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神乃馬

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    梶本も鶉橋に続いて霞谷に声を掛ける。

    梶本周作かじもとしゅうさくは三十一歳の古参下士官。中隊の纏め役的存在で、中隊下士卒から公私共に慕われ頼られている。同じ曹長の階級である陸士出身、見習士官の霞谷とは違い兵卒からの叩き上げで、前回の戦争――日清戦争の中隊唯一の経験者でもある。

    一方、霞谷の方はというと、二人に慰められた今も相変わらず俯き顔を伏せたままでいる。

    そして、俯いたままポツリと呟いた。

    「必ず……認めさせる。黒三月くろみつきと二人で……必ず」

    鶉橋と梶本は顔を見合わせた。『こんな言葉を吐けるなら大丈夫』この中隊が編成されて以来霞谷を知る二人はそう思った。
    
    霞谷の姓名は霞谷蹄かすみたにてい。二十一歳、岩手県出身で生家は牧場を営んでいる。かつては牛や豚等の畜産を中心としていたが、先の日清戦争前から富国強兵の国策の後押しもあり、軍への軍馬――乗用軍馬から輜重輓馬までを手広く納入する方向へと転換していた。

    そして打ち出された富国強兵策がもう一つ。日清戦争後、次の仮想敵国としての露西亜の存在が驚異となると、圧倒的軍事力の差を埋める為の政策が打ち出された。

    それは陸海軍への女性の登用だった。まずは非戦闘部署、要員から始まり徐々にその範囲は拡張され、四年前には陸軍士官学校の門戸が女性に開かれた。霞谷はその二期生であり、このまま少尉任官すれば初の女性騎兵将校となるはずである。
    
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