あやかし屋店主の怪奇譚

真裏

文字の大きさ
上 下
12 / 32
第二章 人魚の恋慕譚

男子高校生の恋話

しおりを挟む
「おーい、依月?珍しいなぁ、上の空だなんて」

「えっ…いや、まあ?」

机と対面し、ぼーっとしていた俺に声をかけたのは、悩みの種である榊原要さかきばらかなめだ。人魚さんが言っていた通り、活発で…というか五月蝿くて、基本的には優しい男だ。

大してコミュニケーション力が高くない俺は、高校に入学してかた友人が出来るか心配だった。同じ中学出身のヤツもいたが関わりがなく、なんとなく近寄りがたかったのでぼっち覚悟だったのだ。そんな俺に声をかけてきたのがこの男。最初は、ノリが軽くて気が合わない奴だと思っていたけれど、話している内に良いところが見つかっていった。

だがしかし、この榊原という男。浮いた話がない。俺に隠しているだけかも知れないが、少なくとも高校に入ってからは惚れた腫れたの騒ぎは無い筈だ。魅力がないという訳ではないが、どちらかと言われれば友だちとしての方が、女子が関わりやすいのだろう。感情が顔に出やすい要からは、恋をしているような素振りは全くない。
…人魚さん、これはいわゆる、脈ナシというやつではないだろうか。

しかし、依頼は依頼だ。紗世さんに押しつけられた以上は、やり通すつもりではいる。


「またぼーっとしてるな?依月さんよー」

「何だよ、構って欲しいんか?おらおら」

けらけらと薄い笑いを二人で響かせあう。うん、いつも通りだ。楽しい。

「なんか悩み事でもあんの?出来る範囲なら、相談乗るぜ」

「うーん、そうだなぁ…」

悩み事の張本人は、胸を張って「俺に任せろ!」と訴えてくる。いやしかし、要に言ってもいいのだろうか?人魚さんにも、妖怪とはいえ乙女心くらいあるだろうし…

「この前、魚とか…例えば人魚とか、助けたりした?」

「人魚かどうかは知らねーけど…裸で寒そうにしてる女の人に上着を貸してやった気が…」

曖昧にしか覚えていないのが変にこいつらしくて笑えてくる。裸の女性を見ても襲わずに上着を貸してやれるあたり、やはり出来た人間なのだと思う。
人魚さんがその女性だと仮定した場合、陸に上がろうとして人に変化した際、服がなく困っていたという結論に至りそうだ。

「むーん…なるほど、もう一個質問してもいい?」

「ん?全然いーけど」

「今、気になってたり、好きな女子…いる?」

「んだよ藪から棒に!…言わないけどよ」

ぷいっと頬を膨らませて、要はそっぽを向いてしまった。微かに赤い耳をのぞかせている。
…え?うそでしょ?お前好きな人いんの…??うわぁ、ショック。

「なになに?好きな人いるんですかねぇ?か・な・め・さ・ん?」

ニヤニヤ、ニマニマと気持ちが悪い笑顔を浮かべてしまう。ショックなのはショックだが、俺も男子高校生な上、友人の恋話には興味津津だ。好奇心を嘗めないでいただきたい。

「…だぁぁ!!知ってんだろ!どうせ俺の顔見て、『ああ、こいつ好きな女子いるんだなー』とか思ってんだろ!性悪!」

「そんなにボロクソ言わなくたっていいだろ!?」

「そうだよ俺は恋してんだよ!察しろ!」

「お、おうそうか!?悪かったなぁ!」

勢いに負けて、同じノリで返答してしまったが、やはり好きな相手がいるらしい。これは、相手まで聞いたら照れてトイレまで逃げる展開だな…。
面白そうだし、少し試してみよう。

「ちなみにお相手は?ああ、隣の席の高梨さん?」

「んむわぁぁぁ!!小泉依月が俺のこと虐めてくるー!」

予想通り、要はバタバタと騒がしい足音を立てながら廊下まで一直線に走る。

「おーい!!俺の悪口を撒き散らすなぁー!!」

運動神経では確実に負けている俺は、無駄に追いかけることはしなかった。だって、どうせ負けるしね、はぁ…。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない

めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」 村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。 戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。 穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。 夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

『イケメンイスラエル大使館員と古代ユダヤの「アーク探し」の5日間の某国特殊部隊相手の大激戦!なっちゃん恋愛小説シリーズ第1弾!』

あらお☆ひろ
キャラ文芸
「なつ&陽菜コンビ」にニコニコ商店街・ニコニコプロレスのメンバーが再集結の第1弾! もちろん、「なっちゃん」の恋愛小説シリーズ第1弾でもあります! ニコニコ商店街・ニコニコポロレスのメンバーが再集結。 稀世・三郎夫婦に3歳になったひまわりに直とまりあ。 もちろん夏子&陽菜のコンビも健在。 今作の主人公は「夏子」? 淡路島イザナギ神社で知り合ったイケメン大使館員の「MK」も加わり10人の旅が始まる。 ホテルの庭で偶然拾った二つの「古代ユダヤ支族の紋章の入った指輪」をきっかけに、古来ユダヤの巫女と化した夏子は「部屋荒らし」、「ひったくり」そして「追跡」と謎の外人に追われる! 古代ユダヤの支族が日本に持ち込んだとされる「ソロモンの秘宝」と「アーク(聖櫃)」に入れられた「三種の神器」の隠し場所を夏子のお告げと客観的歴史事実を基に淡路、徳島、京都、長野、能登、伊勢とアークの追跡が始まる。 もちろん最後はお決まりの「ドンパチ」の格闘戦! アークと夏子とMKの恋の行方をお時間のある人はゆるーく一緒に見守ってあげてください! では、よろひこー (⋈◍>◡<◍)。✧♡!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...