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第二章 人魚の恋慕譚
男子高校生の恋話
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「おーい、依月?珍しいなぁ、上の空だなんて」
「えっ…いや、まあ?」
机と対面し、ぼーっとしていた俺に声をかけたのは、悩みの種である榊原要だ。人魚さんが言っていた通り、活発で…というか五月蝿くて、基本的には優しい男だ。
大してコミュニケーション力が高くない俺は、高校に入学してかた友人が出来るか心配だった。同じ中学出身のヤツもいたが関わりがなく、なんとなく近寄りがたかったのでぼっち覚悟だったのだ。そんな俺に声をかけてきたのがこの男。最初は、ノリが軽くて気が合わない奴だと思っていたけれど、話している内に良いところが見つかっていった。
だがしかし、この榊原という男。浮いた話がない。俺に隠しているだけかも知れないが、少なくとも高校に入ってからは惚れた腫れたの騒ぎは無い筈だ。魅力がないという訳ではないが、どちらかと言われれば友だちとしての方が、女子が関わりやすいのだろう。感情が顔に出やすい要からは、恋をしているような素振りは全くない。
…人魚さん、これはいわゆる、脈ナシというやつではないだろうか。
しかし、依頼は依頼だ。紗世さんに押しつけられた以上は、やり通すつもりではいる。
「またぼーっとしてるな?依月さんよー」
「何だよ、構って欲しいんか?おらおら」
けらけらと薄い笑いを二人で響かせあう。うん、いつも通りだ。楽しい。
「なんか悩み事でもあんの?出来る範囲なら、相談乗るぜ」
「うーん、そうだなぁ…」
悩み事の張本人は、胸を張って「俺に任せろ!」と訴えてくる。いやしかし、要に言ってもいいのだろうか?人魚さんにも、妖怪とはいえ乙女心くらいあるだろうし…
「この前、魚とか…例えば人魚とか、助けたりした?」
「人魚かどうかは知らねーけど…裸で寒そうにしてる女の人に上着を貸してやった気が…」
曖昧にしか覚えていないのが変にこいつらしくて笑えてくる。裸の女性を見ても襲わずに上着を貸してやれるあたり、やはり出来た人間なのだと思う。
人魚さんがその女性だと仮定した場合、陸に上がろうとして人に変化した際、服がなく困っていたという結論に至りそうだ。
「むーん…なるほど、もう一個質問してもいい?」
「ん?全然いーけど」
「今、気になってたり、好きな女子…いる?」
「んだよ藪から棒に!…言わないけどよ」
ぷいっと頬を膨らませて、要はそっぽを向いてしまった。微かに赤い耳をのぞかせている。
…え?うそでしょ?お前好きな人いんの…??うわぁ、ショック。
「なになに?好きな人いるんですかねぇ?か・な・め・さ・ん?」
ニヤニヤ、ニマニマと気持ちが悪い笑顔を浮かべてしまう。ショックなのはショックだが、俺も男子高校生な上、友人の恋話には興味津津だ。好奇心を嘗めないでいただきたい。
「…だぁぁ!!知ってんだろ!どうせ俺の顔見て、『ああ、こいつ好きな女子いるんだなー』とか思ってんだろ!性悪!」
「そんなにボロクソ言わなくたっていいだろ!?」
「そうだよ俺は恋してんだよ!察しろ!」
「お、おうそうか!?悪かったなぁ!」
勢いに負けて、同じノリで返答してしまったが、やはり好きな相手がいるらしい。これは、相手まで聞いたら照れてトイレまで逃げる展開だな…。
面白そうだし、少し試してみよう。
「ちなみにお相手は?ああ、隣の席の高梨さん?」
「んむわぁぁぁ!!小泉依月が俺のこと虐めてくるー!」
予想通り、要はバタバタと騒がしい足音を立てながら廊下まで一直線に走る。
「おーい!!俺の悪口を撒き散らすなぁー!!」
運動神経では確実に負けている俺は、無駄に追いかけることはしなかった。だって、どうせ負けるしね、はぁ…。
「えっ…いや、まあ?」
机と対面し、ぼーっとしていた俺に声をかけたのは、悩みの種である榊原要だ。人魚さんが言っていた通り、活発で…というか五月蝿くて、基本的には優しい男だ。
大してコミュニケーション力が高くない俺は、高校に入学してかた友人が出来るか心配だった。同じ中学出身のヤツもいたが関わりがなく、なんとなく近寄りがたかったのでぼっち覚悟だったのだ。そんな俺に声をかけてきたのがこの男。最初は、ノリが軽くて気が合わない奴だと思っていたけれど、話している内に良いところが見つかっていった。
だがしかし、この榊原という男。浮いた話がない。俺に隠しているだけかも知れないが、少なくとも高校に入ってからは惚れた腫れたの騒ぎは無い筈だ。魅力がないという訳ではないが、どちらかと言われれば友だちとしての方が、女子が関わりやすいのだろう。感情が顔に出やすい要からは、恋をしているような素振りは全くない。
…人魚さん、これはいわゆる、脈ナシというやつではないだろうか。
しかし、依頼は依頼だ。紗世さんに押しつけられた以上は、やり通すつもりではいる。
「またぼーっとしてるな?依月さんよー」
「何だよ、構って欲しいんか?おらおら」
けらけらと薄い笑いを二人で響かせあう。うん、いつも通りだ。楽しい。
「なんか悩み事でもあんの?出来る範囲なら、相談乗るぜ」
「うーん、そうだなぁ…」
悩み事の張本人は、胸を張って「俺に任せろ!」と訴えてくる。いやしかし、要に言ってもいいのだろうか?人魚さんにも、妖怪とはいえ乙女心くらいあるだろうし…
「この前、魚とか…例えば人魚とか、助けたりした?」
「人魚かどうかは知らねーけど…裸で寒そうにしてる女の人に上着を貸してやった気が…」
曖昧にしか覚えていないのが変にこいつらしくて笑えてくる。裸の女性を見ても襲わずに上着を貸してやれるあたり、やはり出来た人間なのだと思う。
人魚さんがその女性だと仮定した場合、陸に上がろうとして人に変化した際、服がなく困っていたという結論に至りそうだ。
「むーん…なるほど、もう一個質問してもいい?」
「ん?全然いーけど」
「今、気になってたり、好きな女子…いる?」
「んだよ藪から棒に!…言わないけどよ」
ぷいっと頬を膨らませて、要はそっぽを向いてしまった。微かに赤い耳をのぞかせている。
…え?うそでしょ?お前好きな人いんの…??うわぁ、ショック。
「なになに?好きな人いるんですかねぇ?か・な・め・さ・ん?」
ニヤニヤ、ニマニマと気持ちが悪い笑顔を浮かべてしまう。ショックなのはショックだが、俺も男子高校生な上、友人の恋話には興味津津だ。好奇心を嘗めないでいただきたい。
「…だぁぁ!!知ってんだろ!どうせ俺の顔見て、『ああ、こいつ好きな女子いるんだなー』とか思ってんだろ!性悪!」
「そんなにボロクソ言わなくたっていいだろ!?」
「そうだよ俺は恋してんだよ!察しろ!」
「お、おうそうか!?悪かったなぁ!」
勢いに負けて、同じノリで返答してしまったが、やはり好きな相手がいるらしい。これは、相手まで聞いたら照れてトイレまで逃げる展開だな…。
面白そうだし、少し試してみよう。
「ちなみにお相手は?ああ、隣の席の高梨さん?」
「んむわぁぁぁ!!小泉依月が俺のこと虐めてくるー!」
予想通り、要はバタバタと騒がしい足音を立てながら廊下まで一直線に走る。
「おーい!!俺の悪口を撒き散らすなぁー!!」
運動神経では確実に負けている俺は、無駄に追いかけることはしなかった。だって、どうせ負けるしね、はぁ…。
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