異世界製作 〜転生しようと思ったら異世界作る側だった〜

寝占 羊

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第一章 「村開拓とモブ対抗戦」

第8世 「モブの茶番」

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 黒っぽい木を見つけ1本切ると、
すぐその森でドアを完成させ、村へ帰る。



だが、寝過ぎた事と、ドアを作るのに時間をかけたせいか、
柵はいくらか作ったものの、今日もギリギリ村を閉じ切るまでには間に合わなかった。
そのまま、また夜が来る。

 「1日って早いよなぁ」

 「いえ、じゅうぶん長いですよ。」

 「そりゃ見てるだけのヘルプは長いだろうなぁ…」

 だけどまぁ、今回はゾンビを連れて来てない。
 「毎度村が襲われる訳じゃ無いだろうし、沸き潰しもバッチリだ。」
 つまり、ゾンビなどの怪物の嫌う火と明るさは十分にある。

 「まぁ昨日から変わらず松明たいまつは付いてたんだけどな」
 そう言いながら今日も司書の部屋にお邪魔する。

 「ただいまぁ!言葉を知った村人よ!
ほれ、扉作って来たから付けとくぞー。」

「ヴゥー」

 そう言って扉を付けた瞬間だった。
安心はすぐに無くなった。
ゾンビの声がしたからだ。

 「え?今の声って?
はぁぁー!?
嘘だろ?また訪問ですかぁ?」

 「ヴゥー」

 まぁそーだよなぁ、逆になんでいけると思ったんだよ。
でもどうやっても時間的にあと半分もの柵を作るのは無理だった。やっぱりもう詰みなんだな。

 始めた時はスレンダードラゴンまで楽勝で進めると思っていたが。
柵を作るっていう簡単な事さえできずに終わりだ。

 力や人に頼らず、自立して。
自分で生きるってのがこれほど過酷な事なんて、現世でも誰も教えてくれない…

 あれ?現世?なぜ現世の事を…
何か記憶が戻った訳じゃ無いのに、なぜそんな事が言えるんだろう。

 いや、きっと教えてくれる人が居ても、自分で経験しなきゃ人はいつまでも楽に夢を追おうとする。

 きっと現世と同じような状況で、こんな感情が湧いてきたのだろうが、自分でも何の話をしているのか分からない。

気づけば当たり前のように、またゾンビが村に入って来た。

 「うち、宗教の勧誘もNNNも断ってるんだよなぁ。
頼むよ、帰ってくれ。」

 「タノム、カエッテクレ」

 「そうだぞぉー、
ほら、ここの住人が言ってんだからさ、

ってえぇ?!
お前!めっちゃ話せるようになってるなぁ」

 そういえば、最初は嫌な顔をしていたはずの司書だが、嫌な顔はされなくなり、どうやら受け入れられたみたいだ。

 ゾンビは足を止めず、昨日のようにまた、扉の前まで来た。
もう諦めに走った創夢は、
そんなゾンビを気にせず司書と会話を続ける。

 「ワタシ、ハ、オマエ?」

「ん?何言ってんだ?まだ意思疎通は難しいか?」

 「ワタシ、ナマエ、オマエ?」

「あぁ!
お前の名前か?そうだなぁ、何が良い?
じゃオマエで良いか?」

 ゾンビが扉の前に来たのに、扉を壊す音が聞こえず、ふと確認した。気のせいか本当か、俺らの話を聞いていたゾンビが一瞬動きを止めていたように見えた。

 「へ?止まってる?」

いやいや、なんとかなるっていう変な期待のせいか?期待し過ぎてそう見えてるのか?
時計の針が一瞬止まったように見えるあの現象的な?
ダメだ期待するな。やっぱり攻略は無理だった。
もういい、今回は諦め。

としても!この村人の謎は知って次に行きたい。

次ってのは、ゾンビの攻撃を喰らいながらも1人ここから逃げ、この村を諦めるが攻略を続け、新しい村を見つける旅に出るパターンと、

攻略自体を諦め切り、神の力を使っちゃって村も自分も守って、そこからは好きに世界の細かい部分を作ってくパターン。

どちらにしてもだ。
この村人の言葉覚醒の謎は知っておきたい…

「てか、お前!何で言葉話せるんだ?」

 「ヴゥー!」
 と思うと、扉の前で唖然と俺らの話を聞いてた様なそのゾンビが再び動き始めた。

 「おーおー、
ダメだ!ゾンビが、俺が来てんのに2人だけで楽しくすんなって顔してやがる!」

 ほらやっぱりなんとかはならない。
俺が話すと司書も真似して叫んだ。

 「タノシクゥー!スルナァー!」

あぁ、なんか司書が若干言葉の意味履き違えて覚えてやがる…

バキバキッ

ようやく扉が壊れていく。
「今日作ったばかりなんだぞ!それ!」

 その時、さっきまで後ろに隠れてた司書がなぜか俺の前に出て来て、本でゾンビに挑もうとしていた。

 「ナンゾゾ!ソレー!」

 「え?いや、待て待て待て、何してんだよ!
本で勝てる訳無いだろ?」

 いや、そもそもなぜこんな行動を?!
やっぱり明らかにおかしい、この村人。

で、司書だから武器が本なのか?

 「オマエ、オル、アナタ、タイセチ。」

 「あぁ、なんか…
守ってくれてんのか?
多分良い場面なんだろうけどよ、
ちょっとガチで何言ってるかわかんねぇ…」

「ヴゥー」
 ん、ゾンビの動きが遅くなった?
なんか…ゾンビも俺がこの司書語を理解するまで扉壊すのを遅らせてないか?
 なぜか俺にはそう感じた。

 死に際とかに周りがスローモーションに見えるあれ的な?
その時、昨日のこれと同じ様な状況で自分の胸を貫かれた夢の記憶を思い出す。

 「はっ!はぁ!」
少しパニックになりそうになる。

 ダメだ落ち着け。
いや?一瞬恐怖しただけだ…自然と落ち着いてるな。あー、これも"安定"の設定か。

いや、きっと落ち着けたのはそれだけじゃない。もう一つ理由がある…この村人だ。

この前とは違う、俺の後ろじゃ無く前にいるし、これは俺を本気で守ろうとしてる。

「オマエ、ハァーン、ナイ、アナタ、ムラ、イル」

 「あぁ?何?本当にわかんねぇって!」

「ヴゥー」

「オマエ、バァーン、アナタ、コノムラ、イル」

 「そっか、オマエってお前の名前か!ややこしいなぁ。」

「ヴゥー」

 ったくなんだよこの茶番。
村人が話せる理由は何も探れないし、
もうなんか、ゾンビも扉壊さないようにするのに限界きてるぞ…。
何してんだよみんな、これもバグか?

 「いいえ、私から見れば普通のゾンビです。創夢様は目がお悪いようですね、メガネでも必要ですか?」

 このヘルプ…助言してくれるのかと思ったらディスりに来やがった。

 「今それどころじゃねぇーだろ!
メガネって、いらねぇよ!」

 「失礼しました。コンタクト派ですか?」

 「てめぇ、なめてるだろ?」

 「すみません、よく分かりません。」

はぁ、こいつに肉体という実態が無い事がもどかしい。

 「舐めてるだとか、
私に肉体があればとか、
何をする気なのでしょう?
いやらしいですね。」

 「えっと…ヘルプって、助けてくれるんだよな?今の状況分かってますか?」

 「はい、これこそ茶番ですね。」

するとこの間ずっと言葉を発していた司書がようやく聞き取れる単語を言った。
「ダカラ!アナタ、コノムラニ、ヒツヨウ!
オマエ、マモル!ホン、ツカエル!」

 「おーおーおー、何?
この村には、オマエより、俺が必要で?
その本はなんか使えるやつなのか?」
うなずく司書。

「ヴゥー」
バキバキッ

そして扉を壊す、いや、壊してしまうゾンビ。

 「おい!入って来たぞ!
じゃあ使えよその本!
どんな力があるのか知らねぇが!」

 世界を作る側とか知った時は普通の異世界人生と違って、退屈なもんになるとかも心配したけど、
やっぱりこうでないとな、
自分の予想を超えて、とんでもミラクルが起きて行くのが異世界だろ!
来たぜ、こいつが、お決まりの強い味方!的な?

 「ハァーン…」

 その期待も外れ、小さな本を盾の様に持ち、震えながら小さくうずくまる村人が目の前にいた。

 本当に期待外れも良いところだ。

 え?いや、おい!なんだよ!
抵抗しねぇ…

いや、できねぇのか!
まぁエンチャント?的なのとかが本にあれば信じれたけど、見るからに持ってるのはただの本だしなぁ…
こいつ…もしかしてアホか?

 「ヴゥー」

 はぁー、結局襲われるのか…。
俺はどうにかなるとして、
こいつは食われて村人ゾンビになるし、その後村も終わる訳だ。

いやー、柵作った労力…
なんだったんだろ。

 そう思いながら、
あと少しでゾンビの手が村人に届き、オマエが村人ゾンビとなるところで、

俺はあっさり力を使った。



◽︎第8話用語解説
・沸き潰し
マインドクラフトのゾンビやスケスケなどの怪物達は、基本朝の日の光に晒されると燃えて消える。
明るさと炎が嫌いな事から松明などで夜も明かりを灯しておけば出現しづらく、接近もある程度は回避できる。

・NNN
現実世界の地球にあるテレビ局。


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