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問題児様、人間界へ③
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放課後になって呼び出された通り校舎裏に行く。
でも、そこには誰もいなくて早く来ちゃったのかななんて思ってしばらく待っていたのが間違えだった。
男が来たと思ったら複数人でしかもその後ろには葵ちゃんもいて。
え?
どういうこと?
なんで葵ちゃんがいるの?
「お、結構可愛いじゃん!」
「確かに!」
「おいおい、葵、マジでいいのかよ?」
「いいわよ。少し痛い目遭わせてやって」
言っている意味が理解出来ない。
「あ、葵ちゃん……?これ、どういうこと?」
「気安く話しかけないでくれる?私、アンタのこと、大嫌いなの」
え?
何?
なんて言ったの?
私のことが嫌い?
じゃあ、今まで演技していたってこと?
私、何かした?
「あーあ、葵、コイツ泣いてるけど」
「知らないわよ。男に媚びなんか振りまいて……この学校でモテるのは私だけでいいの。この女でせいでこの私がフラれたのよ?許させるわけないでしょう?」
「へいへい。女って言うのは怖いねぇ……ってことだから覚悟してくれよ?」
嫌だ、どうしよう。
正直、魔法使えばこんなのどうってことないんだけど……
人前で使うの禁止だし……
あぁ、もう、数分前の自分を殴りたい!
葵ちゃんってめんどくさいタイプだったんだなぁ……
そう言えば桜の名前も知っていたし違和感もあったっけ……
あ、もしかして、私、明日からまた独りぼっちなのかなぁ……
まぁ、そうなってももういいか。
勉強にもついていけるようになったし優等生としてやっていけばいいんだし。
そんなことを考えていたらいつの間にか腕を掴まれていた。
男はなんかニヤニヤしているし正直気持ち悪い。
あぁ、なんか腹立ってきた。
痛い目を見せる?
何それ?
誰に向かって言っているの?
私は魔法使いなのよ?
そんなことを思っていたら魔力封じのブレスレットが少し光り始めて。
私の足元には風が集まっていた。
あぁ、今なら風魔法でこの人たちぶっ飛ばせるのかな……
ただの強風として使えば問題ないはず。
大丈夫、バレない。
そう思い魔法を使おうとした瞬間、目の前が真っ暗になって。
耳元で桜の声がした。
「杏、駄目だよ」
その声で振りかざそうとしていた手を止めた。
掴まれていたはずの腕はいつの間にか解放されていて。
桜が私を後ろから抱きしめての目を塞いでいるのがわかった。
私とアイツらの間に誰かがいる気配がして。
すぐに楓が間に入っているんだと気付いた。
「おいおい。桜にフラれた腹いせにこんな男複数人も使って杏に八つ当たりって相当根性ひん曲がってんな?向日」
「な、なんで藤くんたちがいるのよ!一人で来いって言ったのに!」
「……杏は何も言ってないよ。ただ、アンタの行動が怪しすぎて気を付けてただけ。ロクなことにならないだろうなとは思ったけどここまでとはね……呆れすぎて軽蔑するよ」
「なっ!?あ、アンタが悪いのよ!この私をフッたりなんかするから!」
桜はその言葉を無視して私に話しかける。
「杏。落ち着いた?」
「うん、ごめん……ありがとう」
「そう。じゃあ、しばらく自分で目と耳塞いでて」
そう言うと桜は私を自分の背中に隠す。
私は言われた通り目を閉じて耳を塞いだ。
「止めるなら今だぜ?俺たち、相当つえーから。怪我しねぇうちに帰れよ」
「調子に乗んじゃねぇよ!転入生がっ!」
「はぁ……喧嘩は好きじゃないんだけどな。楓」
「はいよ。お互いに手加減はなしな」
その言葉を最後に二人の声は聞こえなくなって代わりに相手の人の呻き声だけが聞こえた。
そのすぐ後に走り去る音が聞こえて終わったことを悟る。
恐る恐る目を開けて耳から手を放すとそこには桜と楓以外誰もいなくて。
口を開こうとした瞬間、桜が振り向いて私にデコピンをしてきた。
「いった!」
「馬鹿じゃないの?何で怪しいと思わなかったの?少しは危機感を持てよ。一週間以上も友達なのに名字のさん付けっておかしいとか怪しいとか思わなかったのか?」
「お、おい、桜。杏がそんなの気付くはずねぇだろ……信用してたんだからよ……」
「違和感の一つもなかったって言うのかよ?もしそうなら呆れて何も言えないな。後一歩遅かったら魔法を使うところだった。もし魔法なんか使って大怪我させたら杏だけじゃない俺たちも強制送還だ。二度と人間界には来れない。それに……」
桜の口調が変わったことにも驚いたけれど何より驚いたのは桜が心配そうに、まるで大切なものを見るかのような視線で私を見ていたことだった。
「……ごめんなさい。私、後先考えずに魔法使おうとしていた。そうだよね。私だけじゃなくてみんなにも迷惑かけちゃうところだったよね。私、しばらく学校休むよ。頭冷やす」
泣きそうになったのをグッと堪えて笑う。
「助けてくれてありがとう。二人共。カッコよかったよ。ちょっと職員室に寄ってくるね。先帰っていていいから」
そう言って二人から離れて職員室に向かう。
「……桜。ちょっと言い過ぎじゃねぇか……?」
「……わかってるよ。こんなの八つ当たりだ。もし、今日渡せてなかったら絶対間に合わなかった。俺が原因なのもわかってたのに守れなかったらどうするつもりだったんだって自分に腹立てて……杏に怒鳴るなんて本当カッコ悪い……カッコよくなんかない。ほとんど楓がやっつけてたし……俺のいいところって何もないんじゃないか?」
「……いや、まぁ、こういうのは桜より俺の方が適してるって言うか。いや、でも、俺が強いだけで桜が弱いわけじゃねぇぞ!?桜も十分強いから!」
「……あぁ、そうだな。俺は楓より貧弱だよ。ヒョロヒョロだよ。俺だって魔法使ってぶっ飛ばしたかったよ。俺、風魔法得意だし。バレずに出来る自信あるし。杏よりは確実にやれるし。魔法なら楓にも負けないし。つーか、魔法なくちゃ何も出来ねぇじゃん。あっちでは優秀だけどこっちでは凡人ってことじゃね?あぁ、そうだ!どうせ俺は凡人だよ!」
「さ、桜!落ち着けって!キャラ崩壊してんぞ!とりあえず、俺はもう帰るから!桜は杏に謝れ!それで一緒に帰って来いって!な?」
「……わかった」
「それと、お前、一人称戻ってるからな?早く我に返れよ?」
「……返ってるよ。いるの楓だけだし今更僕とかなんか気色悪い」
「……言わないでおいてやったのに自分で言うか。俺の今までの苦労返せよ」
「知るか。杏のところ行ってくる」
「へいへい。まぁ、俺は仮にアレがなくても桜なら気が付いたと思うけどな」
「……サンキュ。今までで一番出来のいいフォローだな。じゃあ、家で」
「……もう何も言わねぇ」
私が担任の先生と話し終わり職員室を出ると桜が待っていた。
「桜?なんで?先帰っていていいって言ったよね……?」
「……ちょっと言い過ぎたって言うか僕の八つ当たりだったから。ごめん」
「……もう怒ってないの?」
「うん。杏は魔法を手加減なく使おうとした以外悪くないよ」
「……嘘吐き。やっぱりまだ怒っているじゃない」
「そこは怒るよ。杏は女の子なんだから大きな声で悲鳴でも助けでも呼べばいいのに。なんで戦おうとするかなぁ?」
「……だって、悔しかったし。気持ち悪かったし。やられっぱなしは私のプライドが許さないって言うか」
「はいはい。わかったよ。今回は僕のせいでもあるし。たぶん楓が楠先生に報告するよ。とりあえず、帰ろう」
「……うん」
そう言って二人で歩き出す。
桃ちゃんに怒られるだろうなぁ……
「杏」
「え?何?」
「……学校休むの?」
「あぁ、そのつもりだったんだけど……担任の先生にちゃんと来なさいって言われちゃった」
「そう……あのさ」
「何?」
「……僕も杏に休んでほしくない。寂しい、し……つまんないから」
それを聞いた私は思わず笑ってしまった。
「な、何?笑うところなんかあった?」
「ご、ごめん、そうじゃなくて……」
私はなんとか笑うのを止めて口を開く。
「桜がそんなこと言うなんて思わなくて……ありがとう、私、頑張れそうだよ」
「……ちょっと失礼だと思うけど。まぁ、気にしないでおくよ」
そう言うと先を歩いていた桜が私のペースに合わせてくれて並んで歩いた。
私はふと気になったことを聞いた。
「ねぇ、桜。そう言えばさっき俺って言ってなかった?」
「……気のせいじゃない?」
「嘘!私、ちゃんと聞いたもん!」
「……元は一人称俺だったの。それだけ」
「え?なんで変えたの?」
「……どこぞの誰かさんがいつも本読んでてあんまり喋らなかったからか藤くんって絶対一人称僕だよね!って言ったからだよ」
「え?」
なんかそんなこと言った記憶があるようなないような……
「ま、まさか私じゃないよね……?」
私がそう聞いたら桜は何も喋らなくて私が言ったんだとわかった。
「で、でも、なんで私にそう言われたからって変えたの?別に変えなくてもよかったと思うけど……」
「……楓と区別つけるのにちょうどいいと思ったからだよ。幸い僕の一人称が俺だって知ってたのは楓だけだったし」
「そうなんだ……あ、後なんで私が校舎裏にいるってわかったの?」
「今朝渡したネックレス、僕の魔力を少し与えて作ったから杏に何かあったらどこにいるかすぐわかるようにしておいた。ちょうど楓といたから一緒に連れてきた。しばらく様子を見るつもりで行ったら杏は魔法使おうとしてたから慌てて飛び込んだわけだけど」
「……うん、それはごめんなさい。でも、このネックレスそんな風に作られていたんだねぇ」
でも、待って?
なんでそんな風に作る必要があったの?
今回の一回だけなら別に要らないよね?
どうして?
「ねぇ、桜?どうしてそんな風に作る必要があったの?」
「……杏って鈍いよね……いや、俺も俺か……」
「え?どういうこと?」
「んー……まだ、内緒」
「そんなこと言わずに教えてよ!って言うか、もう一人称戻してもいんじゃない?桜が僕って言おうが俺って言おうが桜は桜なんだし」
「……じゃあ、杏の前では俺って言うよ」
「うん!で、教えてくれないの?」
「杏。たまには自分で考えるのも大切だよ」
そう言って桜は作った理由を教えてくれなかった。
家に帰って久し振りに菫と一緒に夕飯を作った。
「……でね、桜が全然教えてくれなくて。菫はわかる?」
「うーん……桜くんが作ったならいつも通りキザな意味があるんじゃないかな?グリーンアメジストって人間関係でのトラブルを円満解決に導く石とか言われてるよね。他にも意味があるんじゃない?後、四つ葉のクローバーって幸運って言う花言葉があるよ」
「そっかぁ~……ちょっと調べてみようかな……」
「調べなくていいから!菫も余計なこと言わないでよ」
「わぁっ!?桜!?いつの間に!?」
「ふふっ、桜くんたちは報われませんねぇ」
「楓が五月蝿いから様子見に来た。菫、余計なこと言わないでってば」
「あぁ、ごめん。もう出来るよ。ところでなんで桜たちが報われないの?」
「ふふっ、なんでだろうね?ほら、桜くん、飲み物持っていって」
「えぇ~!?みんなして私に隠し事!?」
「そんなことないよー」
それっきりやっぱり私が何を聞いてもみんなは教えてくれなかった。
自分の部屋に戻って明日のことを考えたら少し憂鬱になる。
きっと、クラスメイトは誰一人として話しかけてくれないんだろうな……
全部、葵ちゃんが仕向けたことだもんね……
また、私だけ置いてきぼりかぁ……
そんなことを思いながら寝た――――
でも、そこには誰もいなくて早く来ちゃったのかななんて思ってしばらく待っていたのが間違えだった。
男が来たと思ったら複数人でしかもその後ろには葵ちゃんもいて。
え?
どういうこと?
なんで葵ちゃんがいるの?
「お、結構可愛いじゃん!」
「確かに!」
「おいおい、葵、マジでいいのかよ?」
「いいわよ。少し痛い目遭わせてやって」
言っている意味が理解出来ない。
「あ、葵ちゃん……?これ、どういうこと?」
「気安く話しかけないでくれる?私、アンタのこと、大嫌いなの」
え?
何?
なんて言ったの?
私のことが嫌い?
じゃあ、今まで演技していたってこと?
私、何かした?
「あーあ、葵、コイツ泣いてるけど」
「知らないわよ。男に媚びなんか振りまいて……この学校でモテるのは私だけでいいの。この女でせいでこの私がフラれたのよ?許させるわけないでしょう?」
「へいへい。女って言うのは怖いねぇ……ってことだから覚悟してくれよ?」
嫌だ、どうしよう。
正直、魔法使えばこんなのどうってことないんだけど……
人前で使うの禁止だし……
あぁ、もう、数分前の自分を殴りたい!
葵ちゃんってめんどくさいタイプだったんだなぁ……
そう言えば桜の名前も知っていたし違和感もあったっけ……
あ、もしかして、私、明日からまた独りぼっちなのかなぁ……
まぁ、そうなってももういいか。
勉強にもついていけるようになったし優等生としてやっていけばいいんだし。
そんなことを考えていたらいつの間にか腕を掴まれていた。
男はなんかニヤニヤしているし正直気持ち悪い。
あぁ、なんか腹立ってきた。
痛い目を見せる?
何それ?
誰に向かって言っているの?
私は魔法使いなのよ?
そんなことを思っていたら魔力封じのブレスレットが少し光り始めて。
私の足元には風が集まっていた。
あぁ、今なら風魔法でこの人たちぶっ飛ばせるのかな……
ただの強風として使えば問題ないはず。
大丈夫、バレない。
そう思い魔法を使おうとした瞬間、目の前が真っ暗になって。
耳元で桜の声がした。
「杏、駄目だよ」
その声で振りかざそうとしていた手を止めた。
掴まれていたはずの腕はいつの間にか解放されていて。
桜が私を後ろから抱きしめての目を塞いでいるのがわかった。
私とアイツらの間に誰かがいる気配がして。
すぐに楓が間に入っているんだと気付いた。
「おいおい。桜にフラれた腹いせにこんな男複数人も使って杏に八つ当たりって相当根性ひん曲がってんな?向日」
「な、なんで藤くんたちがいるのよ!一人で来いって言ったのに!」
「……杏は何も言ってないよ。ただ、アンタの行動が怪しすぎて気を付けてただけ。ロクなことにならないだろうなとは思ったけどここまでとはね……呆れすぎて軽蔑するよ」
「なっ!?あ、アンタが悪いのよ!この私をフッたりなんかするから!」
桜はその言葉を無視して私に話しかける。
「杏。落ち着いた?」
「うん、ごめん……ありがとう」
「そう。じゃあ、しばらく自分で目と耳塞いでて」
そう言うと桜は私を自分の背中に隠す。
私は言われた通り目を閉じて耳を塞いだ。
「止めるなら今だぜ?俺たち、相当つえーから。怪我しねぇうちに帰れよ」
「調子に乗んじゃねぇよ!転入生がっ!」
「はぁ……喧嘩は好きじゃないんだけどな。楓」
「はいよ。お互いに手加減はなしな」
その言葉を最後に二人の声は聞こえなくなって代わりに相手の人の呻き声だけが聞こえた。
そのすぐ後に走り去る音が聞こえて終わったことを悟る。
恐る恐る目を開けて耳から手を放すとそこには桜と楓以外誰もいなくて。
口を開こうとした瞬間、桜が振り向いて私にデコピンをしてきた。
「いった!」
「馬鹿じゃないの?何で怪しいと思わなかったの?少しは危機感を持てよ。一週間以上も友達なのに名字のさん付けっておかしいとか怪しいとか思わなかったのか?」
「お、おい、桜。杏がそんなの気付くはずねぇだろ……信用してたんだからよ……」
「違和感の一つもなかったって言うのかよ?もしそうなら呆れて何も言えないな。後一歩遅かったら魔法を使うところだった。もし魔法なんか使って大怪我させたら杏だけじゃない俺たちも強制送還だ。二度と人間界には来れない。それに……」
桜の口調が変わったことにも驚いたけれど何より驚いたのは桜が心配そうに、まるで大切なものを見るかのような視線で私を見ていたことだった。
「……ごめんなさい。私、後先考えずに魔法使おうとしていた。そうだよね。私だけじゃなくてみんなにも迷惑かけちゃうところだったよね。私、しばらく学校休むよ。頭冷やす」
泣きそうになったのをグッと堪えて笑う。
「助けてくれてありがとう。二人共。カッコよかったよ。ちょっと職員室に寄ってくるね。先帰っていていいから」
そう言って二人から離れて職員室に向かう。
「……桜。ちょっと言い過ぎじゃねぇか……?」
「……わかってるよ。こんなの八つ当たりだ。もし、今日渡せてなかったら絶対間に合わなかった。俺が原因なのもわかってたのに守れなかったらどうするつもりだったんだって自分に腹立てて……杏に怒鳴るなんて本当カッコ悪い……カッコよくなんかない。ほとんど楓がやっつけてたし……俺のいいところって何もないんじゃないか?」
「……いや、まぁ、こういうのは桜より俺の方が適してるって言うか。いや、でも、俺が強いだけで桜が弱いわけじゃねぇぞ!?桜も十分強いから!」
「……あぁ、そうだな。俺は楓より貧弱だよ。ヒョロヒョロだよ。俺だって魔法使ってぶっ飛ばしたかったよ。俺、風魔法得意だし。バレずに出来る自信あるし。杏よりは確実にやれるし。魔法なら楓にも負けないし。つーか、魔法なくちゃ何も出来ねぇじゃん。あっちでは優秀だけどこっちでは凡人ってことじゃね?あぁ、そうだ!どうせ俺は凡人だよ!」
「さ、桜!落ち着けって!キャラ崩壊してんぞ!とりあえず、俺はもう帰るから!桜は杏に謝れ!それで一緒に帰って来いって!な?」
「……わかった」
「それと、お前、一人称戻ってるからな?早く我に返れよ?」
「……返ってるよ。いるの楓だけだし今更僕とかなんか気色悪い」
「……言わないでおいてやったのに自分で言うか。俺の今までの苦労返せよ」
「知るか。杏のところ行ってくる」
「へいへい。まぁ、俺は仮にアレがなくても桜なら気が付いたと思うけどな」
「……サンキュ。今までで一番出来のいいフォローだな。じゃあ、家で」
「……もう何も言わねぇ」
私が担任の先生と話し終わり職員室を出ると桜が待っていた。
「桜?なんで?先帰っていていいって言ったよね……?」
「……ちょっと言い過ぎたって言うか僕の八つ当たりだったから。ごめん」
「……もう怒ってないの?」
「うん。杏は魔法を手加減なく使おうとした以外悪くないよ」
「……嘘吐き。やっぱりまだ怒っているじゃない」
「そこは怒るよ。杏は女の子なんだから大きな声で悲鳴でも助けでも呼べばいいのに。なんで戦おうとするかなぁ?」
「……だって、悔しかったし。気持ち悪かったし。やられっぱなしは私のプライドが許さないって言うか」
「はいはい。わかったよ。今回は僕のせいでもあるし。たぶん楓が楠先生に報告するよ。とりあえず、帰ろう」
「……うん」
そう言って二人で歩き出す。
桃ちゃんに怒られるだろうなぁ……
「杏」
「え?何?」
「……学校休むの?」
「あぁ、そのつもりだったんだけど……担任の先生にちゃんと来なさいって言われちゃった」
「そう……あのさ」
「何?」
「……僕も杏に休んでほしくない。寂しい、し……つまんないから」
それを聞いた私は思わず笑ってしまった。
「な、何?笑うところなんかあった?」
「ご、ごめん、そうじゃなくて……」
私はなんとか笑うのを止めて口を開く。
「桜がそんなこと言うなんて思わなくて……ありがとう、私、頑張れそうだよ」
「……ちょっと失礼だと思うけど。まぁ、気にしないでおくよ」
そう言うと先を歩いていた桜が私のペースに合わせてくれて並んで歩いた。
私はふと気になったことを聞いた。
「ねぇ、桜。そう言えばさっき俺って言ってなかった?」
「……気のせいじゃない?」
「嘘!私、ちゃんと聞いたもん!」
「……元は一人称俺だったの。それだけ」
「え?なんで変えたの?」
「……どこぞの誰かさんがいつも本読んでてあんまり喋らなかったからか藤くんって絶対一人称僕だよね!って言ったからだよ」
「え?」
なんかそんなこと言った記憶があるようなないような……
「ま、まさか私じゃないよね……?」
私がそう聞いたら桜は何も喋らなくて私が言ったんだとわかった。
「で、でも、なんで私にそう言われたからって変えたの?別に変えなくてもよかったと思うけど……」
「……楓と区別つけるのにちょうどいいと思ったからだよ。幸い僕の一人称が俺だって知ってたのは楓だけだったし」
「そうなんだ……あ、後なんで私が校舎裏にいるってわかったの?」
「今朝渡したネックレス、僕の魔力を少し与えて作ったから杏に何かあったらどこにいるかすぐわかるようにしておいた。ちょうど楓といたから一緒に連れてきた。しばらく様子を見るつもりで行ったら杏は魔法使おうとしてたから慌てて飛び込んだわけだけど」
「……うん、それはごめんなさい。でも、このネックレスそんな風に作られていたんだねぇ」
でも、待って?
なんでそんな風に作る必要があったの?
今回の一回だけなら別に要らないよね?
どうして?
「ねぇ、桜?どうしてそんな風に作る必要があったの?」
「……杏って鈍いよね……いや、俺も俺か……」
「え?どういうこと?」
「んー……まだ、内緒」
「そんなこと言わずに教えてよ!って言うか、もう一人称戻してもいんじゃない?桜が僕って言おうが俺って言おうが桜は桜なんだし」
「……じゃあ、杏の前では俺って言うよ」
「うん!で、教えてくれないの?」
「杏。たまには自分で考えるのも大切だよ」
そう言って桜は作った理由を教えてくれなかった。
家に帰って久し振りに菫と一緒に夕飯を作った。
「……でね、桜が全然教えてくれなくて。菫はわかる?」
「うーん……桜くんが作ったならいつも通りキザな意味があるんじゃないかな?グリーンアメジストって人間関係でのトラブルを円満解決に導く石とか言われてるよね。他にも意味があるんじゃない?後、四つ葉のクローバーって幸運って言う花言葉があるよ」
「そっかぁ~……ちょっと調べてみようかな……」
「調べなくていいから!菫も余計なこと言わないでよ」
「わぁっ!?桜!?いつの間に!?」
「ふふっ、桜くんたちは報われませんねぇ」
「楓が五月蝿いから様子見に来た。菫、余計なこと言わないでってば」
「あぁ、ごめん。もう出来るよ。ところでなんで桜たちが報われないの?」
「ふふっ、なんでだろうね?ほら、桜くん、飲み物持っていって」
「えぇ~!?みんなして私に隠し事!?」
「そんなことないよー」
それっきりやっぱり私が何を聞いてもみんなは教えてくれなかった。
自分の部屋に戻って明日のことを考えたら少し憂鬱になる。
きっと、クラスメイトは誰一人として話しかけてくれないんだろうな……
全部、葵ちゃんが仕向けたことだもんね……
また、私だけ置いてきぼりかぁ……
そんなことを思いながら寝た――――
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