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第21話:3年1組 心堂 凰陽(7)
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午後を迎え、昼食を終えた僕達は、改めて式典会場に足を運んだ。
しかし。まさか賽原があそこまで大食漢だなんて想像できなかった。
ハンバーガーセットを調子に乗って4つも注文して(当然ながらレジの店員さんは引いていた)、所持金が足りなくなって僕と魅守部長補填する羽目になってしまったじゃないか・・・
今月の小遣いの3分の1を犠牲に、僕は賽原と飯を食いに行くことは絶対によした方がいいと学んだのだった。
会場に着くと、開会前ということで、朝来たよりも多くの人が集まっていた。
そのほとんどが、肌が小麦色に焼けて、引き締まった身体付きをしている健康マニアと思しき人達だ。
早速この場所を、自分たちにとって新たなスポットになるだろうと勘付いたのだろう。
そんな人達の集いの中で、肌が白く、筋肉質でもない高校生3人は何だか浮いてるんじゃないかと不安に駆られる。
魅守部長は、日ごろから鍛えてそうなのだが・・・
そんなソワソワする僕らの横で、心堂会長は更に落ち着かない様子だった。
もうそろそろ、死に別れた弟を一目見ることができると思うと、やはり緊張してしまうようだ。
「大丈夫ですよ、心堂会長。そんなにドキドキしなくても。」
「ええ。分かってはいるんですが、やはり弟の晴れ舞台ですので・・・」
今の心堂会長が去年、初の公式戦に出場した真叶を応援しに来た僕とオーバーラップして、おかしくなる。
幾つになっても、下の兄弟のことが心配になるの、分かるな。
トントン・・・
不意に肩を指で叩かれ、振り返ると、賽原が何やら神妙な面立ちをしていた。
「何、賽原。そんな怖い顔して・・・」
「櫟先輩、あそこ・・・」
見ると、先刻に穏やかじゃない表情で相談事をしていた一団が、また集まっていた。
だが心なしか、朝見た時よりも人数が増えてる気がする。
「なんかヤバいんじゃないですか、あの人たち。」
「えっ、そうかなぁ。確かに顔はおっかないけど、別段気にすることでもない気がするぞ。」
「いいえ、私には分かります。あれは何か途轍もない無茶なマネをしでかすヤツの目です。」
コイツが過去にそのような人達を見てきたのかどうか疑問だったが、そう決めつけるのはよくないと僕は賽原を窘めた。
「あんまそういう思い込みはしない方がいいと思うけどなぁ。さすがに失礼極まりないし。」
「用心するのに越したことはないですよっ。ここは一旦様子見した方が・・・」
賽原が心配するのを余所に、壇上に司会進行の女性が登壇した。
「皆様、本日はお忙しい中、我がSHGの新施設の完成披露除幕式にお越しいただき、誠にありがとうございます。大変お待たせして申し訳ございません。ただ今より、開会に移らせて頂きます、それではまず、当グループの会長、心堂 澪彦さまにご登壇して頂きます。それでは心堂会長、よろしくお願いいたします。」
周囲を拍手が包む中、壇上に心堂会長の弟、澪彦さんが上がった。
パリッとしたスーツに身を包んだ、白髪の黒染め残しがある、少し丸顔のご老人だった。
「ミオ・・・」
およそ七十年ぶりに見た弟の顔、心堂会長はまさに感無量といった表情を見せた。
「え~皆様、今日はお忙しい中、お時間を割いていただき、誠に感謝いたします。この施設は、私にとっても大変思い入れのあるものなので、こうしてオープンの日を迎えることができて大変嬉しく思います。え~当施設の構想に着手した理由としては、私の・・・」
「ふざけんな!!」
突然後方からマイクで怒鳴り声が聞こえ、僕達は一斉に後ろを振り返った。
そこには、先ほど賽原との話題に上がっていた人々の集まりがあった。
マイクのハウリングする音が不気味に会場全体にこだましていた。
「そうだ!!人から生活する権利奪っておいて、なぁにが健康だ!?」
「オレ達はアンタのせいで住んでた場所なくなったんだぞ!!」
「お願いだから私たちの家を帰してよ!!」
「このろくでなしのクソジジイが!!」
人々が澪彦さんに浴びせる罵詈雑言はどんどん大きくなり、とうとう壇上に向かって空き缶やゴミを投げつける者まで出てきたため、それを制止しようとする警備員との間で半ば乱闘状態に発展してしまった。
ここにいては危険だと察した僕達は、急いで会場から避難することにした。
「はぁ、はぁ・・・何なんだよ一体。」
「どうしたのいうのだ、あの人達・・・」
「だから私は離れた方がいいって・・・」
息が絶え絶えになりながら、当惑する僕達だったが、心堂会長は更に頭の整理が追い付いていないように見えた。
まさか再会を果たした弟が、見ず知らずの人達から袋叩きに遭うことなんて、考えもしなかったのだから。
しかし、これは一体どういうことだろう。
何故一体こんなことに・・・
「いやぁ、さっきはビックリしたな~」
「ホントよね~でもあんな事が起こるなんて、やっぱあのウワサは事実だったってことかもよ?」
近くで会話をするカップルが何か事情を知っているみたいだったので、僕達は彼女たちに話を聞くことにした。
「実はね、ここには賃貸マンションがあったんだけど、ここを建てるってなった際に会社が住民に中途半端な説明しかやらなくて、強制退去に近い形で追い出したんらしいよ。そん時、路頭に迷った家族とかも結構いて、あの会長、相当恨み買ってるらしいよ。」
知らなかった。
昨日ネットニュースを見た時は、そんな話題一切上がってなかったから。
もしかしたら、会社からの何かしらのプレッシャーでもかけられていたというのか。
「そんな・・・ミオが、そんな、ひどい、こと・・・」
事情を聞き、心堂会長は口を手で押さえ、ひどく狼狽し始めた。
「心堂、会長・・・」
僕が話しかけた途端、心堂会長は奥歯をギリっと噛み締めて、式典会場の方向へと駆け出した。
止めようとしたができず、僕は離れていく心堂会長の背中をただ見ることしかできなかった。
しかし。まさか賽原があそこまで大食漢だなんて想像できなかった。
ハンバーガーセットを調子に乗って4つも注文して(当然ながらレジの店員さんは引いていた)、所持金が足りなくなって僕と魅守部長補填する羽目になってしまったじゃないか・・・
今月の小遣いの3分の1を犠牲に、僕は賽原と飯を食いに行くことは絶対によした方がいいと学んだのだった。
会場に着くと、開会前ということで、朝来たよりも多くの人が集まっていた。
そのほとんどが、肌が小麦色に焼けて、引き締まった身体付きをしている健康マニアと思しき人達だ。
早速この場所を、自分たちにとって新たなスポットになるだろうと勘付いたのだろう。
そんな人達の集いの中で、肌が白く、筋肉質でもない高校生3人は何だか浮いてるんじゃないかと不安に駆られる。
魅守部長は、日ごろから鍛えてそうなのだが・・・
そんなソワソワする僕らの横で、心堂会長は更に落ち着かない様子だった。
もうそろそろ、死に別れた弟を一目見ることができると思うと、やはり緊張してしまうようだ。
「大丈夫ですよ、心堂会長。そんなにドキドキしなくても。」
「ええ。分かってはいるんですが、やはり弟の晴れ舞台ですので・・・」
今の心堂会長が去年、初の公式戦に出場した真叶を応援しに来た僕とオーバーラップして、おかしくなる。
幾つになっても、下の兄弟のことが心配になるの、分かるな。
トントン・・・
不意に肩を指で叩かれ、振り返ると、賽原が何やら神妙な面立ちをしていた。
「何、賽原。そんな怖い顔して・・・」
「櫟先輩、あそこ・・・」
見ると、先刻に穏やかじゃない表情で相談事をしていた一団が、また集まっていた。
だが心なしか、朝見た時よりも人数が増えてる気がする。
「なんかヤバいんじゃないですか、あの人たち。」
「えっ、そうかなぁ。確かに顔はおっかないけど、別段気にすることでもない気がするぞ。」
「いいえ、私には分かります。あれは何か途轍もない無茶なマネをしでかすヤツの目です。」
コイツが過去にそのような人達を見てきたのかどうか疑問だったが、そう決めつけるのはよくないと僕は賽原を窘めた。
「あんまそういう思い込みはしない方がいいと思うけどなぁ。さすがに失礼極まりないし。」
「用心するのに越したことはないですよっ。ここは一旦様子見した方が・・・」
賽原が心配するのを余所に、壇上に司会進行の女性が登壇した。
「皆様、本日はお忙しい中、我がSHGの新施設の完成披露除幕式にお越しいただき、誠にありがとうございます。大変お待たせして申し訳ございません。ただ今より、開会に移らせて頂きます、それではまず、当グループの会長、心堂 澪彦さまにご登壇して頂きます。それでは心堂会長、よろしくお願いいたします。」
周囲を拍手が包む中、壇上に心堂会長の弟、澪彦さんが上がった。
パリッとしたスーツに身を包んだ、白髪の黒染め残しがある、少し丸顔のご老人だった。
「ミオ・・・」
およそ七十年ぶりに見た弟の顔、心堂会長はまさに感無量といった表情を見せた。
「え~皆様、今日はお忙しい中、お時間を割いていただき、誠に感謝いたします。この施設は、私にとっても大変思い入れのあるものなので、こうしてオープンの日を迎えることができて大変嬉しく思います。え~当施設の構想に着手した理由としては、私の・・・」
「ふざけんな!!」
突然後方からマイクで怒鳴り声が聞こえ、僕達は一斉に後ろを振り返った。
そこには、先ほど賽原との話題に上がっていた人々の集まりがあった。
マイクのハウリングする音が不気味に会場全体にこだましていた。
「そうだ!!人から生活する権利奪っておいて、なぁにが健康だ!?」
「オレ達はアンタのせいで住んでた場所なくなったんだぞ!!」
「お願いだから私たちの家を帰してよ!!」
「このろくでなしのクソジジイが!!」
人々が澪彦さんに浴びせる罵詈雑言はどんどん大きくなり、とうとう壇上に向かって空き缶やゴミを投げつける者まで出てきたため、それを制止しようとする警備員との間で半ば乱闘状態に発展してしまった。
ここにいては危険だと察した僕達は、急いで会場から避難することにした。
「はぁ、はぁ・・・何なんだよ一体。」
「どうしたのいうのだ、あの人達・・・」
「だから私は離れた方がいいって・・・」
息が絶え絶えになりながら、当惑する僕達だったが、心堂会長は更に頭の整理が追い付いていないように見えた。
まさか再会を果たした弟が、見ず知らずの人達から袋叩きに遭うことなんて、考えもしなかったのだから。
しかし、これは一体どういうことだろう。
何故一体こんなことに・・・
「いやぁ、さっきはビックリしたな~」
「ホントよね~でもあんな事が起こるなんて、やっぱあのウワサは事実だったってことかもよ?」
近くで会話をするカップルが何か事情を知っているみたいだったので、僕達は彼女たちに話を聞くことにした。
「実はね、ここには賃貸マンションがあったんだけど、ここを建てるってなった際に会社が住民に中途半端な説明しかやらなくて、強制退去に近い形で追い出したんらしいよ。そん時、路頭に迷った家族とかも結構いて、あの会長、相当恨み買ってるらしいよ。」
知らなかった。
昨日ネットニュースを見た時は、そんな話題一切上がってなかったから。
もしかしたら、会社からの何かしらのプレッシャーでもかけられていたというのか。
「そんな・・・ミオが、そんな、ひどい、こと・・・」
事情を聞き、心堂会長は口を手で押さえ、ひどく狼狽し始めた。
「心堂、会長・・・」
僕が話しかけた途端、心堂会長は奥歯をギリっと噛み締めて、式典会場の方向へと駆け出した。
止めようとしたができず、僕は離れていく心堂会長の背中をただ見ることしかできなかった。
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