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お茶の時間は邪魔される

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「はあ、新茶はいいわね……。
 この馥郁とした香り、病みつきになりそう。この淡い苦みが風に乗る竜のように全身を……」

 私の名前は、アミエッテ・セルリーアン・オニール。中立寄りのオニール侯爵家の次女よ。
 お姉様は王家の親戚であるウェーン公爵家の長男に嫁がれたから、実質の跡取り娘でもあるわ。

 跡取り……嫌なのよ、本当に! 心からなりたくないの!
 本当に面倒なのよ。スライドしてきた跡取りって立場!
 私、気楽な次女で居たいの!
 でも、容赦なーくお勉強が伸し掛かるのよ! 会いたくもないババ……歳上の御婦人ともお茶会という名の自慢大会をへーへーハーハーゼェゼェ聞かなきゃならないの。
 嫌すぎるのよ。

 あー、正直、気楽な立場に戻りたいから止めて欲しいのよね。もう、いきなり弟でも生まれないかしら。
 ソフト重めシスコンに育って、私を笑顔溢れる豊かな有閑老嬢にしてくれないかしら。
 あー、ババンバン侯爵のお姉様のベリー様とかとっても憧れるわー。お祖母様のお友達だけどね。五十年前にご婚約者が失踪されてから、お好きに生きてきたのよ、って楽しそうだったものねー。

 あー、馥郁としたお茶が美味しくて、ダルいわ。ああもうお菓子足りない。
 三食昼寝付きお家ガーダーになりたい。跡取り婚とか滅茶苦茶嫌よ。安楽に茶をしばいて堕落したいの。最近、怠け欲しか湧かないわ。
 早く有閑老嬢にバージョンアップして、暇を愛するダラダラの高みに登りたいものよ……。
 そうなったら速攻で、ヤスリみたいなガリガリの出来にしかならない刺繍とか、超やめるわ……。領地の地図も見たくない目が乾くし。
 ソフト重めの弟や、早く生まれて……。

「アミエッテお嬢様、大旦那様がお呼びです」
「ええ……嫌……」
「そ、そう仰らずに……」
「嫌……」

 そーんな事を妄想しつつ、自室でお茶を頂いていたら、いきなり先代侯爵であるお祖父様の呼び出しを喰らったの。
 嫌な予感しかしないわね。
 結局無理矢理連行される羽目になっても、嫌なものは嫌なのよ。

「アミエッテ……」
「何ですか、お祖父様」

 私の新茶ラブラブタイムを妨害したからか、シリアスな雰囲気ね。

 でも、お祖父様のお呼び出しって、8割がた来なきゃ良かったって思うものばかりなのよ。
 変な思いつきの発言が多いものだから。
 お祖母様によると、若い頃からこの調子で、未だボケてはないらしいわ。
 身内ながら若い頃から迷惑よねえ。外でやって欲しいわ。

「黒騎士ウィルソニーと結婚せい」
「……せめて、生きている方との結婚をお命じください」

 ほーら、碌でもない!

 何で! この、引く手数多過ぎて婚約者が未だ決まっていないこの私が! そりゃ有名すぎて銅像にもなってるけど、本の中の登場人物よ?
 フィクションの人物との結婚を打診されなきゃいけないのよ!
 本でも読んで寝てろって暗喩ならご機嫌で承るけど、絶対そうじゃないでしょう!

「ほほー、ヴァンブレード・ウィルソニーを覚えているか」
「そりゃ、知識として知ってはいますけれど……」

 今時黒騎士だなんて時代遅れいえ、他に聞いたこと有ったかしら。
 しかも名前が何だか『僕の考えた最強無敵騎士』的っていう感じ? イキってるし。
 
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