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第20話:3年1組 心堂 凰陽(6)

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賽原の提案で、周辺にある歓楽街でウィンドウショッピングをすることになった僕達。

休日ということもあって、様々な店舗が立ち並ぶショッピング通りは、ラフな格好に身を包んだ若者たちでごった返している。

「今の時代、都会はこれほどまでに賑やかになっているなんて、なんだかわたくし、感動しましたっ。」

高校の外では見ることが叶わなかった、物珍しくてとても賑やかな光景に心堂会長も、大層ご満悦の様子だった。

「これだけたくさんあると、どれから回ればどうか迷うな・・・」

「そういう時は、とりま手当たり次第に決めちゃえばいいんですよ~♪」

言って賽原は、人の波が激しい通りの奥を、ずんずん進んで行った。

高1にもなって迷子にならなきゃいいのだが。

「おっ!早速お宝ハッケンしました!こんなのなんてどうですか?」

賽原が指差す方向の先にあったのは、ロリータ趣味ゴリゴリの黒ドレス。

それを見て、僕と魅守部長はドン引きしたが、心堂会長は何だかよく解らない顔になっていた。

「このような装いが、現代の乙女の間で流行って、おいで、なのですか・・・」

こういう時、どう返答すれば、良いのだろうか?

着る分には流行っていない。

だが、として受け取れば、おそらくトレンドの先端を進んでいることだろう・・・

なので、是か非、そのどちらなのか、あまりにも不明瞭だ。

「そうなんです!今の世の中、女の子はこういう格好で未来の旦那様を寄せ付けるのですよ。それは差し詰め、美しい花に擬態するカマキリのように・・・」

「ウソを言っちゃいけません!」というべきなのか迷う。

だってファッションセンスはヘンだけど、こんな服装の女子がいたら、の男たちは目の色変えて寄って来るはずなので・・・

「賽原さん達の時代の若者の美的感覚は、何だか掴みどころが見えませんね。」

心堂会長の頭がクラッシュしてしまう前に、魅守部長が手をパン!っと叩いて「次にしましょう!」と切り替える。

「あ、あれ?皆様、あの服はお買いにならないのですか?」

「え?ああ、そう、ですね。“ウィンドウショッピング”っていうのは、本当に買ったりしないで、みたいなものですから。」

「見ること、自体・・・」

心堂会長は、まだ納得しきれてないようだが、ここは取り敢えず、僕達に合わせることにした。

次に目に留まったのは、ジュエリーショップ。

入店するや否や、魅守部長がガラスボックスの中に飾られた大きなガーネットがはめられた指輪を棚にはりついてかぶりつきで凝視し始める。

「魅守、部長?」

普段の男勝りな魅守部長とは180度違う表情に、僕は困惑を禁じ得なかった。

、これあげたら喜ぶかなぁ・・・?」

「なんか言いました?」

「んん!?ああ、いや・・・何でもない!!」

否定するが、先ほど聞こえた言葉、頬を真っ赤にしたその表情から、。」

「ガーネットって、“一途で忠実な愛”を象徴する宝石らしいですよ、櫟先輩www」

「ばっ、流那くん!余計なこと言いおって・・・」

これはこれは、中々興味深いことを聞いたぞ。

「へ~そうなんだぁ。賽原、ちなみに知ってんの?魅守部長がお熱になってる相手www」

「知ってるも何も、その相手、実は・・・」

「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!もう口を開くなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

魅守部長が賽原の口を物凄い力で塞いだので、僕は賽原の呼吸を助ける、もとい相手の名前を聞き出すため、その手をどうにかどけようとした。

その様子を見て、心堂会長は楽しそうにクスクスと微笑んだ。



◇◇◇



さて、色々お店を巡ったが、まだ式典までもう少し時間があるため、もうしばらく歩くことにした。

その最中、僕の目にある店が入った。

それは、時計屋だった。

他の者にとっては、何の変哲もないどこにでもある時計屋だったが、僕にとっては思い入れのある店だった。

何故なら、今腕につけている時計と、同じメーカーだったからだ。

それでどうして思い入れがあるかというと、この時計は去年、所属していた吹奏楽部の先輩たちと僕のバースデープレゼントを買いに行くために訪れた店で先輩方が買ってくれたものなのだ。

その時ふと思った。

“こうやって部活のみんなとワイワイショップ巡りをする日がまた来るなんて。”

を経験する羽目になった以上、そんなイベントはもう二度と来ないとばかり思っていたが、どうやらそうはならなかったらしい。

過ぎ去った過去と、今起こっている現実を相比して、僕は感慨に耽ってしまった。

「どうかしたんですか、櫟さん?」

心堂会長に話しかけられて、僕はついドキっとしてしまった。

「いや、その、ここ、僕が前の部活で先輩に買ってもらった時計と同じメーカーなんです。」

「そうなのですか。」

「はい、それでついつい懐かしくなっちゃって。」

「お気持ち分かります。人から受け取ったものってとても印象に残りますよね、わたくしも、子どもの頃にお父様から・・・っっっ!?」

突如として目を見開いた心堂会長の視線を辿ってみると、そこには、時計屋に隣接して子ども用の着物を取りそろえた老舗の呉服店の、目玉商品と思しき紅葉柄の着物がショーウィンドウに綺麗に飾られていた。

「間違いありません、この着物、お父様から10歳の誕生日に授かった着物と同じです!」

なんと、これはとんだ偶然ではないか。

「あの頃はわたくしもすごく喜びましたねぇ。それで、他の子たちと遊びに行くにも“これがいい!”ってよく駄々をこねて・・・はっ、そうか。そういうことなのね!」

「な、何がですか?」

「これこそが“うぃんどうしょっぴんぐ”のの醍醐味なのですね。友達同士で楽しくお店巡りながら今、自分が持っている、もしくは自分がかつて持っていた物と同じ品をお店で見ることによって、それらに関する思い出を再び思い出すことが、この流行の真意。」

その推測は若干的外れな気がしたが、僕は何も言わなかった。

だって、それも案外悪くないと、思ったからだ。

「ウィンドウショッピング、わたくし、とっても好きになりました。」

くるっと振り返った心堂会長の満面の笑みを見て、僕は、この部活に入って良かったかもしれないと思った。

「お~い、何をしておるのだぁ!」

「そろそろお昼食べないとマズいですよ~」

時計を見て、僕は式典まで残り1時間に迫ったことを知り、心堂会長を連(憑)れて、急いで魅守部長たちの許へと向かった。
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