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第一章 召喚、とやらをされたらしくて

案内

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 二人の間に沈黙が流れる。

先に沈黙を破ったのはエアロだった。


「……なんかごめん。カナってたまに人の話を聞かないことがあるから……本人に悪気はないのよ?むしろ、真剣って言うか……少し空回るのよ」



少し?

あれが?



あんな奴の傍にずっといるんだと考えるとエアロと他の精霊が少し哀れに思えてきた。


「……いや、何て言うか……苦労してんだな、お前ら」


「……否定はしないわ。じゃあ、カナに言われた通りに案内してあげる。質問があったら言いなさい。答えられる範囲は答えてあげる」


「……おう、頼むわ」



否定しないのか……



と内心思いながらエアロの後についていく。

基本的な魔法を使えるようになるまでは半径三メートル以内から出ないようにと言われた。

理由は魔族に狙われかねないからだそうで。

この中にさえいれば奴のかけた魔法で魔族は入れないようになっているらしい。

けれど、家の周りは木ばっかりで森の中の家と言う印象しか持てなかった。



閉じ籠っていると言うか……

閉じ込められていると言うか……



俺がそう言うとエアロは苦笑いをしながら答える。


「んー……まぁ、アタシたち精霊を使役する魔法使いって案外少ないのよ。だから、カナは嫌われてると言うか……妬まれてると言うか……アタシたちのためでもあるの。変な奴らに狙われない様にって。アタシたちもそう易々と外に出れる訳じゃないのよ。カナがいないときは常に気を張ってなければ簡単に捕まっちゃう。捕まったら最後、何をされるか分からないわ。アタシたち精霊にとっては他種族も魔族も大差ないのよ」


だから、カナは特別!と笑顔で話すエアロは本当に奴のことを信頼してるんだなと思った。


「……何でアイツに使役されようと思ったんだ?当然、精霊だけしかいない場所があるんだろ?」


「あるわよ。確かにあそこは平和ね。精霊にとっては。でも、アタシたち余所者だから、昔からお世話になってるカナのところに行ったのよ。それにアタシたちは使役されてるとは思ってないしカナも使役してるとは思ってないわ。カナはアタシたちにとって大事な人なの」


エアロがそう言うとクスクス笑い声が聞こえてきた。

周りをキョロキョロ見回すと今度はエアロと同じサイズの茶色い短髪が姿を見せる。


「エアロが珍しくデレたね。いつもならカナの悪口しか言わないのに」


「アース!余計なことは言わなくて良いのよ!それより、他の二人は一緒じゃないの?」


アースと呼ばれた精霊はにっこり笑って返す。


「他の二人ならカナがエアロに案内を頼んだ瞬間に飛び出していったよ。カナについていった訳じゃないからそのうち戻ってくるんじゃないかな」


「そう。アースは何をやってたのよ?」


「特に何も。強いて言うなら散歩かな。でも、もう部屋に戻るよ。二人にも教えてあげなくちゃね。エアロがデレたって」


「だ、だから余計なことは言わなくて良いのよ!」


「はいはい。それじゃあ、引き続き案内頑張って」


分かってるわよ!と言うエアロに再度笑いかけながら茶色い精霊は俺に話しかけてきた。


「自己紹介はカナがまとめてやるだろうからそのときに。また会おう、シンヤ」


そう言ってパッと目の前から消えた。



何で俺の名前……と思ったが隠れながらも俺たちの話を聞いてたのか……



引き続きエアロに案内されながら家の中に戻る。

最初にエアロたちの部屋を見せてもらう。

と言ってもドールハウスだったのだが。

部屋に戻ると言っていたアースはいなくて疑問に思っているとエアロにアースは神出鬼没なのと説明された。

次に奴の部屋を見せてもらうと結構広い。

少し感動しながら俺の部屋もあったりするのか?と聞いたら即答で案内するわと言われて部屋まで案内される。

部屋に入るとやっぱり広くて思わずテンションが上がった。


「すげぇな!広い!ベッドとか机とか家具も揃ってるし!」


「そりゃそうよ。今日のためにカナがわざわざ家を作り直したんだから。広い部屋ならきっと気に入ってくれるよね!とか言いながらそりゃもう楽しそうに」


俺が来ることを分かってたような口振りに違和感を覚える。



さっきは気紛れで召喚したら俺が来たと言ってなかったか?



疑問に思ったが口には出さず素直に感想を口にした。


「マジかよ!住むかどうかも分からないのに?」


エアロは俺の言葉に少し驚いたみたいだったがすぐに元の表情に戻って口を開く。


「そうね。でも、カナには自信があったのよ。ここに住むって」


何で……と聞こうとしたらいきなり今度はエアロと同じサイズで長い髪の水色がパッと目の前に現れた。


「初めまして。喉は乾いていませんか?お水を持ってきました」


そう言って水を渡してくる。


「あ、ありがとう」


「いえ、どういたしまして。こっちはエアロの分です」


「ありがとう、セレン。気が利くわね」


「エアロ、喋り過ぎるのはよくありません。私たちにもあるようにカナにだって知られたくないこと、知らせたくないことがあるんですから」


「え?あ、うん……気を付けるわ」


「そうして下さい。私は部屋に戻ります。自己紹介はカナが帰ったときにでも。また会いましょう」


セレンと呼ばれた精霊はそれだけ言うと現れたときと同じようにパッと姿を消した。

しばらく呆然としているとエアロが次に行きましょうと案内を再開する。

トイレやらお風呂の場所を教えてもらいながらふとした疑問をぶつけた。


「なぁ、お前とさっきの精霊って仲悪いのか?」


「セレンのこと?悪くないわ。仲良しよ。アタシは喋り過ぎることが多いから釘を刺してくれただけ」


「そうか……ならいいんだ。案内を続けてくれ」


「次はキッチンよ。基本的に食事はカナかファインが作ってくれるけどもしお腹が空いたらここにある物を使って食べれば良いわ」


聞き覚えない名前が出たと同時にドアを開けるといきなりエアロと同じサイズの今度の色は赤いツンツン頭をした奴が怒鳴り付けてきた。


「馬鹿野郎!エアロ!ここのもんは俺が管理してるんだ!勝手に使われちゃ困る!どうしても腹が減ったら俺に言え!作ってやるから!分かったな!シンヤ!」


「え?あ、あぁ……」



コイツがさっきエアロの口からチラッと出たファインか……

怒鳴り声に驚いてつい返事をしたが要は勝手に食べ物に触るなと……

怒鳴らずとも普通に言ってくれればいいものを……



なんて思っていたらドタバタと足音が聞こえる。

足音はキッチンの前で止まりに振り向くと奴が慌てた様子で帰ってきた。


「今の怒鳴り声は何!?エアロちゃん!またファインくんと喧嘩でもしたの!?」


「あ。カナ、お帰り。喧嘩じゃないわ。ファインが一方的に怒鳴ってきたの」


「はぁっ!?一方的じゃない!エアロが適当なこと言うから怒ったんだよ!」


「あぁ、もうっ!喧嘩しないの!シンヤが困っているでしょ!エアロちゃん、案内はここで最後?」


「そうよ」


「なら、シンヤ、リビングに戻っておいで。これから先、どうするは決まった?」


「あぁ。お前の言う通りにする以外元の世界に戻る方法はなさそうだからな。他の手っ取り早い方法が見つかるまでここで暮らしてやるよ」


「うわっ!偉そうな奴だな!」


「ファインみたいね」


「こらこら!二人とも、変なこと言わないの!良かった、これからよろしくね、シンヤ」


そう言ってにっこり笑って手を差し出してきた奴の手を握り返す。

この選択が正しいのか間違ってるのかは分からないけど俺はこの不思議な世界に一歩足を踏み出した――――
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