでもいいわ。

「そう言えば、王都近くに劇団が来てたわね」

 新聞のチラシもチェックする羽目になる、真面目な性根が憎たらしいけれど。
 その癖のお陰で流通や劇団の事もチェック出来るのよ。案外侮れないんですのよ!
 まあ、本音は何にも考えず、ボーッと眺めたいけれど。

「お嬢様の推しの……ボロボロサンは来てませんけれど」
「ボロッサムよ!」

 誰がボロボロか!
 いえ、まあ役柄の関係で大体最後はボロボロ……いえ、ダメージ加工の綻びた衣装になってるけれど。
 でも、此処に居ないのかー。王都外に遠征に出てるのかしらー。超ショックですわー。

「王宮へ馬車で、水害被害の書類を届けに行くわ」
「ええ、そのお帰りに『少しだけ』劇場へ寄られては」

 ……執事から少しだけ、のプレッシャーが強めね。
 心置きなく、とか言えば1週間ぶっ続けで劇場へ籠もるのが分かってるみたい。

「旦那様といい、お嬢様といい……。ハマった物はトコトン体を壊してもハマる、と言うのが悪癖ですな」
「き、聞こえづらいわ」
「僭越ながら、耳に痛い進言をさせて頂きました」
「そ、そう言えばあの輩の方はどうなってるのかしら?」
「ヤヤッカラ伯爵令息ですね」
「そう、あの四男」

 あの輩……。アレから調べさせては居るんだけれど、劇的で絶望的に繋がりそうな話が入ってこないのよね。
 おかしいわ。
『女神のような女性複数』に浮気をしているなら、絶対に王都のお喋り雀達の目に留まる筈なのに。
 そもそも、女神のような女性って何なんですのよ。

 余談ですが、この国には八柱の女神様がおわし、見守ってくださってます。
 さわやか、ふくよか、なめらか、まろやか、したたか、しったか……。後なんだったかしら。ズンチャカ様?
 兎に角えーと、忘れましたわ。微妙に覚え難いのですもの!

 私の家は……えーと、なめらか様を祀ってた気がしますわね。
 領地とタウンハウスと別荘と……多いわね。兎に角、各地の裏庭にある祠の奥に有ったような。
 ……ババロア型で作ったゼリー菓子のようなお姿だったから、間違いないと思いますわ。
 当家は敬虔な家でないので、年末年始に過ごしている所でお祈りする位ですわね。個人的な感想としては、滅茶苦茶どうでもよろしいのですが。
 神頼みは好みませんの。散々親をマトモにしてくれと神頼みして、叶った例は御座いませんし。

 しかし女神様御本尊? 御本柱? それに似た女性……達とは? どんな方なの。
 あの石から連想するには美肌くらいしか……。まさか、女神様のような体型なのかしら。
 あの輩の好みは凄くマニアックなのか、はたまた美の形容詞なのか。
 分かりたくも有りませんけれど、気にはなりますわ。

「各女神教会へ通い回っておられます。先日はまろやか様としたたか様の女神教会へ梯子しておられますな」
「まさか……お勤めの修道女狙いかしら」

 女神に仕える女性、なら女神のような女性……と形容して良いような、失礼なような。
 修道女への横恋慕……横恋慕? 女神に仕える女性に横恋慕はおかしいわね。
 各教会の修道女複数と浮気……。本当ならスキャンダラスでは、ありますけれど。
 でも、祈ってただけでは証拠に欠けますわ。ああ面倒臭いわね。

「調査を続けて頂戴」

 ゲンナリしそうだから、気分を上げないと。劇場へ行かないと。
 推しが出演していないのが残念だわ……。

 でも、お洒落しなきゃ。もしかしたら、王都を買い物中の推しに会えるかもしれませんもの!
 なーんてね! うふふふふ!

「推しに会えたら、渾身の刺繍と選び抜いた香水で香り付けしたハンカチを拾って頂いて、3時のお茶にお誘いするの!」
「奥様の夢見がちな所も受け継いでしまわれましたな」
「お嬢様、一昔前のナンパ手段はちょっと……」
「失礼ね! 未だ本格的なお誘いは婚約破棄後に……あら?」

 最新のナンパって、激務に忙しくも忌々しい婚約者持ちな私がそんな手段を知っている訳ないのに! コレから勉強しなきゃ! 先ずは王都婦人レディキラキラはやりのざっしの今月号を買わなきゃね!
 誤魔化す為に窓から外の通りを眺めたら……。

「喧嘩だわ」
「いけませんな、お出かけは中止に……」
「ボロッサム、だわ! 外の通りでボロッサムが殴られて居ますわ!」
「何ですと!? ……分かりませんがよく判別出来ましたな」
「お嬢様の視力が、常々凄いを通り越して心配になって参りました……。まさか遠視ですか?」

 確かにオペラグラス無しでも顔の判別は可能だけれど、そこじゃないのよ!
 一方的に殴られているのは、大柄な男性!
 少し離れているけれどハッキリと推しの顔が見えたわ!
 何てこと!
 早く助けに行かないと! ええと、ええ……と!

「いやあ!! ボロッサムが本当の血塗れ! 助けに行くわよ!」
「お嬢様は此方で号令をお願い致します」
「え? も、者共かかれー?」
「おおー!」

 ……お、置いていかれてしまったわ。
 確かに、乱闘に私は役に立ちませんけれど……な、何だか……。
 現実って劇的になるようで、ならないわね。



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登場人物紹介です。ドレニス・ナタ−母親似でお芝居好きな敏腕伯爵令嬢。推し俳優はボロッサム。最近大衆演劇のせいかガラが悪い。ボロッサム(ロベルト)−ドレニスの推し俳優。実年齢より老けている?トミー・ヤヤッカラ−ドレニスの今にも別れたい婚約者。信心深い。ヤヤッカラ伯爵−婚約者の父親。取り留めがない。ドレニスの父親−乗馬を愛するサボり魔。脳筋気味だが人好きされる性格。ドレニスの母親−幼い令嬢のようなフワフワした美女。甞て王都を揺るがす婚約破棄をやってのけた。ドレニスの祖父(父方)−甞てはスパルタだが、今はそうでもない。有能だが、おっちょこちょい。マーシャル侯爵−甞て、ドレニスの母親に婚約破棄されたにも関わらず許してくれた良い人らしい。
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