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第六章
第21話
しおりを挟む「……もっと舌、出して」
「ふ……ぅ、んん、ん……ぁ」
八朔の要求に応えて、俺は付け根が痛くなるくらい、めいっぱい舌を突き出す。それを柔らかく食んで、深く絡め合わせてくる。溢れてきたお互いの唾液を咥内で交換する。
八朔の長い指が、俺の耳朶を揉んだり、耳の後ろを刺激してきた。大きな掌で耳を塞がれると、脳内にいやらしいキスの水音が響き渡る。
(あ、これ知ってる……)
八朔のキスにデジャヴを感じて、俺はつい小さく笑ってしまった。吐息が漏れて、八朔の不思議そうな声がする。
「何が可笑しいの」
「いや、そうやってキスの最中に耳塞ぐのヤラしいよな。音がヤバい。夢の中で三郎も同じことしてた」
前世の男とキスの仕方を比べるなんて、なかなか出来る体験じゃないよな。そう思うと、二人分の愛おしさを感じてくる。俺の中にも錦がいて、三郎のキスを懐かしがっているみたいな、不思議な感覚だ。
「――――他には? 三郎にどんなことされたの」
八朔の歯が、カリっと俺の顎を噛んだ。
「怒んなよ。これって浮気にならないよな……?」
「なるわけないよ。だから正直に教えて」
いつになく穏やかな声音に安心して、俺は夢の内容を思い描いた。
「腰の痣んとこ、めっちゃ舐められた。他にも胸とか、あ、アソコとか、あちこち弄られたり……? あ、でも最後までは知らないぞ! その前にびっくりして飛び起きたから」
「ふぅん、そう」
にっこり笑った八朔が、素早い手際で俺のバスローブの紐を解いた。いきなり前をはだけられて、俺は慌てて足を閉じる。
八朔にお持ち帰りされたので、替えの下着なんて当然持っていない。元々穿いていたやつをもう一度穿くのも何だか気持ち悪いので、まあいいかとバスローブの下は丸裸だったのだ。
「今さら隠さないでよ。あちこち舐め回すんだから」
意地悪い言い方に、やっぱりこいつキレてんじゃん、とヒヤヒヤしてしまう。八朔が俺の膝に手を掛ける。俺はその手をグッと押し止めて、恐る恐る聞いた。
「で、電気、消さねえの?」
寝室の光量は抑えられてはいるが、お洒落なベッドサイドランプが煌々と灯っている。せめてそれだけでも消してほしいと目で訴えると、
「……俺は明るいところでヤる方が好きなんだよね」
と、八朔は淡々と呟いた。
「俺は暗い方がいい! は、恥ずかしいだろ!」
「駄目。初めてなんだから、あんたをじっくり見たい。これだけ待たせたんだから譲歩して」
そう言われてしまうと、俺は何も言い返せない。くっそぉ、と内心毒づいていると、力任せに膝を開かされた。
「ほ、八朔……っ」
俺のバスローブを剥ぎ取って、まるでどうやって料理しようかと楽しむように、上から下までじっくりと眺めてくる。
以前、温泉でも一緒になったから今さらなのに、一糸纏わぬ姿を八朔の前に曝け出しているかと思うと、羞恥心にいたたまれなくなる。
「お、お前も脱げよ……」
俺だけ裸なのもズルいと思って、八朔のバスローブの袖を引っ張った。俺に跨って膝立ちになった八朔が、ためらいもなくバスローブを脱ぎ捨てる。
いつもは着痩せする八朔の、綺麗に割れた腹筋が露わになった。ダンスをこよなく愛する男は、腕や太腿もしなやかに引き締まっている。
八朔のムスコと対面するのも、かなり久しぶりだ。相変わらずデカいし、長さもあって形もいい。イケメンのうえにソコもイケてるなんて、本当に文句の付け所がない。
「お前ってほんと、どこもかしこも綺麗だよな」
俺は思わず、八朔の硬い腹筋に手を伸ばしていた。羨ましくてナデナデさせてもらう。八朔がくすぐったそうに身じろいだ。
「今まで見てきたどの男よりも完璧だと思う」
しみじみと呟くと、八朔が「……ふ」と小さく笑った。好き勝手に腹筋を撫でていた俺の手を掴むと、
「あんたが俺に惚れた欲目だと嬉しいな」
そう囁いて、俺の背中の下に左腕を差し入れてきた。そのままグッと持ち上げられる。俺は肘を直角について背中を浮かせ、胸を突き出す形になった。
「あ……!」
胸の突起に八朔が舌を這わせてくる。小さな窪みを舌先で突き、唇を窄めて強く吸い上げる。
「ん、く……ッ」
敏感な部分に与えられる刺激に、俺の喉から堪えきれない息が漏れる。
八朔は俺の心臓の音を確かめるみたいに、しっとりとした掌で優しく胸を撫でた。
「あんたも綺麗だよ……。標本にして飾っておきたい。毎日取り出して、隅々まで舐め回すんだ」
アブない発言をする八朔に、俺は小さく苦笑する。そんなこと言うの、きっとこの世でお前くらいだ。
「それこそ、完全に惚れた欲目だな……、あ……ッ!?」
悪態を吐こうとしたら、空いていた右手でやにわに俺の中心を弄ってきた。淫らに指を絡め、親指で先端をクリクリと攻めてくる。
反応し始めたばかりだった俺のそこは、あっという間に熱を持って、ふるふると震えながら首をもたげてしまった。
「まっ……て、そんなに強くしたら……っ」
「すぐイキそう?」
俺は唇を噛んでコクコクと頷く。刺激を弱めてくれるかと期待したのに、八朔の手の動きはさらに早くなる。
「や、あ、あ!」
強い刺激に、浮かせた背中を支えられたまま仰け反っていたら、頭に血が上りそうになった。身体がガクガク震え出して、もう肘をついていられなくなる。すると、八朔が俺の背中からそっと左腕を抜き、優しくベッドに沈めてくれた。
するすると身体を下に移動させ、開かせた俺の足の間に顔を埋めてくる。
「あ……っ、あ、んん……ッ」
先走りに濡れていた鈴口に優しくチュッとキスをしたかと思うと、柔らかい唇と、ぬるりとした熱い舌が絡みついてきた。
「そ、それは、やめ……っ!」
腰がビクンと跳ね上がる。八朔は固く芯を持った俺の茎の根元を指で強く扱きながら、先端の窪みを舌と唇で愛撫してくる。
「この前、あんたも病院でシてくれたでしょ」
「そうだけど……ッ」
そのときの光景を思い出して、あの独特の匂いや味まで生々しく甦った。男のモノを咥えたのは初めてだったのに、相手が八朔だと思うとほとんど抵抗はなかったのだ。
俺だって八朔の口淫を味わうのは二回目だが、何度されてもこの強烈な刺激には慣れそうもない。
八朔の髪の毛が、俺のへその辺りをくすぐる。それだけで俺のそこは過敏に反応してしまう。さらに煽るように、八朔の巧みな指が俺の陰嚢をいやらしく弄り回してくる。
「で、出ちまうって……! 口離せ……っ」
俺は恥ずかしさに顔を覆いながら、思わず八朔に忠告する。このままだとお前の口の中に発射しちまうぞ、と。だけど、八朔の答えは案の定、
「いいよ、出して。また全部飲んであげるから。一滴も無駄にしたくない」
という愛のかたまりだった。俺の体液なら全部自分のものにしたいという、八朔の強いこだわりは健在らしい。俺は早々に抵抗を諦める。
最後の仕上げとばかり、八朔が俺のそこをすっぽりと咥え込んだ。喉奥をきつく絞り、亀頭を締め上げる。
「ひっ、うぅ……んッ」
内腿が引きつって、爪先までぴんと硬直した。
腰がわななき、じんとした疼きが全身に広がって、先端からびゅっと精液が噴き出したのが分かった。
「あ……っあ、は……ッ」
口からせわしなく息が漏れる。ガクガクと腰が痙攣する。
八朔が強く吸引し、俺の白濁を飲み干していく。思う存分堪能したあと、俺を咥内から解放して、うっとりと囁いた。
「……すごく濃いね。久しぶりだった?」
「い、言うなよ、そういうこと……」
俺は羞恥心に身悶える。八朔と離れている間、自分で自分を慰めていなかったわけではないが、ここ最近は周囲が騒がしかったおかげでそんな暇などなかったのだ。その分、得も言われぬ快感が全身に広がっている。
ぐったりしつつ味わっていると、八朔が俺の上を移動して、ベッドサイドの引き出しを開けた。ゴソゴソと中を漁っている間、俺はふと八朔の中心に目がいき、自慢の腹筋に当たりそうなほど反り返っているのを目撃した。
「お、俺もまた、口でしようか?」
自分だけ気持ちよくしてもらっては申し訳ないと、俺は八朔の昂ぶりに手を伸ばそうとした。だけど、気づいた八朔にぐっと手首を掴まれて阻止される。
「それはまた今度ね。今日はあんたをめいっぱい愛したいんだ。初めてあんたに手を出したときは無理やりだったから、挽回させて」
雪山ロケのホテルで俺を強姦しようとした過去を、未だに後悔しているらしい。
「あれはもう気にするなって……わっ!?」
慰めようとしたら、いきなり身体をひっくり返されて、腰を高く持ち上げられてしまった。何をするんだと首を後ろに捻ると、八朔が手にしたボトルの蓋を開けて、トロリとした液体を掌に馴染ませているのが見えた。
あ、ローションだ、と気づいた矢先、尻の狭間に手が伸びてくる。
「うひっ」
後孔にピチャリと濡れた感触がした途端、しゃっくりみたいな声が出た。俺はこのあと始まる行為を予感して、慌てて傍にあった枕を引っ掴み、縋るようにぎゅっと抱き込んだ。
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