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喧嘩 ー美紀 sideー
しおりを挟む「ちょっと!輝!痛いってば!退いてよ!」
「嫌だ!俺、聞いてないんだけど!ちゃんと話してもらうまでは退かないから!」
私は今、輝の部屋のベッドの上で輝に押し倒されている。
腕も押さえられているので身動きも出来ない。
事の発端は今日、学校でのこと。
輝ファンの人を警戒していつも通り時間をずらして家を出てそれぞれ授業を何事もなく受けていた。
しかし、放課後、それは起きた。
輝が一緒に帰ろうと誘ってくれてしばらく悩みながらもそれを承諾。
薫には心配そうな顔をされたけど大丈夫と合図をして輝と一緒に昇降口へ。
下駄箱を開けた瞬間、大量の手紙が入っていた。
その手紙の中にカッターの刃も入っていてそれで指を少し切ってしまう。
思わず悲鳴を上げてしまったせいで外にいた輝がそれに気付いてしまった。
輝は私が止める間もなく一通の手紙を取り開けると手紙を広げる。
そこには輝と別れろなど色々な誹謗中傷が書かれていて輝は無言でグシャッとそれを潰すと他の手紙も拾い集め私が持っていた手紙も奪い取りどこかに行ってしまった。
私はただ茫然と輝を見ていただけで何も言えなくて。
そのまま突っ立っていたら薫が慌てて駆け寄ってきてくれて状況を把握。
大丈夫?と言いながら私の手を手当てしてくれた。
薫と一緒に輝が戻ってくるのを待つ。
しばらくしてようやく輝が戻ってきた。
輝は薫がいることに気付くと睨み付ける。
「……椎名、お前、知ってたのか?」
薫は輝の剣幕に首を縦に振ることしかしなくて。
輝はそれを見て一言そうかと言うと私の腕を掴む。
「帰るよ」
「えっ!?あ、輝!い、痛いっ!」
そのまま輝に引っ張られるように家に帰る。
家に入ってからも輝の力は弱まることはなくてそのまま輝の部屋に突っ込まれ今に至る訳だ。
「だ、だから、大したことないんだって!」
「大したことない……?怪我までして?ねぇ、いつから?」
噂が広まってすぐなんて言える訳がない。
最初の頃は手紙が一、二通入ってる程度で害はなかった。
それがどんどん量が増えて行き、なるべく輝と一緒にいないように心掛けたのだが……
その甲斐も空しく一週間経った今日私は初めて怪我をした。
輝がその初めてに遭遇するとは思ってなくてもちろん知られたら怒るとは思っていたけどここまでとは思わなくて自分の浅はかさに呆れる。
「ねぇ、美紀……お願いだからこういう隠し事止めて。俺、自信なくなる……」
え……?
どういうこと?
そう思った途端、頬に何かが当たる。
それが輝の涙と気付くのにそう時間はかからなくて。
「あ、輝……なんで、泣いて……」
「……俺、頼りにならないの?女の椎名より?アイツ、男勝りな性格してるけど女なんだよ?男の俺より椎名の方が頼りになるの?美紀は俺なんかより別の男と付き合いt」
最後まで言わないうちに思いっきり頭突きをする。
輝は痛みで涙が止まったみたいだが私は痛くて涙が出た。
「っ……いきなり何するっ……!なんで、美紀も泣くんだよ……」
「痛いからに決まってるでしょ!頭も腕も心も全部痛い!馬鹿輝!」
「なっ!?美紀が悪いんだろ!?嫌がらせされてるの隠してたから!椎名には話して俺に話さないとか信用されてないってことだろ!?頼りないって……っ!美紀が怒る権利はないからな!」
「私の話も少しは聞きなさいよ!何も聞きもしないで勝手な想像だけで酷いこと口走らないで!!」
「変なことなんか言ってねぇよ!俺は思ったことをそのまま……っ!」
「私は!輝以外と付き合う気はないもんっ!なのにっ!輝の馬鹿っ!!」
そう言って私は大泣きをする。
本当は顔を隠したいけど両腕が拘束されているので汚い顔だろうが何だろうが開き直って泣いた。
「うわぁぁぁぁんっ!ばかっ!あきのばかっ!ばかぁっ!」
「ちょっ、泣きたいのは俺……もう、本当勘弁しろよ……」
それでもずっとバカバカと言いながら泣き叫ぶ。
小さい子どもみたいにわんわんと。
「っ……五月蝿いっ!泣くなっ!ガキみたいにわんわんとっ!」
輝に怒鳴られてビクッと肩を震わせる。
涙はピタッと止まったが輝が怖くて今度はビービー泣き出した。
「そ、んな、怒鳴んなくても、いいじゃないっ!ふぇぇんっ」
輝は私を解放するといつもと違う冷たい視線で私を見た。
それを見た私は肩をすくめる。
「……もういい。勝手にしろよ。お前なんかもう知らない。俺が戻ってくる前に自分の部屋に行けよ」
そう言い放ち輝は部屋を出て行った。
私は起き上がり輝の出て行ったドアを見つめる。
涙はまだ止まらなくて。
輝に初めて突き放された。
そして気付く。
今までどれだけ輝に甘えていたかを。
小さい喧嘩はしょっちゅうしてたけどいつも輝が先に折れて謝ってきた。
今回もどこかでそうなると思い込んでいて。
私は馬鹿だ。
自分の勝手な言い分ばかり通して輝への答えを言ってなかった。
心配かけさせたくなくて黙っていたのにそれがこんなにも輝を不安にさせるだなんて。
ちゃんと謝らなくちゃ。
今度は私から。
そう思って輝が戻ってくるのをずっと待った。
一時間くらいは経っただろうか。
輝が戻ってくる気配はなくて諦めて戻ろうと思ったとき、輝が戻ってきた。
私を見るなり輝は嫌そうな顔をして。
「……自分の部屋に行けって言っただろ」
「わ、私!ちゃんと輝と話がしたくて!今度はちゃんと輝の話も聞くから!」
必死に輝に懇願する。
でも、輝はそんな私をお構いなしに追い出した。
「お前と話すことはもうない。お前の好きにすればいいだろ。俺も俺の好きなようにするから」
そう言ってドアを閉められる。
「あ、輝!輝!開けてよ!お願い!」
何度呼びかけても輝が答えることはなかった――――
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