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ピンチをチャンスにしたいものだけれど

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「旦那様に逃げられました……!」
「何ですって……!?」

 あの放浪親父、夜中に抜け出して夜通し別荘に逃げ込むとは……!
 イキった10代の家出!?

 1週間前に増やしたのに足りなかったか、厩の錠前! 30個程掛けておくべきだったわ!

「厩の錠前と、お父様の寝室の鍵及びに窓の外鍵! 追加注文しておいて!」
「畏まりました」
「残りは別荘へ逮捕の手を緩めないで!」

 お父様めえええ! 
 そんなに家で仕事するのが嫌なら、当主を降りさせて馬牧場の下働きに就職させようかしら。
 お世話済みの馬具セッティング済み馬に乗るだけなんて、甘いのよ。
 掃除件肥料当番にするべきだわ!

「旦那様が厩の周りを駆け回って捕まえられないという連絡が!」
「隙を見て池に放り込みなさい! 多少の怪我は想定内よ!」

 もう駄目だわ、あの人のお守り。
 お祖父様に連絡しましょう。
 後、気軽に忍び込めないよう別荘の鍵は早急に変えましょう。
 父親捕獲に婚約者野郎の浮気調査まで、並行しなければならないなんて!!
 何て、私って悲劇のヒロイン!!

「はあー、我が天命よ……。何故私を苦しめるの……」
「お、お嬢様……。最近、お話のお言葉が劇調になっておられません?」
「響き渡る野太い声が足らないのよ」
「は?」
「悲鳴と言い訳の声なんて聞きたくもない! 私の聞きたいのは渋い断末魔と愛の叫び声!」
「お、お嬢様がご乱心を……!」

 つい疲れて叫んだ詩的な想いに感激したのか、侍女が大騒ぎしてしまったわ。

「何をしてるの~? あふふ」
「……お母様」

 うわっ、イライラ製造機その二がやってきた……。
 欠伸しながら現れて、いいご身分よね。もう昼下がり時なんですけど。

「お父様が馬で逃亡しました」
「あれれまあ、大変~。あの人、私を拐ってくれた時からアクティブなんだからっ」

 ブチのめすぞ、この点描ババア……! アホみたいな一つ覚えの水玉のドレスばっかり着やがって!! ドレスに罪は無いけど最早見るだけで憎いし寝癖も酷い!
 この人と顔が似てる自体も、腹が立ってしょうがないわ!

「でもパパを許してあげてね~。パパは、運動不足なんだと思うわ~。背中を痛めたって言ってたじゃない」
「何時までも変なポーズで自己流で乗ってるからです」

 そもそも股関節を痛めて普通に乗馬が出来なくなったから横座りは兎も角、足を組んで馬に乗るなって話よね。
 股関節痛めてる癖に何であんなに脚が速いのかしら。
 間違いなく仮病よね。
 取っ捕まえてから医者に仮病の診断書を書かせましょう。

「ママがお年寄りに嫁がされる前に、颯爽と駆けつけてくれたあの勇姿をバカにしちゃダメよ~」
「当時のマーシャル侯爵の何処がお年寄りですか、失礼な。
 お母様が無理矢理結婚するって言ったんですわよね」

 また言い出した。
 5億回程聞かされた勝手な脳内改竄話だわ。
 お母様の7歳程歳上だった侯爵の渋さ格好良さにアホな熱を上げて即冷めて、結婚嫌だとか宣った挙げ句、婚約破棄して滅茶苦茶迷惑掛けたエピソードを自己流に飾るなってのよ。

 お祖父様の懇願にお応えくださったとは言え、殆ど無傷でお許しくださったマーシャル侯爵の懐の深い御心に、今でも感謝が止まらないわ。
 普通なら、ウチなんて更地にされていたでしょうに。
 ああ、当時なら私が代わりにこのナタの領地を持参金に引っ提げて、ウキウキお嫁に行きたかった。
 マーシャル侯爵、初恋の方なのよ。ちょっと強面で渋くて格好良くて~。
 歳の離れた弟君がおられるって聞いたけど、あまりお目に掛かれないのよねえ。きっと素敵な殿方に違いないわ。
 素敵な殿方……。ああー、推し俳優に会いたい。

「ママも別荘行こうかしら~」
「どうぞどうぞ」

 あ、ついでに別荘に閉じ込めておこうかしら。
 家に居ても苛々するし、何にもしないものね。本人が行くと決めたからには、末永く長々しくずーっと、行っていて貰いましょう。

「お母様をあの悪趣味な衣類と丸ごと別荘に放り込んでから、外付け鍵を増やして頂戴」
「畏まりました、お嬢様。
 ご報告ですが、大旦那様への伝令が滞っております。」
「まさか、テキ川の氾濫でも起こってるの」
「左様で御座います。未だ被害全容は掴めておりませんが人的被害は無く、しかし復旧に1ヶ月程掛かるかと」

 だから、あんなニギリ村のアホみたいな橋計画よりも、テキ川の橋を早く掛けたかったのに!
 あの輩のせいでええええ!

「伝令に迂回するよう伝えて。テキ川畔のコレゾ村に炊き出しもね!」
「畏まりました」

 氾濫は辛いことだけれど、復興が先よ!
 そしてそれにコレをネタにして、婚約破棄と領主交代を! 嘆願書を書かなくちゃ!

 はあ……。
 忙し過ぎて、劇場に行けそうにない……。干乾びそうよ。

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