School’s Counselors Club

第30話：1年3組 初風 絆（1）

生きていく中で、人間は大小様々な功績を残す。

テストで100点を取った事、描いた絵が住んでいる都道府県のコンクールで大賞を受賞した事、請け負ったプロジェクトが会社の発展に役立ち、社長から表彰を受けた事、etc.

これらは自分の年代によって差はあるものの、確かに、自分が生きた証として世界の何処かに刻まれる。

かく言う僕も、幼少の頃より学校生活や習い事で2、3個程度の功績を残し、その度に親や先生から賞賛されて喜んでいたものだ。

そして、時にその功績は、それが世に出た瞬間を目の当たりにした人の記憶に焼き付き、その者がこれからの人生を歩んでいく中で、決して忘れることのできない思い出や志こころざしへと姿を変える。

しかし、他の人にとっては大切な思い出としていつまでも残り続けるその証は、場合によって、当の本人にとっては拭い去りたい苦々しい記憶の残渣ざんさに醜く歪んでしまうことも有り得る。

例えるなら、前述した絵のコンクールで大賞をさらった人物が、その数年後、不慮の事故で腕の自由が利かなくなってしまい志していた画家への道が潰えてしまったら、その者はどうにもならない不運によって、幼少の頃に抱いていた夢を挫折した事実から目を背けたくて、コンクールでの功績を必死に頭から取り払おうとする。

あまりにも酷な話だが、人間と言う生き物はそうする事で前を向き、新たな人生を歩もうとする未完成で歪いびつな存在なのだ。

だが、その後になって、コンクールの絵に感銘を受けた者がひょんなことで、絵を描いた元画家志望の人物とばったり会い、それがきっかけとなって自分が今、画家を目指していると言ったその瞬間、その者は今まで封印していた残酷な記憶と再び向き合わなければならない。

自分の功績が、自分の知り得ないところで誰かの思い出や希望、そして志となることは誇らしいものである。

しかし、それが苦々しい記憶を思い出す着火剤と成り果てた最中、「あなたのおかげで・・・」という言葉を掛けられた時、果たして自分はどのいった返事を返して、どのような贈り物をすればいいのだろうか。

少女、初風はつかぜ　絆つなぎは死した後で自分にとって大切な思い出と再び会いたいと願っていた。

僕は彼女の想いに応えることができたが、果たしてそれは、彼女にとっての真の幸福だったのだろうか・・・