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神乃馬

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    中隊の九騎は前線陣地を目指して宿営地を出撃して行った。

    中隊が宿営地を出撃した時、一人出撃から外された霞谷は、将校用天幕覆で気落ちしていた――訳では無かった。

    先程の中隊命令受領の際にもたらされた情報を整理し、携行綴りに纏め、地図と一緒に革製の図嚢ずのうに収める。雑嚢に一日分の糧食を入れ、水筒を用意して小銃――三十年式騎兵銃改、弾薬――対獣用強装弾、対獣用軍刀等の装備を確認する。

    其等を終えると馬繋ぎ場へ向かい、自分の乗馬である黒三月の蹄、馬体の点検を行って装鞍も終えた。そう、霞谷は単騎で中隊の後を追うつもりでいた。

    中隊主力が出撃した一時間後、日没を待って装備を身に付け黒三月に騎乗して宿営地を出ようとした――その時、誰かが前方に立っているのが見えた。

    近づくと、中隊で自分を除いた唯一の女性兵である西森鼎にしもりかなえ上等卒だった。彼女は馬匹管理小隊の一員で、神乃馬の健康管理を担当している。陸軍が女性に門戸を開いた事で軍籍に身を置く様になった一人だ。

    「見習士官殿、もう、日没ですがどちらへ行かれますか?」

    『まずいな……』そう思いながら「夜間騎乗訓練だ。すぐ戻る」平静を装い答えた。

    西森は霞谷の行手を開けると、真っ直ぐ前を見詰めたまま敬礼をした。
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