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第七章
第28話
しおりを挟む八朔はもう片方の手を俺の股間に伸ばしてきた。やんわりと下着の上から触れて、指の腹で撫でてくる。
「うわわ……ッ」
急に急所を触られて、思わず声が上擦ってしまった。すかさず八朔が「静かに」と俺の胸元で囁く。その間にも股間をまさぐる手は止めてくれない。
「んなこと言われても……っ。ま、待てって……ッ」
八朔の手を遮ろうと身じろいだとき、偶然にも八朔の下半身に触れてしまった。病衣の上からでも、そこが固くなっていることは明らかだった。俺はまじまじと八朔の股間の辺りを凝視する。
「お、お前も勃ってるぞ」
「当たり前だろ、あんたとこんなことしてるんだから」
八朔はちっとも声を震わせることなく、平然と言った。なんだか自分ばかり興奮を煽られているようで悔しくなってくる。俺はバシッと八朔の手を払いのけ、できるだけ平静を装って髪を掻き上げた。
「くそ、しょうがないから、俺がしてやる」
「は?」
八朔がぽかんとした目で俺を見る。よしよし、驚いてるな。俺だけ翻弄されっぱなしじゃ男として不甲斐ない。
見てろよ、と俺は妙な気概に後押しされて、八朔の足元へと身体をずらした。ベッドから落ちないように身体を丸めて、八朔の腰の辺りに顔を近づける。腰ひもを解いて病衣をちらりとめくると、八朔の中心ははっきりと下着を押し上げて主張していた。
手を伸ばして触れようとしたら、がしっと手首を掴まれる。
「あんた――――」
俺が何をしようとしているのか、ようやく察知したらしい八朔が、俺をじろりと見下ろしてきた。
「まさか……、誰かにしたことねえよな……?」
ぎらりと目が三白眼になり、怒ったような、不審げな視線で睨んでくるので、俺は慌てて首を横に振る。
「あ、あるわけないだろ! けど、前にお前に口でやられたことあるし……、なんとかなると思うんだけど……」
八朔以外の男とこんな関係になったことなどあるわけない。だからどうやってこいつの息子を慰めてやるかは、八朔をお手本にするしかなかった。いきなり口で奉仕できるのか自分でも謎だけど、挑戦してみたいと思うほどには俺も興奮している。
これまではずっと八朔の方から求められるばかりだったので、自分の気持ちを自覚した今、少しくらいは俺も態度で示さないと。
「……お前、俺を助けにきてくれたし、刺されたのもあるし、お礼にこれくらいさせろ」
思い切って八朔の下着を下ろすと、そこからぶるっと飛び出してきた性器が、高く天を突いて勃ち上がった。ほんとにこいつのナニはでかい。自分のモノと比べるとしゅんと落ち込んでしまいそうになるほどだ。温泉で遭遇したときにも見たけれど、無駄な脂肪は無いし、腹筋も綺麗に割れているし、何から何までパーフェクトじゃないか。
俺は誰もが羨むほどの一級品を手に入れてしまったんじゃないかと、妙な優越感まで感じてしまう。
「仁木、俺の指、咥えて」
八朔が手を伸ばしてきて、親指を俺の口の中にゆっくりと差し込んできた。
「ん、んむ」
まるで予行演習させるみたいに、指を出し入れされて、舌をぐっと抑えられる。俺は夢中になってその指を吸ったり舐めたりしてみた。
「ん…っ、ん…っ」
唾液が一気に溢れ出てきて、口の端から零れ落ちていく。それが八朔の性器にトロトロと流れ落ちて、俺はそれを追うように、八朔の屹立を口に含んだ。
「んう、う……ッ」
指とは比べ物にならないほどの圧迫感が襲ってくる。独特の匂いと味が広がって、頭の奥の神経をジリジリと刺激する。異様な興奮と欲望が膨れ上がってきて、俺は夢中で八朔のそれを愛撫した。
到底全部を口内に収めることなんてできない。無理をすると喉の奥まで到達して、うえっとえずきそうになるので、俺は先端や括れを舐めながら手でも刺激を与えた。
「……顔上げて。俺を見て」
艶めいた八朔の声がする。いつの間にか掠れ声になっているので、少しは感じてくれているらしい。俺が咥えたまま顔を上げて八朔を見上げると、切なげに眉間を歪めて俺を見つめる視線とかち合った。なんて目で見るんだろう。俺が愛しくて堪らないって顔をしている。もしかして俺も同じような顔をしているんだろうか。
八朔が俺の顎をくすぐるように撫でてくる。俺は涙目になってその快感に耐える。
「ふは……、んん、……う」
苦しさに息を吸って吐いてしながら口淫に没頭していると、次第に八朔の性器が膨張してくるのが分かった。腹筋に力が入って、たまにビクっと痙攣している。良かった、このまま頑張ればイかせられる、と俄然やる気になったその矢先、
「仁木、いったん離して」
と額を押されて止められてしまった。
「はんでだお」
何でだよ、と言ったつもりが口が一杯なので変な言葉になる。もうちょっとだろ、と文句を言おうとしたら、先に八朔が自白した。
「もうイきそうなんだよ。こっちに来て。一緒にイきたい」
辛そうな顔でそんな弱音を吐くので、俺の意地を通すわけにもいかなくなる。俺は仕方なく口を拭って、望みどおり、またのそのそと八朔の上に跨った。
八朔がするりと俺の下着を尻の半分まで下ろす。さっき中途半端に刺激された俺の中心も、八朔のものを咥えているうちに興奮が高まったのか、痛いほどに反り返っていた。
「あ……っ」
八朔の大きな手が、二人の性器をまとめて掌に包んだ。擦り合わせて、ぐりぐりと刺激を与えてくる。俺の唾液やらお互いの先走りなんかが混ざり合って、耳を塞ぎたくなるような水音が聞こえ始めた。
「や……っ、あ……っ、はぁ……ッ」
堪らなくなって八朔の首にしがみつく。八朔の左手が俺の背中を支えながら、愛おしげに撫でてくる。僅かな刺激も今は身体を熱くする発火点になる。
「……あっ、気持ちい……、ほずみ……ッ」
「レオ、だよ」
俺の耳を甘噛みしながら、八朔が低い声で囁いた。俺は瞑っていた目をぼんやりと開ける。
「……っ、なに……?」
「二人きりのときは、名前で呼んでって言っただろ」
いつかの出来事を思い出して、俺は頬が熱くなった。
「い、いやだ……、何か恥ずかしくなるから、それ」
「どうして? 刺されたときは呼んでくれただろ。あれ、すげえ嬉しかった」
俺の鼻と自分の鼻をつんと擦り合わせて、心底嬉しそうに笑う。形のいい唇が、まるで催眠術でもかけるみたいに俺に指令を与える。
「ねえ、お願い。あんた年上だろ? オレを甘やかしてよ……」
また八朔お得意の「お願い」攻撃だ。俺は八朔の額に自分のおでこをごつんとぶつけて、恨みがましく返した。
「いっつも生意気なくせに、こんなときだけズルいぞ……」
「こんなときだから、だよ」
憎たらしいくらいの色っぽい顔で、俺のおでこに、ちゅっと音を立てて口づけてくる。
俺の前では、かっこいいだけじゃなくて、わがままで甘え上手で素直な「レオ」になる。大人びた八朔と、子供みたいなレオが同居していて、俺を翻弄する。
くそっ。それが可愛いなんて思ってしまう時点で、俺も相当のぼせ上っているらしい。
「レオ……」
羞恥心を振り払って名前を呼ぶと、八朔がふっと笑みを零した。
「――――うん」
頷いて、再び指の動きを再開する。俺も手伝おうと重なり合う性器に指を絡めた。それに気づいた八朔が一度手を離し、今度は俺の手ごと上から包み込むようにして力を加えてきた。二人でお互いのものを刺激し合い、高みを求めて昇りつめていく。
「や、……あっ、レオ……ッ」
「もっと呼んで……」
八朔の声がさらに劣情を煽る。
「レオ……、れお……っ、あ……っう、んん……ッ」
大きな声が漏れそうになると、八朔がそれを受け止めるように唇を塞いでくれた。舌で激しく口内を蹂躙されて、俺の息や呼吸まで奪い取られるみたいだ。
熱が一点に向かって集中し、腰の奥の方から何かが押し寄せてくるのが分かる。
「ふ、あ……、も、イ……っ、アア……ッ」
「……く……っ!」
俺たちは同時に欲望を解放して、白い体液を掌の中に吐き出した。ため込んでいたものをすべて押し流すみたいに、ドクドクと痙攣してしばらくの間止まらなかった。
瞼の裏にチカチカと星が飛んで、力尽きたように俺は八朔へ凭れかかる。死ぬほど気持ちよくて、身体に残る恍惚感を心ゆくまで味わった。
はあはあと荒い呼吸を繰り返していると、八朔がねぎらってくれるみたいに俺の頭や背中を撫でてくれる。お互いの呼吸が落ち着くまで、支え合うみたいにして抱き合っていた。
どれくらいそうしていたのか、次第に興奮が治まってきて、俺はハッと覚醒する。お互いのものをまだ握りしめたままだったことに気づいた。
「わっ、ティッシュ、ティッシュはどこだ」
慌てて八朔の上から降りようとしたが、がっちりと拘束されていて敵わない。八朔は俺の手を掴んで、掌の中の白いものをじっくりと眺める。恥ずかしさに俺が「ティッシュ……」ともう一度呟くと、
「いらない。もったいないから」
と零して、あろうことか、俺の掌をぴちゃりと舐め始めた。俺はぎゃっと飛び上がりそうになる。
「おま……っ、お前、汚くねえの?」
呆然とするが、八朔は平然として、俺の指を一本一本口に含んだり舌で舐め回したりしている。
「汚くないよ。あんたの精液なら、全部俺のものにしたい」
お前のもんも混じってるぞ、と指摘したくなったが、八朔の頭の中にその概念はないらしい。あ、愛が深い……と俺は変なところで感心してしまう。
それでも後始末をしないわけにはいかなくて、しばしのあと、二人でせっせと手を拭ったり、布団を拭いたりした。被害はほとんどなくて、無事に手で受け止められて良かったと安堵する。
結構大きな声で喘いでしまったが、看護師さんや警備の人が駆け込んでくるような事態にならずに済んで助かった。俺がいそいそと自分のベッドに戻っていると、
「あんたも、もっと俺のこと好きになってくれたら、平気になる」
俺の反応に納得がいかなかったのか、八朔がそんなことを言った。俺だって、八朔の息子に奉仕したんだから、それほど嫌悪感があるわけじゃない。だけど、八朔にみたいに躊躇いもなくアレを呑み干せるようになるまでには、まだ時間がかかりそうだ。
「そ、そのうちな」
ハハハ、と笑って誤魔化すと、八朔の視線が妖しい色を湛えて、俺の腰の辺りをじっと見つめてきた。
「――――早く俺を受け入れてくれるように、頑張るよ」
ドキリ、というか、ヒヤリというか、ゾクゾクしたものが背筋を走る。
な、何を頑張るって言うんだ。俺の尻を開発するっていう意味か? いやいや、気持ちのことを言ってるんだよな? どちらとも判断がつかず、俺は冷や冷やしてしまう。
俺が布団に潜り込んだあとも、相変わらず八朔は、飽きもせず俺の顔を見つめていた。真っ直ぐに、どこまでもひたむきに、俺を見守っている。
その顔を見つめ返していたら、俺の方が先に眠たくなってきた。とろとろと瞼を下ろす瞬間、八朔が穏やかに笑った気がした。
一日の終わりに好きな奴の顔を見ながら眠れるなんて、こんな幸せがあったんだなと俺は噛み締める。きっと八朔も同じことを思いながら眠りにつくに違いない。
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