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入学式

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 入学式当日。

校長先生の長い話を聞いている。

今朝は大変だった。

制服に着替えて下まで降りてリビングに入ると輝が私を見て硬直。

したと思ったらいつの間にか私の目の前にいて目をキラキラさせながら私の手を握ってきた。



「ミキ、めっちゃくちゃ似合ってるよ!可愛い!」


「あ、ありがとう……でも、手、放して」



あぁ、ごめんとか言ってすぐに手を放してくれたけどすごく興奮してて困ってるとおじさんも参戦してきてさらに困った。

お母さんに宥められてようやく大人しくなった二人に安堵のため息を漏らす。

そして、私もちゃっかり輝の制服姿をガン見。

私の視線に気付いた輝がニッと笑って私に言った。



「どう?見違えたでしょ?あ、もしかしてカッコよくて見惚れちゃった?」


「……バッカじゃないの。制服に着られてる感半端ないわ」


「えー?そうかなぁ?」



私はふいっと輝から顔を反らす。

本当はちょっとカッコいいとか思ったけど輝が調子に乗るから言わないでおく。

そろそろ時間だからと家を出たら家の前でまさか二人で記念撮影。

近所の人に頼んで家族四人で撮って貰ったりして恥ずかしかった。

学校に着いたら着いたでやっぱりまずは輝と二人で記念撮影。

おじさんの気合の入り方が尋常じゃなくて実はもう疲れている。


この後にはまだ教室に行って色々あると言うのに……


輝とは別のクラスになったのがせめてもの救いだ。

入学式が無事終わり、教室に移動する。

指定された席に座ると後ろの席の子が話しかけてくれた。



「ボク、椎名薫しいなかおる!よろしくね!君は?」


「私は相楽美紀って言うの。私のことは好きに呼んでいいよ。よろしくね。椎名さんは女の子、だよね……?」


「薫でいいよー!ボクもみのりんって呼ぶから!ははっ、女の子って!うん、ボクっ娘!ボク、お兄ちゃんが三人もいるせいか一人称がボクに慣れちゃって。変かな?」


「う、ううん!そんなことないよ!」


「ならよかった!みのりん、仲良くしてねー!」


「もちろん!私、薫ちゃんと友達になれて嬉しい」


「あぁ、呼び捨てにして!ちゃん付けされるとなんかむず痒い!」


「何それーふふっ」


「あとね!ボクもみのりんと友達になれて嬉しいよ!」



それから薫と他愛もない話をしていると先生が入ってきた。

順番に軽く自己紹介をして色々な説明を受けてHRが終わる。

薫と一緒に帰ろうと話をしていると私のクラスに輝が来た。



「ミキー!一緒に帰ろー?」


輝の周りには輝のクラスの女子らしい子たちがついてきていた。

挙句、私のクラスの女子も輝を見て騒ぎ出す。

すぐに輝の周りには女の子が集まって名前やらいろいろな質問をしていた。

正直、五月蝿い。

輝の表情は女子に囲まれてて見えないけどどうせ鼻の下伸ばして嬉しそうな顔してるんだろうなと思うと胸が少しモヤモヤして。


この感情は何――――?


薫が知り合い?と聞いてきたので幼馴染と答えるとへぇーと言って立ち上がる。

私もつられて席を立ち気付く。

薫は制服も男物だった。


ブレザーの制服だから全然気付かなかった……


そんなことを思っていたら薫は女の子を掻き分けて輝の前に立つ。

輝はビックリしながら薫を見た。



「え、えっと……何か用?」


「うん、ちょっと。みのりんはボクと帰るから君とは帰れないよって言いに」


「はっ!?」


「それだけー。みのりーん、帰ろー」


「う、うん!」



薫の後に続いて出ると輝に腕を掴まれた。



「ちょっと待った!本当にソイツと帰るの!?」


「え?うん、約束したし……」


「お、俺も一緒に……!」


「ボクは君と一緒に帰りたくないから嫌でーす。ほら、周りにたくさん女の子がいるんだからその子らと帰れば?」


「なっ!?」


「ほら、みのりん、帰ろ」



そう言って薫は私の手を牽く。

私はそのまま輝にじゃあと言って別れた。

昇降口を出ると薫が目の前でパンッと手を合わせる。



「ごめんね!すごく嫌な態度じゃなかった!?みのりん、うんざりした顔してたから嫌なのかなーって思ってついあんな行動を……っ!輝くんも怒ったよね!?」


「え?だ、大丈夫だよー。それより、私のためにありがとう。助かったよ」


「本当!?それならよかったー」


「それより、制服も男物だったんだね。私、立ち上がるまで気付かなかったよ」


「あぁ、ちゃんと女子の制服も持ってるよ。男子の制服着てきたのはこっちのほうが落ち着くから。男装が趣味になってて」


「そうなんだ?男子の制服、似合うけど女子の制服着てるのも見てみたいなー」


「えー?じゃあ、今度気が向いたら着てくるよ」


「うん、楽しみにしてるね」



輝とは別のクラスで初対面のはずの薫が輝の名前を呼んだことに疑問を抱きながらもそのことには触れず笑いながら一緒に帰った。



* * *



 ドタバタと階段を上がってくる音がする。

隣の部屋のドアが開き、荷物を置いた音が聞こえた直後、私の部屋のドアがノックされた。



「ミキ!いるよね!?開けて!」



五月蝿いなと思いつつ、ドアを開ける。



「何?五月蝿いなぁ……」


「あの男、誰!?」


「はぁ?」


「今日、一緒に帰った男だよ!誰!?」


「あぁ、薫のことね。今日出来た友達だけど……」



輝が薫を男と勘違いしてることに指摘しないのは別れ際に輝には女だと言うことを黙っててほしいと頼まれたからだ。



「……薫?下の名前は?」


「下の名前が薫よ。苗字は椎名」


「……じゃあ、下の名前で呼び合ってるってこと?」


「え?薫は私のことみのりんって呼ぶけど……そうね」



輝は分かったとだけ言うと自分の部屋に戻っていった。


何なのよ、もう……


その後、お母さんたちに夕飯が出来たと呼ばれてリビングに降りる。

輝は適当に相槌を打ちながら食事を終えるとすぐに部屋に戻ってしまった。



「輝くん、入学式初日になのに嫌なことでもあったのかしら……?」


「みのりちゃんと一緒のクラスになれなかったのが相当ショックだったんじゃないか?中学までずっと同じクラスだったからな」



確かに言われてみれば輝とクラスが別になったのは初めてだ。


幼稚園、小学校、中学とずっと輝と同じクラスでうんざりだったから別のクラスと知って清々してたのだけど……


輝のいないクラスは少し静かに感じてたかもしれない。

まぁ、静かでいいんだけど。



「美紀。輝くんのこと、よろしくね」


「う、うん」



私は食べ終えた食器を片付けると二階に上がる。

自分の部屋に入ろうとして少し考えた後、輝の部屋のドアをノックした。

輝がドアを開けると少し驚いた顔をしていてすぐに顔を反らされる。



「どうしたの?ミキが俺の部屋来るの初めてじゃない?」


「ん、ちょっと話があって。入っていい?」


「……今、汚いから駄目。ミキの部屋なら喜んで行くよ?」


「じゃあ、廊下ここでいいわ」


「ですよねー」


「それで話って言うのはね?お母さんたちが心配してたよって言おうと思って」


「え?まさかそれだけ?」


「それだけって何よ!お母さんたちに心配かけないでよ!お母さんなんか入学式初日なのに嫌のことあったのかなってずっと心配してたのよ!おじさんは私の同じクラスになれなかったことが相当ショックだったんじゃないかって言ってたし」


「ははっ!何それ?父さん、そんなこと言ってたの?」


「嘘吐いてどうするのよ」


「そうだね」


「それで」


「ん?」


「……何かあるなら話くらい聞いてあげてもいいわよ」


「うわー、すごい上からだねー」


「お母さんたちに心配かけたくないから仕方なく聞いてるんだもの」


「はいはい。わかってますよー」



輝は何かボソボソ言ってるみたいだったけど聞こえなかった。



「もう、早く話してよ!」


「えぇ?勝手だなぁ……んー……確かにミキと同じクラスになれなかったのはショックだったけど会いに行けるのは新鮮でいいかなって思ってたから父さんの予想は外れだねー」


「じゃあ、何か嫌なことでもあったの?」


「別に。ないよ。ちょっと女の子たちにちやほやされてはしゃぎ過ぎちゃっただけ」


「何よそれ!自業自得じゃない!」


「うん。だから、気にしなくていいって。麻美さんたちには俺から言っておくから。お風呂沸いてる?先に入りたいんだけど……」


「駄目!私が先に入るから!」


「……そう。じゃあ、上がったら教えて。話はそれだけだよね?俺、アドレス整理で忙しいから戻るよ」


「勝手にすれば!バカ輝!」



いつもなら


ミキより頭悪いけど馬鹿じゃないよ


って返してくるのに何も言わず輝は部屋に戻った。

私も部屋に戻る。



何よ、何よ!

何年幼馴染やってると思ってるの!?

嘘吐いてるのバレバレなのよ!

アドレス整理で忙しいのは本当っぽいけど!

嫌なことあったなら私にくらい話してくれてもいいじゃない!

私じゃ頼りにならないってこと!?

もう腹が立つ!



お母さんがお風呂空いたと教えてくれたのでお風呂に入る。

お風呂ってリラックス出来る場所のはずなのに輝のことでイライラして全然リラックス出来なかった。

お風呂を上がってからもイライラしていたから輝に空いたと言うのを忘れてその日は寝たのだった――――



* * *


ー輝 sideー


 ……ミキの奴、空いたって教えてくれなかったから父さんに先に入られちゃったじゃないか


結局最後かよ……



そんなことを思いながら湯船に浸かる。


麻美さんと父さんには夕飯のときはごめんと謝っといたけど理由を聞かれてミキとクラス違ったのがショックでと嘘を吐いてしまった。

二人の顔が一瞬悲しそうに歪んだのを見て心が痛い。


麻美さんにまで気付かれるとは思ってなかったから変な勘違いをしてないか心配だ……


父さんと麻美さんの再婚は正直、認めたくなかった。

俺はミキが好きだからミキをお嫁にもらって家族になろうと勝手に計画してたのもあって悩んだ。

麻美さんが義母さんになってくれるのは嬉しいしいつかそう呼ぶ日が来ると思ってたし反対するのは気が引けて。

でも、ミキが俺のことを嫌いなのは気付いてたから兄妹と言う形であれミキと家族になれて一緒に暮らせるならと承諾した。

もちろん、そんな心の内は言っていないけど。

心のどこかでミキは反対してくれると思ったから承諾したのかもしれない。

だから、ミキが賛成したと聞いて本当に驚いた。


ミキと兄妹になる


そう思ったら嫌で。

ちゃんと恋人になりたくて。

中学まではミキに妬いてほしくて色んな女の子と仲良くしてたけど、それが原因でミキが迷惑してると知ってその子たちとの縁を切った。


高校に入ったらミキだけを大事にしようと決めてたのに……

初めてミキとクラスが別れて……


それでも、ミキの教室に会いに行くの新鮮でいいじゃんと自分に言い聞かせた。

HRが終わって早速実行しようしたら女子には囲まれたけど何とか抜け出してミキの教室に行ったのにまた女子に囲まれて困って。


ミキはなんか男と仲良くなってた挙句その男に嫌味言われ……

女子を巻いて何とか家に帰ってミキに男のこと聞いたらもう下の名前で呼び合ってるし……

これでどうして落ち込まずにいられよう……

当の本人はそれに気付きもせず、無遠慮に何があったか聞いてくるし……



まぁ、家族になったんだから当然だけど。

ミキに他の男と関わらないでとか女々しくて言いたくないしそもそも俺には関係ないとか言われたら立ち直れる気がしなかったから適当に言い訳して話を終わらせてしまった。


また嫌われたかな……


なんて思いながらも女々しい自分と別れる為に頬を叩いてお風呂から上がる。

自分の部屋に戻って即ベッドの上に寝転がった。

もうウジウジ気にするのは止める。

心配はかけない。

そう心に誓って寝た――――
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